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国家公務員の定年引上げ

2021年06月01日

最近、よく「他の会社は、定年年齢をいくつにしてるの?やっぱり引き上げる傾向にあるの?」と聞かれます。今年の4月から改正高年齢者雇用安定法が施行されて、70歳までの就業機会の確保が努力義務化されました。現行の高年齢者雇用安定法が全員の雇用を義務付けているのは65歳までとなっています。以前にもお伝えしましたが、従業員の60歳定年制としている事業主は、さらにその労働者を65歳まで雇用する義務に加えて、65歳から70歳までについて就業機会を確保するための措置を講ずる努力義務を負うことになっています。

そもそもの定年年齢を何歳にしたらよいのか、また60歳以降の賃金などの労働条件をどのように決定したらよいかと悩む会社がとても多いようです。そういった中で、政府は4月に「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。この改正法案には、国家公務員の定年年齢を段階的に65歳へ引き上げることなどが盛り込まれており、民間企業での労働条件を決める際に参考になるのではないかと思いました。

まず、定年年齢ですが令和5年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、13年度には65歳に達して引上げの完成形となります。そして、60歳以降の賃金は当分の間、60歳以前の70%に設定することにしています。次に組織活力を維持するために、管理監督職の職員に対して役職定年制(60歳まで)の導入も行われました。また、65歳定年制の導入にあたって高齢期における多様な職業生活設計の支援も行われることになっていて、60歳以後定年前に退職した者の退職手当は、定年前の退職を選択した職員に不利にならないよう、「定年」を理由とする退職と同様に退職手当の額を算定することとし、あわせて60歳以後定年前に退職した職員については、本人の希望により、いったん退職した後に、短時間勤務者として採用することができる定年前再任用短時間勤務制が導入されています。

民間企業においては先ほどの65歳までの雇用確保措置の義務化と70歳までの就業確保措置の努力義務化が決められています。その現状として、厚労省の2020年「高年齢者の雇用状況」集計結果によると、高年齢者雇用確保措置の実施状況については、65歳までの雇用確保措置のある企業は計99.9%に達していますが、65歳定年企業は18.4%にとどまります。国家公務員での調査によると、できるだけ長く働きたいと回答される者も多くいて、官民にかかわらず高齢期の賃金と老齢年金での生活に不安を抱えているということのようです。民間企業においては今後の定年の引上げに当たって賃金水準や退職金制度の再設計をどうするかということが一番のネックになりそうです。公務員は70%の水準に見直すということになりましたが、民間企業においては、仕事内容に全く変更がないまま賃金だけが下がっているケースも多く見受けられ、同一労働同一賃金との整合性を検討する必要もありそうです。

今、国が対応を求められている高齢期の問題ですが、まずは目の前に団塊の世代の全ての人が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」があります。これは医療・介護費の急増が問題になるということで、すでに消費増税がなされています。そして、この先には「2040年問題」への対応が急を要するといわれています。2040年は、団塊ジュニア世代(昭和46年から昭和49年生まれ)が、65歳以上の高齢期に入るため、65歳以上の高齢者人口がピークとなり、その人口は、約4000万人に達すると推定されています。どのような社会になるかというと、2040年の現役世代の人口は約6000万人となるので、1人の高齢者を1.5人(ほぼ1人)の現役世代で支えることになります。いわゆる「肩車」っていう状態ですね。

コロナ禍の影響で少子化が一気に進み、2021年の出生数が過去最少を更新して、戦後初めて80万人を割り込む可能性があるそうです。日本の人口構造は、生産年齢人口や労働力人口の減少の問題をこれからも抱え続けることになりますが、それは現役世代の負担を意味します。少子高齢化で若者世代の減少が止まらないのであれば、いつまでは働きたいという希望なんて関係なく、高齢者が支え続けなければならないのでしょうね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

「無期転換ルール」見直しへ 不当な抑制策の規制検討

無期転換ルールは、平成24年改正労契法で創設されました。その際、附則により「施行後8年を経過した場合」、見直しの要否を検討する旨定められていました。

これを受け、厚労省では、検討会を設け、改正に向けた議論を開始しました。労契法18条では、有期労働契約期間が通算5年を超えると、労働者に無期転換申込権が生じるとしています。

しかし、通算期間が法定条件を満たしても、権利の行使をためらう(あるいは、よく理解していない)労働者も少なくありません。

一方、企業側についても、契約の回数・期間に制限を設けたり、クーリング期間を挟み込んだりする等により、転換申込みの抑制対策を講じるケースが散見されます。

検討会では、無期転換をバックアップするため、阻害要因の洗い出しや、対策の検討を進めます。併せて、「多様な正社員制度」をめぐるトラブル防止策等についても、提言を行う予定です。

拡大続く「営業秘密持出し」 警察庁の検挙件数

警察庁の統計によると、営業秘密の不正持出しの件数は、昨年1年間で22事件38人に上り、過去最高を更新しました。

検挙事件数は、平成26年が11件、27年が12件、28~30年が18件、令和元年が21件と、増加傾向が続いています。

昨年発生した事案では、人材ビジネス会社で派遣労働者の情報ファイルを複製し、営業秘密を不正に取得したとして、3人の元従業員が逮捕されています。

営業秘密の漏えいは不正競争防止法の規制対象ですが、平成27年の法改正で罰則等が強化され、違反者(個人)には10年以下の懲役または2000万円以下の罰金が科されます。

賞与の変動枠を6割に 70歳までの就労確保

ダイキン工業㈱は、再雇用制度を拡充し、希望者全員を70歳まで継続雇用する制度を整備しました。これに合わせ、賃金制度も仕事内容を評価する仕組みに転換しています。

公的年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられていることを踏まえ、65歳未満と65歳以上に分けて、制度設計がなされています。標準年収としては、従来制度の水準を維持しつつ、賞与に重点を置いて成果配分する点が特色です。

目標に対する成果をA・B・C・標準の4段階で相対評価し、Aでは1.6倍、Bでは1.3倍相当の賞与額を支給します。

2018年から労使間で協議している65歳への定年延長については、今後も検討を続ける方針です。


カテゴリー:所長コラム

時代の移り変わり

2021年05月06日

あるテレビ番組を見ていたところ、視聴者からの投稿で、4歳の娘が板チョコレートを片手に持ち、それを耳に当てて電話ゴッコをしているのを見た父親が「〇〇ちゃん、電話ならこっちのバナナのほうがいいんじゃない?」と声をかけたところ、訝しげな顔をされたそうです。お父さんは、固定電話の受話器をイメージしていたのですが、その○○ちゃんにとっての電話というのはスマートフォンだったんです。よくおじさんが、片手の親指と小指を広げて電話しているポーズをとっている様子をみることがありますが、すでに時代遅れだったようです。今の子供にとっての電話は「板チョコ」だったんですね。時代はどんどん変わっているようです。

以前から「週休3日制」が議論されるようになっています。これまでは、時間が短くなる分、給与が減るのが一般的ですが、給与を減らさない場合には、1日10時間働くことになるので、なかなか制度の導入はすすまなかったように思います。その週休3日制ですが、政府・自民党内で導入論が浮上してきているようです。自民党1億総活躍推進本部は、希望に応じて週休3日を選べる「選択的週休3日制」の普及を目指しているそうです。休日を増やすことが、育児・介護との両立や、地方での副業など多様な勤務形態の後押しになると指摘しています。提言案は政府に提出されるそうですが、政府としては、人件費抑制を目的とした導入をどう防止できるかが課題で、利点としては「日常とは異なる経験が個人の活躍や能力発揮に役立つと提唱しています。そして、週休3日制を安定した雇用と組み合わせることで幸福感や所得の向上が可能となり、社会の安定につながる」としています。少し理解に苦しみますが、ぼくの頭の中もまた時代遅れなのでしょうね。

先日、未払残業代の訴訟について弁護士さんとお話をする機会がありました。何回か法律事務所が未払の残業代について訴えてくるといったことを書いたことがありますが、だんだんと訴訟が増えてきていると話されてました。あと、弁護士が突いてくるポイントも決まっているそうなので、取り上げてみます。まずは、変形労働時間制を導入している会社は要注意です。たとえば、1年単位の変形労働時間制をとる場合には、就業規則にその旨を規定し、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を労働基準監督署に届け出なければなりません。変形労働時間制は、変形期間の働き方が特定されているということが必要です。そこで、求められるのは、所定労働時間、休憩、休日について変形労働時間制を定める規定の中に書いてあることです。弁護士さんがいうには、規定が不十分で、裁判になると変形労働時間制が、否認されるケースがとても多いということだそうです。労働基準監督署が認めている手続きがとられている場合であってもです。裁判になると、一般的な書籍に載っている規定の仕方では対応できないということですので、十分に注意をすることが必要です。

変形労働時間制が否定されると、残業時間が原則通りに計算されるので、大幅に残業時間が増えることになります。あと、ポイントになるのは変形労働時間制の協定書が社内で周知されているかどうか、協定書の従業員代表が民主的な方法で選任されているかどうかといったところです。

また、固定残業手当を支給している場合も注意が必要です。固定残業手当は、毎月決まった時間数の残業代を支払うものです。月の残業時間数が、その決めた時間数に満たなくても支払う手当ですが、その時間を超えてしまった場合には追加して支払うことが求められます。その差額が支払われていなかった場合や含まれている残業時間数が労働条件通知書などによって明示されていない場合は、固定残業手当は認められず、残業代の支払いを命令されます。

通勤手当、家族手当や住宅手当など、残業代の単価を算出する場合に除かれる手当があります。しかし、なんの条件も設けずに、たとえば通勤距離に関係なく一律に同じ金額を通勤手当として支給している場合などは、除くことはできないので、残業代の再計算を命じられます。

これらのことは、以前は認められてきたようなことなので、意外と多くの会社で見られることです。しかし、今では裁判になった場合に、確実に会社が負けてしまうことになるので、早めの対応が必要です。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

「賃上げの流れ」は維持 2021春季労使交渉

春季労使交渉の集中回答日となった3月17日、先行する大手企業では、回答を得た51組合がすべて賃金構造維持分を確保しました。

金属労協の高倉明議長は、「8年連続となった賃上げの流れを継続できた」と総括しました。中小製造業の組合が多くを占めるJAMでも、「大手追従から脱却の流れ」を評価しています。

4月5日時点で連合がまとめた集計結果(2136組合)では、平均賃金方式での定昇相当込み賃上げ額・率は5463円・1.82%(前年比298円・0.12ポイント減)という状況です。

300人未満の中小組合(1369組合)は4639円・1.84%(同169円減・0.09ポイント減)で、率では全体を上回る健闘ぶりです。

「偽装一人親方」を排除へ 労働者性あり2割

国土交通省は、一人親方問題に関する中間とりまとめ案を明らかにしました。「社会保険の加入逃れ」などの不正防止のため、下請ガイドラインを改正する方針です。

実態が雇用形態であることが明らかな技能者を一人親方として取り扱う企業は、下請け企業に選定しないなど規制を強化します。

不適正な例として、①実務経験年数が10年以上なく、建設キャリアアップシステムのレベル3相当以上の技量のない20歳台労働者、➁特定会社に専属従事し、始・終業時刻を指定され、具体的な指揮命令を受けている個人事業主等を例示しました。

防止策として、元請企業に対し、現場入場時のチェックリスト活用、ヒアリング等の実施を求めるとしています。

JILPT(労働政策研究・研修機構)は、過去に「労働者性」が問題となった事案を分析した結果、22.1%で個人事業主に該当しないという研究結果を公表しています。

◆監督指導動向

休業装い不正受給 雇調金の新型コロナ特例 秋田労働局

秋田労働局は、新型コロナ特例の雇用調整助成金を不正受給した事業主名を公表しました。

特例では、助成率や支給上限額を引き上げるほか、通常は休業を実施する前に提出する計画届を不要とするなど、事業主に対するサポートを手厚くしています。

3月31日時点で、雇調金の支給額は全国で3兆1579億円、支給決定件数307万8648件に上っています。

不正はそうした中で発覚したもので、公表対象となった宿泊業者は、実際は勤務していた労働者を休業と偽って水増し申請をしていました。受給した助成金の総額は545万円余で、一部は既に返還されているとのことです。


カテゴリー:所長コラム

デジタル社会の生き方

2021年04月01日

ぼくが大学を卒業後に入社した生命保険会社で同期だった友人が転勤で3年前に金沢支社に赴任してきましたが、この3月に埼玉県のほうに転勤することになりました。懐かしくも楽しい3年間でしたが、最後に二人で送別会をしたときに「最近は、保険の販売に対するノルマがなくなったんだよ。営業職員の新規採用の人数も制限してんだよ。会社は経営方針を変えてきているんだけど“CX”って知ってるか?」

ぼくが勤めていた頃は、保険の販売と採用の2つのノルマが毎月あって、その2回のノルマ達成に本当にシンドイ思いをしていたわけですが、そのノルマが本当になくなったというんです。そして、その後に経営戦略の中心に据えたのが「CX(カスタマー・エクスピアリエンス)」という考え方だそうです。簡単に言うと、生命保険に加入してもらうことを企業利益と考えず、顧客が、保険の加入を考えたときに自社を選んでもらえることこそを企業利益とするのだそうです。保険の販売時や販売後のアフターサービスなどの過程を通じて企業価値の訴求を重視するという意味なのだそうです。今、このCXという概念は大企業を中心に広まっているようです。ただ、この友人に「意味分かってる?」って聞くと「何をしていいのかわからないよ。」と笑っていました。以前、日本製の携帯電話を、ガラパゴス化しているという意味で「ガラケー」と言ったことがありました。一橋大学の神岡教授は、「顧客視点に立って、本当に顧客にとって価値があることは何かを考えることがCXの基本となります。細分化されたサービスがあれば、その個々ではなく全体としてのサービスで評価することが重要です。」と保険業界に対して提言をしています。自社の商品、サービスがどういったものかを顧客に提示することが大切なのではなく、その商品、サービスを利用することで顧客の生活がいかに豊かになるかを顧客自身に経験してもらうことのほうが大切だということなんでしょうね。また、神岡教授は航空会社を例にあげて顧客視点に立つことの実践について話しています。「ある航空会社は定刻到着率の高さをアピールしています。しかし、顧客の立場では、定刻に着陸することに、あまり意味はありません。むしろゲートに何時に着くのかが重要ですよね。着陸後の滑走路で機内に30分待たされることもあるので、着陸した時刻ではなく飛行機から降りた時刻が大切なわけです。つまり、顧客が何を経験したかを見ずに、我社はこれだけ上手くやりましただけでは、真の顧客視点に立ったことにはならないのです。」

デジタル改革関連法関係等6法案が2月9日閣議決定され、現在、令和3年9月1日施行に向けて国会で審議されています。この法案の概要は、IT基本法を廃止して、デジタル社会形成の基本方針などを定めたデジタル社会形成基本法を制定することで、デジタル庁を日本の官民のデジタル化を牽引する司令塔とすることになります。菅首相は、「誰もがデジタル化の恩恵を最大限受けることができる、世界に遜色のないデジタル化を実現したい」と衆院本会議で強調しました。課題は多いようですが、日本のデジタル化に多いに期待したいです。

これから社会の進むスピードがこれまで以上に速くなっていきます。20世紀に比べると、21世紀は情報量だけでも1万倍になっているそうです。18世紀に生きた一人の人間が、生涯を通じて得ていた情報量は、現代人に換算すると、朝刊1週間分程度だそうです。もちろん情報の質も全く違います。

こんな話があります。「一頭のカバが川を渡っているときに自分の片方の目を川に落としました。カバは周囲を必死になって探しました。カバの激しい動きが周囲の水を濁らせました。そのため目の行方はわからず、見つかりません。川岸にいる鳥や動物が、カバに向かって『少し休んだほうがいい』と助言しますがカバは言うことを聞きません。目を亡くしたくないカバは、休むことなく一心不乱に目を探し続け、ついに疲れ果ててその場に座り込んでしまいました。カバが動きまわるのをやめると、川は静寂をとり戻し、カバがかき回して濁らせていた水は泥が沈み透き通って見えるようになったのです。こうしてカバは自分の目を見つけることができました。」( 参照 「座右の寓話」著 戸田智弘)人は何も考えずにぼんやりしているときにこそ、ひらめきが降りてくるという話があるそうです。ひらめきという訪問者は、忙しい人を嫌い、ぼんやりしている人を好むそうです。人はずっと走り続けることは良いことではなく、出来ることでもないので、しばらく走ったら休息をとり、自分の走りを見直すのが賢明だそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

「カスハラ」でマニュアル作成へ 省庁連携し対応策示す

厚労省は、「顧客からの著しい迷惑行為」に関する防止対策の推進に向け、関係省庁横断的な連携会議をスタートさせました。  

対象となるのは、カスタマーハラスメントやクレイマーハラスメント(顧客・消費者・取引先からの悪質なクレームや不当な要求)です。

連携会議には、厚労省のほか、経済産業省、国土交通省、農林水産省に加え、オブザーバーとして法務省、警察庁も参加します。

仕事上で接する顧客等には、会社の就業規則の適用がないため、効果的な対策を取るのは困難です。一方で、企業は労働契約締結に伴い、安全配慮義務が生じ、外部からの迷惑行為についても、労働者の心身の健康確保が求められます。

会議では、職場のパワーハラスメントとの相違点を踏まえた実態調査を踏まえ、令和3年度中にマニュアルをまとめる方針です。

部下の過労死で重過失 取締役に賠償命令

従業員の遺族が脳出血による死亡は長時間労働が原因と訴えた事案で、東京高等裁判所は会社と取締役に2355万円の賠償金支払いを命じました。

営業技術係長だった従業員は、自宅トイレ内で倒れ、搬送先の病院で死亡しました。発症1カ月前の時間外労働は85時間、2カ月前は月111時間など、残業が続く中での脳疾患死です。

争点は、会社の安全配慮義務違反のほか、取締役の賠償責任です。会社法429条1項では、「役員は、重過失によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

判決によると、「直属の取締役は、過労死の危険性を容易に認識できたにもかかわらず、『他の従業員に代わってもらうよう声がけする』等のほか、業務量を減らす実効性ある措置を講じていなかった」と述べ、重過失があったと認定しました。

一方、本社常駐の社長・会長については、遠隔地にある支社の増員検討等には一定の時間が必要であったとし、賠償責任を否定しました。

全国どこでも「居住地不問」 テレワーク化で可能に

転職サービス業のパーソルキャリア㈱は、令和3年4月から、居住地を問わない「フルリモートワーク制度」を順次導入します。

所属長への申請・許可を得て、「原則出社なし」の働き方に移行しますが、その後は住む場所を問いません。

介護のため帰郷したり、配偶者の転勤で引っ越したりしても、当初の所属・業務に変わりありません。ただし、全国に30ある拠点のいずれかに片道2時間程度で出社できることが条件となります。

従来は東京勤務が前提だったエンジニアなどの職種に、転居せずに挑戦することもできます。全社員5500人のうち、職業紹介に従事しない2000人を対象とします。


カテゴリー:所長コラム

70歳までの就業機会の確保の確保が努力義務に

2021年03月01日

新型コロナウィルスの流行で、マスクはもう必須となっていますね。息苦しいこともありますが、顔が半分隠れるというのは、なかなか便利なものだなと思っています。人前であくびしてもわからないし、忍者になったような気分にもなります。そんなマスクですが、東京女子大の田中章浩教授が、日本人と欧米人のマスクに対する心理について興味深い話をされています。

今は世界中の人がマスクをするようにようになりましたが、アメリカのトランプ元大統領が「マスクはしない」と公言するなど以前の欧米ではマスク着用を嫌がる人が多かったようです。この日本と欧米のマスク着用の習慣の違いには、心理学の観点から考えると「コミュニケーションで顔のどのパーツをより重視するか」ということがポイントになっているそうです。メールなどで使われる顔文字を見て、米国人と日本人が顔のどのパーツから感情を読み取っているかを比較した研究があるそうです。日本人は目元で、米国人は口元で感情を読み取る傾向があることが実験でわかったということです。別の研究では、ヨーロッパの人々も口元を重視していることがわかっているとのことでした。

顔の中で一番明らかに感情が表れるのは口元で、一番感情を偽りにくいのが目元だと言われていて、口元は1~2センチは動き、大きく変化しますが、目元は数ミリしか動かない。他方で口元の筋肉は意思で動かせるため感情を偽れますが、目元を意思で動かすことは難しいといわれています。ようするに、感情を表に出す文化の欧米人にとっては、気持ちを読み取るのに口元がわかりやすいし、感情をあまり表に出さない日本人は、意思で動かしにくい目元を見るほうが、相手の意思を読み取りやすいといったことになるそうです。

日本人は口元が隠されてもそれほど気にならないですが、欧米人には相手の感情を読み取るのに重要な口元が隠されたマスク姿は、不気味に見えるためなじめないそうです。日本人が、目元の隠れるサングラス姿を見て怖い印象をもつことと似ているのだと田中先生は話しています。

今年の4月1日から改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会を確保する高年齢者就業機会確保措置を講ずることが事業主の努力義務となります。65歳までは、「雇用」の確保ですが、70歳までは、「就業」機会の確保となっているのがポイントです。就業機会の確保には、業務委託や社会貢献事業への従事といった、これまでにない選択肢が入っています。個人的な意見としては「70歳まで皆が働けるの?」といったところです。なので、「雇用」ではなく「就業」機会の確保、「努力義務」となっているのでしょう。ですが、最近、この法改正や70歳までの人材確保の意味から対応をしたいという企業が増えてきています。制度の概要と主な実務上の留意点をおさらいします。

従業員を60歳まで雇用していた事業主は、その労働者を65歳まで雇用する義務に加えて、65歳から70歳までの就業機会を確保するため次のいずれかの措置を講ずる努力義務を負うことになります。

雇用 ① 70歳までの定年の引上げ ② 定年制の廃止 ③ 70歳までの継続雇用制度の導入

非雇用 ④ 70歳までの継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤ 70歳まで継続的に社会貢献事業(有償)に従事できる制度 の導入

70歳までの継続雇用制度は、65歳までの継続雇用制度とは異なります。まず、大きな違いとなるのは努力義務であることです。基準を設けて対象者を限定することができます。過去の人事考課や出勤率、健康診断結果など具体的、客観的な基準であれば問題ありません。そして、継続雇用先ですが、自社や子会社、関連会社等に加えて、高年齢者を継続して雇用すると契約する他社も含まれています。その他にも、創業支援等措置の導入や業務委託、事業主が行っている社会貢献事業などに従事させることも含まれていて、人生において「引退」という言葉はなくなりそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

賃上げ率は2%を割り込むと予想 コロナショックが影響

日本の実質GDPは2020年度通期でマイナス成長となる見込みで、景況感は若干改善しているものの、景気回復には時間を要する状況です。労働側は昨年同様の賃上げ目標を掲げていますが、賃金コンサルタントの予想では賃上げ率は2%を割り込みそうです。

プライムコンサルタントの菊谷寛之代表は、「景気低迷で消費者物価は8月以降マイナス基調で推移し、有効求人倍率も1.04倍まで低下した。昨年退陣した安倍政権はデフレ脱却を呼びかけた結果、2014年から7年間、2%台の賃上げ率が続いてきたが、新政権の動きは鈍い。2022年のベアは400円前後で、定昇分もやや圧縮される可能性を考えると、賃上げ率は1.8%前後」と観測します。

賃金システム研究所の赤津雅彦代表は、「直近の昨年末賞与は、飲食・生活関連サービス業界で支給停止等も行われた。最低賃金の上昇が一服したことも、賃上げにはマイナスに働く。日本全体で、本気になって知恵を出し合い、『労働価値創造型』賃金等への移行を断行しない限り、賃上げ率が1.7%に届かない可能性もある」と厳しい見方を示しました。

在宅手当の課税取扱い示す 通信費・電気料金でFAQ

働き方改革と新型コロナウイルスが相乗効果となり、テレワークの導入企業が増加しています。国税庁は、そうした状況を踏まえ、「在宅勤務に係る費用負担などに関するFAQ(源泉所得税関係)」を明らかにしました。

基本的な考え方として、在宅勤務の通常経費について、精算方式により実費相当額を支給する場合、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

一方、毎月5000円を「渡切り」で支給するなど、不使用分を会社に返還する必要がないときは、課税所得として取り扱われます。

働き方改革と新型コロナウイルスが相乗効果となり、テレワークの導入企業が増加しています。国税庁は、そうした状況を踏まえ、「在宅勤務に係る費用負担などに関するFAQ(源泉所得税関係)」を明らかにしました。

基本的な考え方として、在宅勤務の通常経費について、精算方式により実費相当額を支給する場合、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

一方、毎月5000円を「渡切り」で支給するなど、不使用分を会社に返還する必要がないときは、課税所得として取り扱われます。

通信費・電気料金の精算方式に関してですが、通信費は通話明細書により在宅勤務に要した部分を計算します。業務のために頻繁に通信を行う場合、一定の算式によることも可能です。

電気料金については、使用した部屋の床面積や在宅勤務日数に基づく計算方法を例示しています。

◆監督指導動向

届出様式の押印廃止 労使協定の留意事項示す 厚労省

政府は行政手続きに際し、押印を廃止する手続きを進めていますが、厚労省でも、労基、労働保険(労災・雇保・徴収)、社会保険(健保・厚年)、派遣法等の手続きに関し、規定の整備を行いました。

労基関連では、使用者のほか、過半数労組(過半数代表者)の押印を要する様式が多々あります。このため、厚労省では、新たな様式の留意事項を示した通達を発しました(令2・12・22基発1222第4号)。

従来、過半数代表者の押印欄があった届出様式には、協定当事者の適格性に関するチェックボックスを設けました。チェックの有無も形式上の要件となります。

就業規則を作成・変更する際の意見書も、氏名の記載で足ります。電子申請の際も、電子署名・電子証明書の添付不要で、入力フォーマットに氏名を記載する形となります。


カテゴリー:所長コラム

全世代型社会保障改革

2021年02月01日

先月、11都府県で緊急事態宣言が再発令される中、コロナ対策が後手にまわっていると、たびたび菅政権は批判されました。そこで、単なる政権批判ではなくて、菅総理のコミュニケーション能力という観点で記事を書いているコミュニケーション・ストラテジストの岡本順子氏の話をとりあげてみます。

現在のコロナの感染拡大の状況においては、誰が総理大臣だったとしてもとても難しい局面だと思いますが、岡本氏はこの未曽有の危機下でわが国のリーダーの「伝える力」のお粗末さが、人々の絶望感や不安を掻き立てているといっています。岡本氏は、菅首相がある約30分の会見内で39回も、語尾に「思います」「思っています」とつけていて、自信のなさや責任逃れの印象を与えてしまっていると指摘しました。「思います」と言った時点で、それは「事実」ではなく、単なる「私見」になってしまうのだそうです。この「思います」は日本人がよく使う表現だそうで、岡本氏がコーチングをしている企業のエグゼクティブの中でも、気が付かないうちに多用している人は少なくないと言っています。また、菅総理は、「改めてコロナ対策の強化を図っていきたいと思います」「不要不急の外出などは控えていただきたいと思います」「国民の皆様と共に、この危機を乗り越えていきたいと思います」ではなく、「強化を図ります」「控えてください」「危機を乗り越えます」と強く短く言い切ればいいだけのことなのに、ついワンクッション置いてしまうことで、丁寧さや謙虚さを感じる一方、自信のなさや責任のがれという印象を与えてしまっているようです。「やりぬきます!」ではなく、「やりぬきたいと思います」では、真剣度が全く違って聞こえるし、「思います」がつくことで「一応、やってみるけど、出来なかったら勘弁してね」というニュアンスになってしまうし、また、岡本氏は菅首相が「言葉よりも、実行である」と信じ、マジメに仕事をし、成果を出すことで国民に報いたいと考えているのかもしれないが、しっかりと国民に向き合い、対話をし、納得させるコミュニケーション能力なくして、リーダーシップは発揮しえないと指摘されました。私たちにとっても非常に参考になる話ではないでしょうか。

政府は昨年12月15日に「全世代型社会保障改革の方針」を閣議決定しました。その中には、少子化対策として、①不妊治療への保険適用等、②待機児童の解消、③男性の育児休業の取得促進を進めることとされ、また後期高齢者(75歳以上)の自己負担割合の在り方として、後期高齢者であっても課税所得が28万円以上(所得上位30%)及び年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)の者に限って、その医療費の窓口負担割合を1割から2割に引き上げることとしました。(現在、現役並所得者は3割)

とくに後期高齢者の医療費窓口負担の引上げは、令和4年(2022年)には、団塊の世代が75歳以上の高齢者となり始める中で医療費の増大が予想されるために待ったなしの課題となっています。厚生労働省の調査結果によると、人口一人当たりの国民医療費を年齢別で見ると65歳未満は15万8900円であるところ、65歳以上になると67万3400円と跳ね上がり、さらに75歳以上では83万円にもなっています。逆に医療費の年代別の自己負担は、65~69歳が8万9316円で最も高額であり、75~79歳 6万4401円、50~54歳 5万0212円、30~34歳 2万6005円となります。ちなみに最も金額が低いのは20~24歳の1万7804円です。単純な感想ではありますが、両方の数字から感じるのは自己負担額に対する国民医療費の額の大きさです。

さらに、75歳以上の医療費は、本人の窓口負担を除いて、公費が約5割、現役世代からの「支援金」が約4割、残り1割は高齢者の保険料で賄うことになっています。現役世代が、「支援金」という名目で高齢者の医療費を負担しているということです。現役一人当たりの相当額は、2020年の年6万3000円から2025年には年8万円に増えるといわれています。自己負担割合の2割への引上げは、反対もあるかと思いますが、菅首相が将来の世代の負担を減らすことを考えたうえでの結果ということですね。菅首相が目指す社会像は、「自助・共助・公助」そして「絆」と言われています。これは非常に厳しいことですが、まずは自分でやってみるという自助があって、その国民一人一人の努力が、全ての世代が公平に支えあう「全世代型社会保障」への改革を更にすすめるということになるようです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

傷病手当金・育休の保険料免除等を見直し 医療保険改革で議論を整理

医療保険改革に向け、政府の全世代型社会保障検討会議の議論とあわせ、厚労省でも議論のとりまとめが行われています。

傷病手当金の支給上限期間は1年6カ月と定められていますが、現行は途中で就労可能となり、支給が中断しても、上限は延びない規定となっています。「治療と仕事の両立」の観点から、断続的な労務不能期間を「通算」して上限を適用する形に改めます。

75歳以上高齢者の窓口負担は、現役並所得者3割、それ以外1割となっていますが、「それ以外」のうち年収200万円以上は2割負担に引き上げます。

育児休業期間中の保険料免除に関しては、短期取得者に関する規定を整備します。現行は休業が月をまたぐ場合のみ免除の対象としていますが、2週間以上休業も対象とします。

任意継続被保険者については、「2年経過」「保険料未納付」等の法定要件に該当する場合のほか、本人の選択により任意脱退も認める規定に改正する方針です。

「口外禁止条項」は違法 今後の審判に影響も

労働審判の内容を口外しないという禁止条項について、長崎地方裁判所は、バス運転士の訴えを認め、同条項は違法という判断を示しました。

雇止めにあったバス運転士は労働審判を申し立て、会社側が230万円の解決金を支払って、労働契約を終了するという内容で審判が確定しました。その際、「正当な理由のない限り、第三者に内容を口外しない」という条項が付されていました。

しかし、バス運転手は、会社側要望により、調停案に口外禁止条項が追加された際、「裁判への協力を約束してくれた同僚には、和解成立を報告したい」と訴えるなど、明確に反対する意思を表明していました。

判決文では、「将来にわたり義務を負い続けることは過大な負担を強いるもので、審判の経過を踏まえたものといえず、相当性を欠く」という判断を示しました。

口外禁止条項の違法性に関する判断は初めてとみられ、年間500~600件ほど発生している他の審判にも影響を与える可能性があります。

初任給据置きが5割超える 全学歴で引上げ率1%未満に

経団連が公表した2020年3月卒「新規学卒者決定初任給調査結果」によると、初任給を据え置いた企業は57.4%で、前年比15.0ポイント増加し、2017年以来3年ぶりに5割を超えました。

前年の初任給から引き上げた企業は42.6%、引き下げた企業はゼロでした。学歴別にみると、大学卒・事務系21万8472円、高校卒・技術系17万3939円等という状況です。

引上げ率は、大学卒・技術系で前年比0・55%増、高校卒・現業系0・83%増などで、全学歴で1%未満となりました。

初任給の推移をみると、2014年以降、業績の回復・拡大によって、横ばい傾向から増加に転じていましたが、2020年は、短大卒・事務系で引上げ率が0.34ポイント低下するなど、伸び率の鈍化が目立つ結果となりました。


カテゴリー:所長コラム



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