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精神障害の労災認定基準改正の影響

2024年03月01日

昨年、金沢地検の50代の男性検察事務官が、捜査の協力関係にある機関の職員に電話で「そんなことサルでもできるでしょ」などと発言したとして戒告の懲戒処分にしたと報じられました。事務官は職員とのやりとりで「捜査協力しないのなら捜査妨害やぞ」「そちらの上司に言いふらすぞ」「そんなことも知らないのか」とも発言したそうです。事務官は「要望にそった回答が得られずいらだった」と話しました。

パワーハラスメントに対する社会からの風当たりがどんどん強くなっています。数年前であれば、強く注意しただけで済んだことが済まなくなってきています。先日、ある都市の監督署に用事があり訪問した際に、そこの副署長さんと話す機会がありました。その副署長さんは、本当に業務がどんどん大変になっていると話してくれました。パワハラがあって精神疾患が発症したことについて労災認定を求めることに加えて、最近では職場でパワハラがあるため家に帰って毎日のようにお酒を飲まずにはいられずアルコール依存症になったとか、パワハラが恐くて胸がドキドキするようになった、これは狭心症だとかいって労災申請がガンガン出てくる。それらが労災認定されるケースがドンドン増えているということでした。「それじゃ何でも労災になるのでは」と、その副署長さんに問うたところ、「現状はそうなっています。」という返事でした。部下を持つ上司の方々は、部下の指導に当たって、正しい知識を身につけておく必要があるようです。

これらのことは、2023年9月の精神障害の労災認定基準の改正が影響しているようです。従来、精神障害、自殺の事案があり労災申請がされた場合、2011年に策定された「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づき労災保険の支給決定が行われてきましたが、現在は新たな認定基準により決定されているということです。今回の改正は、「業務による心理的負荷評価表」の見直しが大きなポイントといわれています。その負荷評価表の改正項目は次の4つです。①カスタマーハラスメント項目を追加②感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したことによる負荷を追加③パワーハラスメントの全6類型を明記④性的指向・性自認に関するハラスメントを明記、となっています。また、注意しなければならないのは、精神障害の悪化について業務起因性が認められる範囲が見直されて広くなっていることです。従来はもともと精神疾患を持つ治療が必要な労働者が、心理的負荷がかかる業務に従事した際、特に強い心理的負荷となる出来事がなければ労災認定されませんでしたが、業務による強い心理的負荷により悪化した場合には、専門家による判断のうえで、悪化した部分について労災認定される可能性があるようになったそうです。そして、精神疾患の既往歴があり、通院、服薬を継続しているものの、症状がなく病状がすでに安定していて、通常勤務を行っている場合については、悪化ではなく新たな発病として判断されることになったということです。最近、入社後数か月しか経っていないのに職場でのパワハラを理由に精神疾患を発病したという労働者が増えていることが気にかかるところです。そうした場合には、本当の原因がわからず事業主も対応に苦慮することが多く、今後はますます入社時の健康状態の見極めが重要になるのではないでしょうか。

職場におけるパワハラ対策義務化は、2022年4月1日以降中小企業にも適用されていて、対応が済んでいる企業も多いと思います。厚労省が公表した「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争における相談、助言・指導の申出、あっせんの申請の全項目で、「いじめ・嫌がらせ」の件数が最多となっているそうです。この傾向は長年にわたって続いていることですが、労災申請の可能性が高まっている現在、企業におけるパワハラ対策がより一層求められているといえます。また、被害者が会社に相談していたり、会社がパワハラを把握していながら適切な対応をせず、改善がなされなかったりした場合は労災認定の可能性が強くなります。ありがちですが、見て見ぬふりをしないように、会社としてどうすることが適切なのか検討することが大切です。今回の改正では「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追加されました。いわゆるカスタマーハラスメントです。社外の人たちからのパワハラも今後は企業にとってのリスクになります。カスタマーハラスメントの現場での対応は限界があります。ひどいケースであれば取引中止も含めた検討が必要です。従業員を守るという決断を経営者ができるのか、その経営者の姿勢を周りが見ていることを忘れてはなりません。 (「企業実務2024.1月号」より)

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

育児期残業免除 小学校就学前まで延長 子の看護休暇も拡大対象 来年4月に施行へ

厚生労働省は1月30日、育児に伴う残業免除期間の延長などを盛り込んだ育児・介護休業法などの改正法案要綱を労働政策審議会に示し、「おおむね妥当」との答申を得られました。

改正案要綱では、子を養育する労働者が請求した場合に、事業主が所定労働時間を超えて労働させてはならない労働者の範囲を、現行の「3歳に満たない子を養育する労働者」から「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者」へ拡大するとしました。勤続1年未満や、所定労働日数が週2日以下の労働者に対しては、引き続き、労使協定で適用を除外できます。

子の看護休暇制度については、感染症に伴う学級閉鎖や、子の行事参加にも利用できるようにするとともに、請求できる期間を小学校3年生修了時まで延長します。対象となる行事は改正省令で示す予定としており、子の入園式や卒園式、入学式などが盛り込まれる方向です。労使協定によって勤続6カ月未満の労働者への適用を除外できる仕組みは廃止します。取得理由の拡大を踏まえ、制度の名称は「子の看護等休暇」に変更します。

いずれも施行予定日は来年4月1日。今通常国会に改正法案を提出する方針です。

◆ニュース

見込みも届出必要に 社保適用拡大でQ&A 厚労省

 厚生労働省は10月に控える短時間労働者に対する社会保険適用拡大に関するQ&Aをまとめました。事業所の新規適用時や合併時に、厚生年金保険の被保険者の総数が50人を超える見込みがある場合は、50人を超えた実績がなくても、特定適用事業所該当届の提出が必要としています。該当年月日は50人を超えると見込まれた事実の発生日としました。50人超の要件は、12カ月のうち、6カ月以上50人を超えることが見込まれるかどうかで判断します。

 現行制度では、所定労働時間・労働日数が通常の労働者の4分の3以上に満たない場合であっても、週所定労働時間20時間以上、所定内賃金月額8万8000円以上、被保険者数100人超の企業――などの要件を満たすとき、社会保険を適用しています。10月の適用拡大は企業規模要件を100人超から50人超に緩和するものです。

 雇用時には所定内賃金月額が8万8000円以下だった労働者が、遡及する給与改定によって8万8000円を超えた場合は、給与改定日から社会保険を適用します。業務の都合によって恒常的に労働時間が増加したケースでは、連続する2カ月間要件を満たし、引き続き同様の状態が見込まれる場合に、3月目の初日に被保険者資格を取得するとしています。

◆送検

36協定が期限切れ 15人違法残業させ送検 立川労基署

東京・立川労働基準監督署は、36協定の期限が切れていたにもかかわらず、労働者15人に対し、週40時間を超える時間外労働を行わせたとして、食品加工業者と同社代表取締役を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで東京地検に書類送検しました。

同社は令和5年9月11~17日の1週間において、週40時間を超えて最大39時間の時間外労働を行わせた疑い。直前の7月21日~8月20日の1カ月間は、15人中3人が月100時間を超えていました。定期監督で違反が発覚し、行政指導を挟まずに送検しています。

同労基署は数年前にも同社に定期監督に入り、長時間労働を確認していました。その際、36協定が締結されていなかったため、是正勧告を出して改善を求めました。同社は協定を締結・届出して是正報告しましたが、その後一度も協定を更新せず、期限切れになっていました。今回の定期監督は、当時の違反の記録を端緒に行っています。

同労基署は違反を繰り返した点や月100時間と時間外労働が長かった点を悪質とみて、送検に踏み切りました。36協定の未締結や期限切れは、労働時間に関する違反のうち、定期監督で最もよくみられるものといいます。


カテゴリー:所長コラム


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