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『不思議なこと』に気づく

2023年02月01日

「中国人口減 61年ぶり」ということになったようです。中国は、2022年末の人口で、世界最大の人口大国の座をインドに譲りました。中国の一人っ子政策の影響が大きく国連推計では、1月1日時点の外国人を含めない中国の総人口は14億1175万人で、21年末から85万人減少した一方で、インドの人口は14億2203万人となり、中国は外国人を含めても追いつかないとみられています。世界経済をリードしてきた中国の成長力が衰えるといわれており、アジアのパワーバランスに今後、注目しなければなりませんね。

 昨年、2024年秋に健康保険証を廃止し、「マイナ保険証」に100%切り替えると政府の発表がありましたが、その後「マイナ保険証」への切り替えはあまり進んでいないようです。そんな中で、マイナンバーの利用拡大に向けた法改正案が国会に出されるそうです。法案の内容は、現在は社会保障と税、災害対策の3分野に限定しているマイナンバーの利用範囲の拡大が、法改正を経ずに省令により可能とするものです。国会の審議を経ずに行政の判断のみでマイナンバーの使途拡大が進む恐れがあることや、個人情報漏洩のリスクといったところが国会で議論が交わされることになりそうです。

しかし、そもそもマイナンバーの利用拡大を阻んでいるのは政府であるとの記事を日経新聞が昨年、載せていました。編集委員の大林尚氏の「マイナンバーの呪いを解け」という記事です。そもそもカードを使っていろいろな行政サービスが迅速に行われるようになるなど国民にとって、良い面があるのは明らかです。しかし、マイナンバーがカードの裏面に印字され、番号をカバーで隠すようにするなど、政府自身がマイナンバーは秘匿すべきものという思想を作り上げてしまったと言います。平成28年1月にマイナンバーカードが交付され始めましたが、当初は他人に見られた場合、再発行することも可能とされていましたし、職場でマイナンバーを扱う社員は限定する対応も求められていました。大林氏は「国境をロシアと接するエストニアは、番号で把握した国民の情報を国外のサーバーにも置いている。万に一つの有事の際、国土を支配されても国としての機能と行政サービスを続けるためだ。日本近海のきな臭さを考えると、対岸の火事とは片づけられまい。マイナンバーの呪いを解くのは、私たち自身である。」と話されています。

 次に年金制度改正法についてです。公的年金制度は、長期的に財政の健全性が維持される必要があるため、定期的な検証がなされます。それは財政検証といわれるもので、2004年に導入されました。それ以来、財政検証は5年ごとに実施され、次回は2024年に予定されています。その2024年財政検証が今、注目されています。それは基礎年金の加入期間を現在の40年から45年に延長することが課題に上がっているからです。2019年の財政検証の追加試算の結果で、基礎年金水準の低下防止、年金制度の所得再配分機能の維持・強化に取り組む必要が確認されていますが、経営コンサルタントの小宮一慶氏は、著書「社長の成功習慣」(ダイヤモンド社)で、2019年度の国家予算における社会保障費の額について話されています。「2019年度の予算総額は約101兆円で、その中で最も大きな割合を占めるのは社会保障費です。実に34兆円にも上っているのですが、みなさんはこの数字を見て『不思議だな』と思いませんか?私たちは、毎月、税金とは関係ないところで公的年金保険料や健康保険料などの社会保険料を払っています。それに、年金についていえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がみなさんの年金積立金を預かっていて、それは今160兆円ほどあります。それなのに、年金と医療費のために一般会計からそれぞれ十数兆円も拠出されているのはおかしいと思いませんか?結論を言ってしまうと、『社会保険料だけでは社会保障が成り立たない』からこのような事態になっているのです。(中略)GPIFが預かっている160兆円のお金についても、自分の頭で考えてみましょう。(中略)日本の人口はおよそ1億2600万人ですが、公的年金に加入していない20歳未満の子どもが2116万人ほどいるので、『年金保険料を払っている人と年金をもらっている人』はおよそ1億人いることになります。160兆円をこの1億人で割ると、1人あたりの金額はたったの160万円にしかなりません。」

 小宮氏は、「『不思議なこと』を見つけたら、自分の頭で考えてみることが大切」だといいます。何事にも関心を持って「不思議なこと」に気づけるようにしておくことも忘れないようにしないといけないと思いました。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

労働政策審議会の部会は、今年4月から失業等給付分の雇用保険料率を0.2%引き上げ、法律上の原則どおり0.8%にすることを了承しました。引上げ後の雇用保険料率は1.55%となります。

雇用保険財政はコロナ禍前までゆとりがあったため、料率は法律で定める原則よりも引き下げていました。財政がひっ迫するなか、令和4年度はそれまで労使折半で0.2%だった失業等給付分の引上げを決定。激変緩和措置として9月まで0.2%を維持し、10月以降も0.4%引上げの0.6%に抑えていました。

同措置は今年3月で終了し、4月以降は、失業等給付分を原則どおり0.8%とします。労使で折半する育児休業給付分の0.4%と、事業主が負担する雇用保険2事業分の0.35%は据え置きます。全体の保険料率は1.55%で、うち使用者負担は0.95%、労働者負担は0.6%。

昨年12月16日の部会で使用者委員は、「失業等給付や2事業分の残高が枯渇している状況などを考えれば、保険料の原則復帰はやむを得ない」と理解を示す一方、「使用者の負担増加は賃上げマインドを低下させる懸念がある」と指摘。雇用保険財政の安定化に向けて、一般会計からのさらなる組入れを求めました。

◆ニュース

労働局に「荷主対策チーム」 改善基準告示の改正受け

 厚生労働省はこのほど、トラックなど自動車運転者の拘束時間を定めた改善基準告示を改正するとともに、令和6年4月の告示適用に向けた周知態勢を整えました。

トラック運転者の改善基準告示は、1年の拘束時間の上限を現行の3516時間から原則3300時間、最大3400時間に引き下げるとともに、1カ月の拘束時間の上限を原則293時間から同284時間に変更しました。継続8時間以上の確保を義務付けていた1日の休息期間も拡大し、「継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない」と定めています。

 トラック運送業では、荷主の都合で長時間の荷待ちが発生するケースが少なくないことから、各都道府県労働局に、管内労働基準監督署と労働局の担当官による「荷主特別対策チーム」を立ち上げています。厚労省ホームページ内の情報提供メール窓口に寄せられる情報に基づき、労基署のチームメンバーが発着荷主を訪問し、恒常的な荷待ちの改善に向けた配慮を要請します。

◆調査

残業長いほど増加傾向 コロナ禍における職業生活のストレス調査

 連合は「コロナ禍における職業生活のストレスに関する調査2022」をまとめました。コロナ禍前と比べた仕事や職業生活に関してのストレスの増減について聞いたところ、「かなり増えた」もしくは「やや増えた」と回答した人の割合は36.6%。「かなり減った」と「やや減った」の合計は8.3%でした。


残業時間についてみると、時間が長いほど、ストレスが「かなり増えた」人の割合が高く、具体的には、「10~20時間未満」が12.8%、「20~40時間未満」が14.7%、「40時間以上」が20.7%となっています。 職場でのコミュニケーションについて、「悩み、不満、問題を上司に伝えやすい」と回答した人の割合は、ストレスが増えた人では35.2%でした。ストレスが変わらなかった人などを含む全体の割合(46.3%)と比べて10ポイント以上低くなっています。


カテゴリー:所長コラム

徳を積む

2023年01月05日

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

新しい年が始まるにあたって、古くから徳を身につけようとする人が、最初に読むべき本と言われている「大学」についての話をしたいと思います。(「『大学』に学ぶ人間学」より 東洋思想研究家 田口佳史氏著 致知出版社)

「大学」の巻頭には「大学の道は、明徳を明らかにするに在り」と書かれていて、ここに本義があるといわれています。江戸時代には、立派な人間になりたい人はまず「大学」を読むべしといわれ、今ならば小学校一年生の一学期の最初の授業で教えられていたそうです。まずはこの最初に出てくる「明徳」の意味を理解しないといけませんね。「徳」の概念ですが、本では松下幸之助さんの話が取り上げられています。筆者は、松下幸之助さんに「経営の神様と言われているあなたに、是非伺いたいことがあります。経営者というのは、いかなる条件を持っていないとできないものでしょうか?」と質問します。すると松下さんは即座に「運が強くなければダメだ」と答えたそうです。続けて「運を強くするにはどうしたらいいのですか?」と聞くと、この質問にも間髪入れずに「それは徳を積むことしかない」と答えられました。著者の田口氏は、「運というのは、自分の力を超えた存在である宇宙の哲理に沿った行動を自分に課することが運を強くするためには重要だ」と言います。なかなか難しいですが、自分の人生をしっかり生きようと思えば、天の道理・道義をよく知ることが必要だということになります。松下幸之助さんも「宇宙の哲理を承知していなければ、成功しても結局足をすくわれて惨めな末路になってしまう」といっています。その意味は、「宇宙の大原則に即して生きていくことが成功の秘訣であり、それを言葉や立ち居振る舞いとして表現することが徳なのだ」といい、そして、「そこにはほんの少しもやましいことや私利私欲があってはいけない」とも言っています。

ぼくなどは、「じゃどうしたらいいの?」となりますが、田口氏は、「徳」を「自己の最善を他者に尽くし切ること」だと表現していて、その純粋な形で相手を思いやって自己のベストを尽くすことが大事だという答えに三十年もかかってたどり着いたそうです。この考え方は大成功した人が共通に語っています。松下幸之助さんや稲盛和夫さんはこれを「生成発展」といいます。その意味は、常に世の中は発展していて、その宇宙の原理に則るかぎり、必ず成功するようになっており、成功しないのは自分にとらわれたり、何かにこだわったりして、この自然の法則に則っていないからだということです。

経営コンサルタントの小宮一慶さんは、決して宗教の話をしているわけではないと前置きしたうえで、著書「経営者の教科書」の中で、人を害する、人の不幸を願う、ライバルを蹴落とす、自分だけが良ければいい、などというのは宇宙の原理に反することで、そういった点において自身や自社がより良い商品やサービスをお客様に提供することにより、社会に貢献することが宇宙の原理にかなっていると書いています。また自分や自社も発展を続ける、小宮さんの言葉にすると「なれる最高の自分になる」ように務めることが生成発展にかなっていて、そこに妥協する余地はありません。つまり、自分や自社が成長、発展が出来ているのか、そして常にそうなろうと努力し続けることことが大切だということです。ビジネスの世界は「弱肉強食」ではなく、「優勝劣敗」」であって、会社同士も社員同士もお互いが切磋琢磨して、発展していくことが正しい姿です。「自分の仕事を通じて社会に貢献すること」や「それを通じて働く人が幸せになること」が会社の存在目的であることを十分に理解していれば、そのために頑張ろうと思うことができるし、とくに経営者はしっかりとそのことを認識している必要があります。

中国の古典に「暗いところから明るいところはよく見えるが、明るいところから暗いところは見えない」というのがあります。経営者は明るいところにいて、比較的暗いところにいる部下という舞台の上と下というイメージです。経営者は部下の様子はそれほどよくは見えないけれど、部下たちからは経営者の動きは、とてもよく見えるものだという意味です。この一年、常に他人に見られているという意識をしっかり持ち、行動をしたいと思います。

特定社会保険労務士 末正哲朗  

◆最新・行政の動き

厚生労働省は、コロナ禍で助成内容を拡充している雇用調整助成金について、今年12月から原則として通常の制度に戻す方針を明らかにしました。助成の日額上限は中小企業・大企業ともに雇用保険の基本手当と同額の8355円を維持しつつ、休業手当相当額に対する助成率を中小企業3分の2、大企業2分の1に引き下げます(11月までの助成率は中小企業が原則10分の9、大企業が同4分の3でした)。

とくに業況が厳しい事業主に対しては、来年1月末まで助成額などを上乗せする経過措置を設定します。売上高などの生産指標が最近3カ月の月平均で前年、前々年、または3年前同期比で30%以上減少しているケースが対象。助成上限額は9000円で、助成率は中小企業が10分の9、大企業が3分の2。解雇を行った事業主は順に3分の2、2分の1とします。

新型コロナの影響で小学校などが臨時休業した場合に、子どもの保護者に有給の休暇を取得させた企業に支給する小学校休業等対応助成金については、支給対象となる休暇取得期間を来年3月まで延長する方針。日額上限額は8355円を維持します。

一方、緊急事態宣言の対象区域などの事業主へ日額1万2000円まで支給する特例措置は、11月末で廃止となります。

◆ニュース

労災認定 事業主の「不服」表明可能に 保険料引上げ巡り

厚生労働省は、自社の労働災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する労災保険のメリット制について、事業主が労働保険料の引上げ決定後に「労災認定は違法」として保険料決定に関する不服を申し立てられるよう、行政解釈の変更を行う考えです。近年、保険料決定処分の取消し訴訟において、保険給付支給の違法性の主張が認められるケースが現れていました。

都道府県労働局長が行った保険料引上げの決定を不服として、事業主が厚労大臣に審査請求し、厚労省での審査において労災給付が支給要件に該当しないことが認められた場合、労働保険料の引上げは行わないものとします。一方、労働者に対する支給決定自体は取り消さない方向です。支給決定を取り消せば、いったん支払った給付の回収や支給打ち切りを行う必要が生じることから、支給決定を維持し、給付を生活の糧にしている被災労働者や遺族に甚大な影響が及ぶのを防ぎます。

産業医勧告 不利益取扱い禁止は努力義務 東京高裁

産業医事務所が、労働安全衛生法に基づく勧告権行使を理由に顧客企業から契約を解除されたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は同事務所の請求を棄却しました。

同事務所の産業医は平成31年4月15日、勧告書を顧客企業の代表取締役に手交しました。内容は、同社の総括安全衛生管理者兼人事総務部長が不適切な健康管理運営をしているため、処遇を考えて欲しいというものでした。同社は勧告書の内容を踏まえ、弁護士を選任し、産業医を含めた関係者の聞き取り調査を進めた結果、指摘事項の多くは存在が認められませんでした。認められたものについても緊急の対応は必要なく、法令違反もないとの結論を得て、同年6月19日に産業医との契約を解除しました。

二審の同高裁は一審同様、契約解除を有効と判断しました。同社は勧告書を受け取った際、事実確認のうえ、必要に応じて改善措置を講じると約束しており、勧告権行使は契約解除の理由ではないと評価しています。産業医が同社の言い分に耳を貸さず、労基署の行政指導を示唆するなど、対決姿勢を深めていき、信頼関係破壊に至ったとしました。

勧告権行使を理由とする不利益取扱いを禁止した安衛則第14条4項の規定は「努力義務」と判示。委嘱契約は準委任に当たり、原則双方がいつでも契約解除できるが、安衛法第13条5項が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを考慮し、契約解除が法の趣旨を実質的に失わせている場合は権利濫用に該当するとしています。


カテゴリー:所長コラム

年末年始休業のお知らせ

2022年12月20日

いつもお世話になりありがとうございます。

誠に勝手ながら12月29日(木)~1月4日(水)まで年末年始休業とさせていただきます。

ご迷惑をお掛けいたしますが、宜しくお願いいたします。

2023年も皆様にとって良い1年になりますよう心よりお祈り申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎えください。


カテゴリー:お知らせ

進化するデジタルマーケティング

2022年12月01日

日経新聞に「城崎温泉復活へ宿泊データ共有」という記事がありました。兵庫県の城崎温泉が生き残りをかけて宿泊データを地域内で共有し始めたというものです。最上位の企業秘密といえる各旅館の予約データを自動で収集・分析するシステムを構築し共有することで、各旅館は他の旅館や地域全体のデータを参考にして、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かしているそうです。これまでは「いつどこから観光客が来ているのか、今までは正確に把握できていなかった」のが、ウェブのプラットフォームを使い、予約の日程、人数、金額、予約者の居住地域などを自動で収集し、温泉地全体の予約状況を可視化して、数カ月先までの需要を予測できる仕組みを作り上げたということです。個別の旅館名や予約者名などのプライバシーに配慮したうえで、プラットフォームに参加する旅館は自社のデータを提供する代わりに、同価格帯の旅館や地域全体の平均データなどを閲覧できるようになります。そうなると、たとえば「今月に入って東京からの予約が少し増えている」という情報がある時には、都民の誘客に注力するため都民向けの広告を大幅に増やしたり、連休中の同価格帯の旅館データから高価格の需要が見込めると判断できたときには、安売りプランの販売を控えても全客室に予約を入れられたりという成功事例が出てきて戦略がとても立てやすくなったそうです。

城崎温泉が情報共有に踏み切った背景には、新型コロナウィルス禍による旅行需要の激減があります。特に2020年度は観光客数が44万8千人と前年度からほぼ半減していて、旅館業の経営はこれまでの「勘と経験だけ」では立ちゆかなくなりました。それに加えて温泉地にくる旅行客は団体旅行から個人旅行へ移行していて、需要を可視化できる精緻なデータの必要性がますます高まっています。そして温泉旅館は競合するライバルでありながら運命共同体になってきており、また温泉地の活性化が、地域全体の潤いをもたらすという考えから他の温泉地でも個人客の嗜好の多様化を温泉地全体で応える取り組みが行われ始めています。

今、私たちはどんどん進化する「デジタルマーケティング」の時代に生きています。従来のマーケティングの手法に加えて、AIなどのデジタル技術の発達が「進化」をもたらしているといわれます。AIの発達に加えて消費者がネットを活用していることにより、企業は「購買前」のデータを「個別」に取得することが可能になったといわれます。たとえばネット上の購買履歴から、Aさんはどういう商品やブランドをよく買い、何と何を比較した後にどういう商品を買っているかということが分かり、また購入の時間帯も分かるので、企業側は、かなり精緻な「購買前」のデータを取得して、それに応じた個別の提案が可能になっています。その手法は現在の個人の嗜好の多様化にとてもマッチします。このように収集されたデータが、今後ますます、マーケティングだけでなく企業の戦略立案に大きな影響を与えることは間違いなさそうです。

ちなみにマーケティングといえばやはりドラッカーですね。ドラッカーのマーケティングの本質をついた言葉と言われているのが、「マーケティングの目的は、セリングを不要にすることなのである。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ。理想を言えば、マーケティングは製品なりサービスを買おうと思う顧客を創造するものであるべきだ。そうすれば、あとは顧客がいつでも製品やサービスを手に入れられるようにしておきさえすればいい。」(ピーター・ドラッカー『マネジメント』)です。ドラッカーは、マーケティングの目的は「セリング(営業活動)」を不要にすることだといいます。つまりマーケティングができていれば営業活動をしなくても商品やサービスは売れるということになります。言い換えると、企業が存続を許される条件は、良い商品やサービスを顧客に提供し続けることが必要だとなります。同じように松下幸之助氏は、社会の発展や人々の生活の向上のために企業が商品やサービスを提供することを行えている限り企業も生き残り、発展すると語っています。マーケティング活動が企業の存在意義そのものだと言われる所以です。ぼくもお客様のお役に立てる存在であり続けられるように努力して、常に謙虚でいられるなら長く社労士をさせてもらえるのであろうと信じています。(参照:「小宮一慶の実践!マーケティング」日本経済新聞出版社)

特定社会保険労務士 末正哲朗

最新・行政の動き

厚生労働省は、コロナ禍で助成内容を拡充している雇用調整助成金について、今年12月から原則として通常の制度に戻す方針を明らかにしました。助成の日額上限は中小企業・大企業ともに雇用保険の基本手当と同額の8355円を維持しつつ、休業手当相当額に対する助成率を中小企業3分の2、大企業2分の1に引き下げます(11月までの助成率は中小企業が原則10分の9、大企業が同4分の3でした)。

とくに業況が厳しい事業主に対しては、来年1月末まで助成額などを上乗せする経過措置を設定します。売上高などの生産指標が最近3カ月の月平均で前年、前々年、または3年前同期比で30%以上減少しているケースが対象。助成上限額は9000円で、助成率は中小企業が10分の9、大企業が3分の2。解雇を行った事業主は順に3分の2、2分の1とします。

新型コロナの影響で小学校などが臨時休業した場合に、子どもの保護者に有給の休暇を取得させた企業に支給する小学校休業等対応助成金については、支給対象となる休暇取得期間を来年3月まで延長する方針。日額上限額は8355円を維持します。

一方、緊急事態宣言の対象区域などの事業主へ日額1万2000円まで支給する特例措置は、11月末で廃止となります。

◆ニュース

労災認定 事業主の「不服」表明可能に 保険料引上げ巡り

厚生労働省は、自社の労働災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する労災保険のメリット制について、事業主が労働保険料の引上げ決定後に「労災認定は違法」として保険料決定に関する不服を申し立てられるよう、行政解釈の変更を行う考えです。近年、保険料決定処分の取消し訴訟において、保険給付支給の違法性の主張が認められるケースが現れていました。

都道府県労働局長が行った保険料引上げの決定を不服として、事業主が厚労大臣に審査請求し、厚労省での審査において労災給付が支給要件に該当しないことが認められた場合、労働保険料の引上げは行わないものとします。一方、労働者に対する支給決定自体は取り消さない方向です。支給決定を取り消せば、いったん支払った給付の回収や支給打ち切りを行う必要が生じることから、支給決定を維持し、給付を生活の糧にしている被災労働者や遺族に甚大な影響が及ぶのを防ぎます。

産業医勧告 不利益取扱い禁止は努力義務 東京高裁

産業医事務所が、労働安全衛生法に基づく勧告権行使を理由に顧客企業から契約を解除されたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は同事務所の請求を棄却しました。

同事務所の産業医は平成31年4月15日、勧告書を顧客企業の代表取締役に手交しました。内容は、同社の総括安全衛生管理者兼人事総務部長が不適切な健康管理運営をしているため、処遇を考えて欲しいというものでした。同社は勧告書の内容を踏まえ、弁護士を選任し、産業医を含めた関係者の聞き取り調査を進めた結果、指摘事項の多くは存在が認められませんでした。認められたものについても緊急の対応は必要なく、法令違反もないとの結論を得て、同年6月19日に産業医との契約を解除しました。

二審の同高裁は一審同様、契約解除を有効と判断しました。同社は勧告書を受け取った際、事実確認のうえ、必要に応じて改善措置を講じると約束しており、勧告権行使は契約解除の理由ではないと評価しています。産業医が同社の言い分に耳を貸さず、労基署の行政指導を示唆するなど、対決姿勢を深めていき、信頼関係破壊に至ったとしました。

勧告権行使を理由とする不利益取扱いを禁止した安衛則第14条4項の規定は「努力義務」と判示。委嘱契約は準委任に当たり、原則双方がいつでも契約解除できるが、安衛法第13条5項が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを考慮し、契約解除が法の趣旨を実質的に失わせている場合は権利濫用に該当するとしています。


カテゴリー:所長コラム

日本の近代化

2022年11月01日

群馬県にある富岡製糸場が今年10月4日で開業から150周年を迎えたと聞き、東京出張の帰りに立ち寄ってみました。富岡製糸場は、明治5年(1872年)に明治政府が設立した日本初の官営の製糸工場で、2014年に世界遺産に登録されてからは来場者数が年100万人を超えることもあるそうです。

当時の日本の外貨獲得のために重要な輸出品であった生糸の品質向上と増産のために器械製糸技術を普及させる目的でフランス人技術者を招いて設立され、そこには渋沢栄一も深く関わっていたそうです。そして富岡製糸場は、後に日本の製糸技術を世界一の水準に引き上げる原動力となりました。その建物の構造は西欧の建築方法によるものですが、屋根は日本瓦で葺くなど、日本と西洋の技術を見事に融合させたものになっていて、主要な施設が創業当時のまま、ほぼ完全に残されていました。

展示物の中で一番興味深かったのは、当時の女性工員(女工)の労働条件に関するものです。富岡製糸場は、明治日本の威信をかけた官営の模範工場で、生産技術だけでなく、労働環境もフランス式に整備されており、1日8時間労働や夏冬の長期休暇など、明治期の労働環境としては、世界でもまれなほど恵まれていたようです。展示資料によると設立当初に働いていた女工は約400人いて、勤務時間は年平均1日7時間45分、休日は日曜日(七曜日制が導入)のほか、暑休(夏休み)や年末年始の休暇もあったようです。給料は能率給による月給制で、習熟によって昇給がなされていました。そして福利厚生面では、女工には宿舎が用意され、食事も支給されていて、入浴も毎日できたそうです。また場内の診療所では、診察料および薬代は工場の負担で診療が受けられました。在勤期間についても、1年以上3年まで女工の希望によることとされていたそうです。しかし、1872年2月に始まった工女の募集ですが、「フランス人が工女の生き血を採って飲む」という噂が流れて思うように進まなかったそうです。

その後、明治26年(1893年)に民間に払い下げられて以降は、生糸の量産化に貢献し近隣農家の養蚕技術の改良にも主導的役割を果たすことになります。その一方で、利益を追求するあまり、民営化以降は、工女たちの就業時間は徐々に長くなり、1日10~12時間に及び、休日も月2日となるなど労働環境はだんだんと悪化したそうです。富岡製糸場で訓練された女工たちは、その後、地元の工場に戻り中心となって活躍しますが、その地元の工場の労働環境はかなり劣悪だったようです。当時の製糸工場の労働時間は、14時間以上で、休日は年末年始と旧盆に数日しかなく、工場内では、熱湯を使用するため工場内の湿度は上がり、水蒸気が天井で冷やされ、大粒の水滴が雨のように落ちてくる中で、女工はずぶ濡れになって働いていており、結核で命を落とす女工も多くいたそうです。

そうした労働環境が、現在の労働基準法の前身となる「工場法」の制定につながります。明治の前期から政府は日本国内における職工や工場に関する状況の調査を開始します。この調査をもとに法案の作成が進められますが、業界の反発や日清、日露戦争の勃発によって難航しました。日露戦争終結後の1909年(明治42年)に政府は議会に工場法案を提出することになりますが、繊維産業や中小企業を中心とした反対が強く法案は撤回となりますが、その後の努力により1916年(大正5年)9月1日についに施行されました。そして工場法施行に伴い警視庁と大阪など8道府県の警察部に工場監督官が設置されます。労働基準監督署の前身なのでしょうね。しかし工場法は、10人未満の小規模工場には適用されなかったため多くの工場が適用除外となり、労働者保護には不十分だったそうです。そして戦後になり工場法は戦前の労働者法規を集大成した労働基準法に形を変えていくことになるわけです。

今年10月14日には、明治時代の1872年に日本初の鉄道が新橋-横浜間で開業して150周年を迎えています。開業当時の列車は時速30キロ程度だったそうですが、徒歩で一日がかりだった新橋-横浜間は約1時間に短縮されたそうです。今の世界は150年前と同じく第四次産業革命の時代だと言われています。AIとロボットが生産性を向上させて、社会が大きく変化し、私たちの生活も大きく変わろうとしています。乗り遅れないようにしなければならないですね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

厚生労働省は令和5年度、時間外労働の上限規制の適用が猶予されている業種などにおける長時間労働の解消を後押しするため、働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)を新設する考えです。

適用猶予分野(建設事業、自動車運転の業務、医師、砂糖製造業〔鹿児島県・沖縄県〕)の中小企業が対象で、労働時間短縮に必要な経費の4分の3を支給します。具体的には、①就業規則の作成・変更費用、②労務管理担当者や労働者への研修費用、③専門家によるコンサルティング費用、④労務管理用機器の導入・更新費用、⑤労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新費用、⑥人材確保に関する費用となっています。労働能率増進設備としては、運送業における洗車機や、建設事業での土木工事積算システムなどが想定されます。

支給上限額は、分野ごとに定める成果目標の達成状況に応じて設定。自動車運転業務では、36協定見直しによる時間外労働の削減と勤務間インターバル制度導入で最大400万円を支給します。

建設事業では、協定見直しと週休2日制の導入で計350万円まで支給。休日については、4週4休から4週8休まで、休日が1日増加するごとに25万円、最大で100万円を支援する方針です。

◆ニュース

荷主へ周知徹底を 改正改善基準告示で報告

労働政策審議会の自動車運転者労働時間等専門委員会は、自動車運転者の改善基準告示の見直しに関する報告書を取りまとめました。

バスとタクシー・ハイヤーに関する見直し案を示した今年3月の中間報告の内容に、同委員会の作業部会が9月にまとめたトラックの見直し案を追加したもので、いずれの業態も拘束時間の削減と休息期間の拡大を図る内容となっています。全業態で継続8時間としていた休息期間を「継続11時間を基本とし、9時間を下限」に見直すとしました。拘束時間は、トラックが現行の1年3516時間から原則3300時間に短縮、バスが3380時間(年換算)から原則3300時間に短縮となります。

改正告示の履行確保を図るため、荷主や貸切バス利用者など発注者側にも周知すべきとしました。とくにトラックについては、長時間の荷待ちを発生させないよう荷主に対して労働基準監督署による「要請」を実施することが適当と指摘しています。

デジタル払い 来年4月スタートへ 口座残高上限100万円に

厚生労働省は、賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払い)を可能とする労働基準法施行規則の改正省令案を明らかにしました。

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進むなか、労基則を改正し、一定の要件を満たす資金移動業者の口座への賃金支払いも行えるようにします。

改正によって賃金の支払い先として追加されるのは、資金決済法上の「第2種資金移動業」を営む移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた移動業者の口座。労働者の同意を得た場合に、本人が指定する口座へ支払うことができます。

指定要件には、口座残高上限額を100万円以下とすることや、ATMを利用して1円単位で通貨を受け取れることなどを盛り込みます。企業には、賃金支払い方法の選択肢として、銀行口座や証券総合口座への振込みなども労働者に示すよう義務付けます。公布は今年11月、施行は来年4月1日の予定となっています。


カテゴリー:所長コラム



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