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早起きの実践

2024年01月05日

 2024年1月から新しいNISA制度が始まります。通常、株や投資信託の売買で生じた利益には、20.315%の税金がかかりますが、NISA口座で買った場合、将来どれだけ儲かっても税金がかからないという制度です。最近、モノの値段が上がっています。食品や日用品は言うに及ばず、電気代から通信費、ガソリン代などさまざまな「値上げラッシュ」を日々実感しているところです。原因として、コロナ禍で停滞した経済活動の反動や人手不足が深刻化しているとか、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が上昇しているとか理由はさまざま挙げられています。では、それらの原因が解決したら物価は下がるのかということですが、もう物価は以前の水準には戻らず、さらに上昇し続けると言われます。なぜかというと世界経済はすでに完全なインフレ基調だからだそうです。日銀が1999年に「ゼロ金利政策」を導入して以降、ほぼ一貫して金融緩和政策がとられました。つまり日本はもう30年以上もの間、インフレではない状態が続いてきたわけで、インフレを知っている人はほとんどいません。以前、老後2000万円問題が話題になったこともあって「貯蓄から投資へ」の風潮が強まったことがありましたが、いまだに日本の金融資産約2053兆円のうちの50%超を「現金・預金」が占めています。インフレに強い資産とされる株式や投資信託などは15.4%しかありません。現預金を貯めこんでいる人は、インフレでどんどん貧しくなっていると言われます。というのもインフレではモノの価値が上がる一方でお金の価値が下がるからです。例えば、仮にこの先、年2%のペースで物価上昇が続くとした場合、金庫に2000万円を保管したまま20年後に使うとすると、お金の実質的な価値は約67%にまで減ってしまいます。20年後に現金2000万円はそのままですが、現在の金額に割り戻すと約1346万円となって、約654万円も目減りしてしまうことになります。そもそも、日本の金融政策がおかしいともいえるわけです。昨年暮れに日銀は金融政策会合を開きました。植田総裁が日銀の金融政策について「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」と発言していたことから注目されていましたが、日銀は金融緩和策の現状維持を決めました。マイナス金利政策の解除の見極め段階に入ったといわれていますが、次は今年の1月後半の決定会合で判断されるとのことです。金利の上げは経済への影響も大きく慎重にあるべきだと思いますが、早く正常化してもらいたいと思います。

社会教育家の田中真澄氏が、「八起会」の創設者である野口誠一氏について「到知」2023年10月号で話されていました。野口氏は自身の放漫経営で会社を倒産させてしまい塗炭の苦しみを味わった経験について講演などを通して、伝え続けた方だそうです。八起会には、会社を潰さないための五つの指針「八起五則」(早起き、笑顔、素直、感謝、いい出会い)というものがあり、どれもが会社経営をうまくいかせる大切な心得と言われているということですが、その中でも「早起き」が最も重要な習慣であり、松下幸之助氏や稲盛和夫氏の会社はどこも早起きを奨励していたことや「毎朝七時半までに出勤する社長の会社は倒産しない」として、経営者も社員も共に早起きをして、勤勉な生き方を志向することの大切さを訴えているそうです。田中氏は、「最近はグローバリズムの影響からか、勤勉な生き方や早起きを否定する言論もマスコミで散見しますが、こんな意見に惑わされないことです。日本人は昔から勤勉性を重視し、朝早くから真面目に、誠実に働くことを善しとしてきました。この習慣はどんなに時代が変わっても、未来永劫、変わることのない正しいものなのです。」といいます。また、田中氏の受け持つ大学の講座の中で、「卒業して就職したら、最初の一年間だけでもいいから毎朝、職場へ一番に出社し、整理整頓に努め、早め早めに仕事の準備をして能率を上げること。これを心掛ければ、その後の人生でどれだけ得をするか計り知れないものがあるということです。」と伝え続けたそうです。実際にこの話を実践した卒業生が何人もいたそうですが、その採用先の企業からはその働きぶりに感心したと大学側に連絡がたくさんあったそうです。ぼくもいつの間にか早起きが習慣になっていますが、毎朝、家から外へでたときのまだ世の中が動き出していない空気感が大好きです。それに朝早くからの仕事はずいぶんとはかどりますよ。

人生をうまく生きることや会社経営を成功させることに必要なことはワンパターンで決まっていると言う人がいます。そのことに早く気づいて実践することが必要だそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

応援手当支給へ助成 育休取得時で最大125万円 厚労省

厚生労働省は、育児休業取得者の業務を代替する労働者に“応援手当”を支給する中小企業への助成を拡充しました。両立支援等助成金に新コースを追加する雇用保険法施行規則の改正省令を公布しています。施行は2024年1月1日で、育休中に業務を代替する労働者に手当を支給した場合、育休取得者1人につき最大125万円を支給します。

追加するのは「育休中等業務代替支援コース」です。同コースでは、育休や育児短時間勤務中の業務体制整備のため、業務を代替する労働者への応援手当(業務代替手当)の支給や、代替要員の新規雇用(派遣含む)を実施した中小企業を支援します。

育休中の手当支給に対しては、制度利用者1人当たり、業務体制整備の経費(原則5万円)のほか、手当額の4分の3(最大120万円)を助成します。手当への助成では、1カ月当たり上限10万円で最長12カ月支援します。

時短勤務中に手当を支払う場合は、業務体制整備経費が定額2万円、手当への助成が最大108万円(上限月3万円、子が3歳になるまで)。育休取得者や時短勤務利用者が有期雇用の場合、10万円を加算します。

◆ニュース

新制度「育成就労」創設へ 技能実習を廃止し 有識者会議・最終報告

 外国人技能実習制度と特定技能制度の見直しの検討を進めていた政府の有識者会議は11月30日、最終報告書をまとめ、小泉龍司法務大臣に提出しました。

技能実習について最終報告書は、労働力の需給調整の手段として利用してはならないという基本理念を掲げている一方、実際には実習生が国内企業の貴重な労働力として受け止められてきたと指摘。技能実習制度を廃止し、人材確保と育成を目的とする新たな制度「育成就労」を創設するよう提言しています。

新制度での受入れ分野は特定技能の分野に合わせ、3年間の就労を通じて特定技能1号の水準の人材を育成します。

技能実習では原則的に認めていなかった他社への転職については、同一企業で1年を超えて就労するなどの要件を満たした場合に認めます。転職の期間要件に関しては、必要な経過措置を検討するよう政府に求めました。

「推薦なし」理由に昇格差別 役職との差額支払い命令 都労委

東京都労働委員会は、都内の運輸業者が所属長の推薦がないことを理由に組合員2人を未だに昇格させていないのは、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たると認定しました。平成30年11月末付けで2人を指導員以上の職位に昇格したものとして取り扱い、現在までの賃金額と指導員以上の職位ならば支払われるべき賃金額との差額を支払うよう命じました。

合同労組に加入している組合員2人はトレーラーの運転者で、入社以来20年以上にわたって役職者に昇格することなく、最低位の職位のままでした。会社は組合との団体交渉で、昇格は所属長などからの推薦に基づいて実施しているため、推薦がないと昇格できないと回答していました。

都労委は、昇格に関する手続きを明確に定めた社内規程はなかったと認定しました。全運転者198人のうち、役職者は59人と約3割を占めていますが、推薦によって昇格したのは7人だけでした。一方で、組合員らの所属部署では、勤続18年以上の従業員のなかで、役職者になっていないのは両名のみとなっています。

組合員らに勤務成績が低いなどの役職者に不適任な事実はなく、非組合員との間に不自然な差異が生じていると疑わざるを得ないとしています。推薦という形式的な部分にかこつけて、昇格を回避していたと判断しました。


カテゴリー:所長コラム

年末年始休業のお知らせ

2023年12月22日

いつもお世話になりありがとうございます。

誠に勝手ながら12月29日(金)~1月4日(木)まで年末年始休業とさせていただきます。

ご迷惑をお掛けいたしますが、宜しくお願いいたします。

2024年も皆様にとって良い1年になりますよう心よりお祈り申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎えください。


カテゴリー:お知らせ

変化するこれからの労務管理

2023年12月01日

今年を振り返るとだんだんと労働問題の様子が変わってきているようなことがいくつかありました。驚いたのは、社員が会社在職中に弁護士を立てて会社を訴えたり、要求を突き付けてきたりしたことです。これまでは、退社することになった社員が、退職する理由は上司のパワハラだったとか、在職中の未払いになっている残業代を請求してくることはありましたが、さすがに在職中に労働条件について弁護士を通じて改善を求めてきたり、上司からのハラスメントに対して損害賠償を請求したりということは経験がないです。

一方で、人材不足も深刻化しているようです。名古屋のほうでは、トヨタのグループ会社が工場で働く期間工を採用するために、1人につき100万円の入社祝金を支給していると聞きました。そして業界によっては、ハローワークの求人票に入社祝金制度があることを記載してアピールを行うようになっていますし、企業が学生時代の奨学金を代理返済する制度も整備されました。また、人材確保が難しいといわれる薬剤師は、薬学部の大学生に対して企業が学費の貸し付けを行ったり、給付金を支給したりするなど、獲得競争が激化しているようです。

では、来年以降に社会がどのように変わっていくのか。日経新聞の記事をもとに現在、議論されていることを取り上げてみます。まずは、国民年金です。国民年金保険料の65歳までの納付が社会保障審議会で議論されています。国民年金の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から、65歳までの45年間に延長するという案です。審議会委員からは、「このままだと基礎年金だけでは生活が成り立たなくなる可能性があり、延長したほうがいい」「平均寿命が延び、働ける高齢者は保険料を支払うべきだ」といった賛成の意見が多くある一方で、根本的な原因である給付の抑制が進まない現状を改める機運は乏しいといわれています。そんな中、年金改革はもう間に合わないのではないかという記事も載っています。ヨーロッパでは年金の支給開始年齢の引き上げを進めていて、フランスは国民の大反対を受けながら62歳から64歳に引き上げたことは記憶に新しいし、イギリスも現在の66歳から67歳への引き上げが予定されているそうです。日本は、2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりますが、本来はこの団塊の世代への支給が開始される前に取り組むべきだった支給開始年齢の引き上げが見送られていて、もし今から支給開始年齢を遅らせるということになると、経済情勢から非正規雇用で働いてこざるをえなかった人が多い就職氷河期世代を直撃することになり世代間格差を広げかねず、もはや着手できなくなっているということだそうです。

次は雇用保険についてです。国は子育て支援のため、育児休業給付を賃金の手取りの実質8割から10割へ拡充することとして、2025年度から制度が開始されます。さらに2歳未満の子供を養育している労働者が育休明けに短時間勤務をした場合には労働時間や日数の制限を設けずに賃金の一定割合を上乗せして支給することになっています。また政府は男性の育休取得率の目標を「25年に50%、30年に85%」とすると表明しています。昨年の取得率は17.3%で、目標に向けて取得率が高まれば給付はさらに伸びることになります。この状況に財務省は育児休業給付の保険料率と国庫負担割合の見直しを、早急に図るべきとする方針を明らかにしていると11月20日の労働新聞が報じています。雇用保険料率は昨年10月に失業等給付にかかる料率が0.2%から0.6%に引き上げられたばかりなので、再度の引き上げとなると労使双方からの反発が予想されるということです。また、雇用保険の加入条件の一つとして週の労働時間について現行の「20時間以上」から「10時間以上」に緩和する方向で検討されているとのことで、新たに500万人が加入となる見込みだそうです。労働時間の規定の緩和でアルバイトやパート従業員が広く雇用保険の給付を受けられるようになることは良いことですが、企業や個人の保険料負担が増える面もあるということになります。

インドの名目国内総生産(GDP)が2026年に日本を抜くといわれています。その後、27年にはドイツも抜いて米中に次ぐ世界第3位の経済大国になるということです。今年は中国が人口減少に入ったといわれており、これまで日本、中国、韓国を中心に発展してきた極東アジアの時代が終わるのではないかという人もいます。これからますます日本社会の変化は続くのでしょう。社会が変わってきたことを実感した1年でした。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

介護直面前に情報提供も 支援制度活用を促進 離職防止策で論点示す

厚生労働省はこのほど、仕事と介護の両立支援制度の見直しに向けた論点を整理し、労働政策審議会の分科会に示しました。

介護離職を防止する観点からは、労働者への周知に関する新たな仕組みの導入を挙げています。具体的には、①介護の必要性に直面した労働者を対象に、両立支援制度に関する情報を個別に周知し、労働者の意向を確認すること、②介護に直面するよりも早期に支援制度の情報を一律に提供すること、③研修の開催や相談窓口設置などの雇用環境の整備――の3点を検討課題としました。

使用者委員からは、②の情報提供の時期として、介護保険被保険者となる40歳到達時のほか、育児期の労働者に実施する定期的な面談の活用なども検討すべきとの発言がありました。また、③の研修開催などについて別の使用者委員は、「中小企業での対応は難しい」と訴えました。

介護期の働き方としてテレワークの導入を事業主の努力義務にすべきかどうかも論点に盛り込みました。分科会では「テレワークは両立支援の手段として望ましい一方、実施が困難な業種・業態がある中では、努力義務化には慎重であるべき」、「選択的措置義務の選択肢の一つに追加すべき」などの声が挙がっています。

◆ニュース

4段階で手順示す 配偶者手当見直しへ 厚労省

 厚生労働省は、企業に対して配偶者手当の見直しを促すリーフレットを作成しました。9月に決定した年収の壁・支援強化パッケージの取組みの一環。配偶者の勤務先から配偶者手当をもらうために就業を調整している短時間労働者がいることから、廃止など見直しの手順を4ステップのフローチャートで示しました。

 取組みの第一歩として、賃金制度・人事制度の見直しの検討に着手した後、従業員アンケートなどを通じて、ニーズを踏まえて自社に合った案に絞り込みます。

 絞り込んだ案を基に、労使での話合いや、必要な経過措置の検討などを経て、見直し案を決定します。その後は、見直しの影響を受ける従業員に対して新制度に関する丁寧な説明を行っていくとしました。

 見直しの具体例として、①配偶者手当の廃止・縮小+基本給の増額、②手当廃止・縮小+子ども手当の増額、③手当廃止・縮小+資格手当の創設などを示しています。

死後の加入認めず 団交拒否は正当と判断 群馬県労働委員会

群馬県労働委員会は、鉄道車両メンテナンス業者が業務中に死亡した従業員の勤務状況に関する団体交渉に応じなかったとして、労働組合が救済を申し立てた紛争で、同社の対応は不当労働行為に該当しないと判断し、申立てを棄却しました。従業員が生前に同労組に加入した事実はなく、労組は「事後加入」と扱っていました。

従業員は昨年、業務中に心不全で死亡しました。労組は同社に対し、従業員の勤務状況などを交渉事項とする団交を申し入れました。同社は、従業員が生前に組合員だったことの確認を求めましたが、労組は応じず、団交は行われませんでした。労組は、団交拒否が不当労働行為に当たるとし、同労委に救済を申し立てました。

同労委の審査過程で、従業員が生前に同労組に加入したことはなく、相続人の意向で死後に「事後加入」となっていたことが判明しました。同労委は、死後、労働組合に加入することができないことは明らかであると指摘。他の従業員の中に同労組の組合員が存在しないことからも、同労組が「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しないとしました。


カテゴリー:所長コラム

年収の壁対策

2023年11月01日

「年収の壁」解消に向けた対策が決定されています。年収の壁とは年収が一定額に達した場合、税金や社会保険料の支払い義務が生じる収入の水準を指します。住民税の課税対象となる「100万円の壁」、所得税の課税対象となる「103万円」の壁、要件を満たした場合に社会保険の加入が必要になる「106万円」の壁、社会保険の扶養から外れる「130万円」の壁、配偶者特別控除が受けられなくなる「150万円」の壁、などがあります。そのうち、特に影響が大きいとされるのが、手取りが急に減ってしまう「106万円」と「130万円」の壁です。今回は、その2つの壁に対策がとられました。まず、「106万円の壁」対策として、従業員の手取り減少対策に取り組んだ企業に対し、従業員一人当たり最大50万円の助成金を支給されます。次に、「130万円の壁」には、連続2回までは130万円を超えても扶養にとどまれるようにするとされました。これらの支援策は、2025年の年金制度改正までの措置として10月から開始となっています。

「年収の壁」があるために、パート労働者は勤務時間を減らすなど就労調整を行うために人手不足となるといわれます。特にこれからの年末に向けては、社会保険の扶養から外れないように勤務時間を減らすパートが増えるといわれます。「本当はもっと働きたい。でも損はしたくない。」と考えて働く時間を短くすることがないように、企業に助成金を出してパートの賃上げや労働時間増を促したり、一時的な「壁超え」については柔軟な対応を認めたりすることでパートの年収が減らないようにするというのがねらいです。ですから、企業はパートを社会保険に加入させると助成金がもらえるとかパートはたくさん働いてたくさん給与をもらっても扶養から外されないという意味ではないことに注意ですね。

こういった対策は、これまでパートに就労調整を迫られてローテーションが組めずに人手不足に陥ってきた企業にとっては朗報ですし、パートにとっても収入増となります。ですが、ここでいう106万円と130万円には、計算方法に大きな違いがあるので注意しなければなりません。106万円の計算方法は、毎月の給与の基本給と手当を足した額となりますが、そこに通勤手当や残業代、賞与などは含まれないことになっています。ですから、パートやアルバイトが、これからの年末に向けての繁忙期にいくら残業しても壁超えを心配する必要はありません。もう一方の130万円の計算には、毎月の決まった給与に加えて残業代や賞与はもちろんその他の不動産収入や配当収入なども合算することになっていますので、年末にむけてしっかり計算する必要があります。

この「年収の壁」の問題には、社会保障制度の公平性の問題が隠れているといわれています。現在、専業主婦など会社員に扶養される配偶者は、「第3号被保険者」といわれ働きに出ても社会保険料を支払う必要はないのに、支払った人と同じだけの国民年金の老齢基礎年金を受け取ることができます。この優遇制度がそもそも現在の社会情勢に合っていないのに、今回の対策では、そういった人の収入が一定額を超えても、国が実質的に保険料を肩代わりして手取りが減らないようにすることになるので、これでは優遇に優遇を重ねることになるのではないかという意見があります。ただ、今回の対策は3年程度の時限措置で2025年の年金制度改革に合わせた「つなぎ措置」にすぎないということです。すでに来年10月から従業員数51人までの事業者に対して厚生年金への加入義務を拡大することが決まっていますが、今後は50人以下の事業者にも拡大することが検討されています。

これからは、多くのパートの人たちは年収を減らす選択をしない限り、社会保険に加入して保険料を負担することになるようです。そうなると、当然、企業の負担する保険料も増加します。岸田首相は、最低賃金(時給)の全国平均について「2030年代半ばまでに1500円となることを目指す」と言っているわけですから、人件費は、社会保険料の企業負担分である15%を加えると1725円となります。小売業や飲食業、宿泊業などパート依存度が高い業界はかなり厳しい状況となりそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

手当支給企業に助成金 3年間で1人50万円 厚労省・「年収の壁」支援パッケージ

厚生労働省は、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せずに働けるようにするための「支援強化パッケージ」を発表しました。

社会保険に関する「年収の壁」には、従業員100人超企業で週20時間以上勤務した場合に厚生年金・健康保険に加入して保険料負担が生じる「106万円の壁」と、配偶者の被扶養者から外れる「130万円の壁」の2種類があります。

「106万円の壁」対策として、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を設置します。賃上げや、労働者負担分の保険料に相当する手当支給などを行う企業に対して、労働者1人当たり最大50万円を助成します。令和7年度までの時限措置で、1事業所当たりの申請人数に上限は設けません。企業が手当により肩代わりした本人負担分の保険料相当額については、保険料算定の基礎に含めません。

「130万円の壁」対策では、一時的な増収によって130万円を超える際、事業主の証明を添付することで、連続2年まで被扶養者に留まれるようにします。

10月中に改正雇用保険法施行規則を公布し、同月1日に遡って適用する方針です。

◆調査

総争議件数は減少傾向 令和4年「労働争議統計調査」の結果

 厚労省は令和4年「労働争議統計調査」の結果を公表しました。令和4年における総争議は270件(前年比27件減)で、元年に次いで2番目に低く、減少傾向にあります。このうち、ストライキなどの争議行為を伴う争議は65件(同10件減)で、伴わない争議は205件(37件減)でした。

争議の主な要求事項は、「賃金」に関するものが139件で、総争議件数の51.5%と最も多く、次いで「組合保障及び労働協約」が103件、「経営・雇用・人事」が98件となっています。

4年中に解決した労働争議は206件で、総争議件数の76.3%を占めています。解決方法は、「第三者関与による解決」が68件に上り、「労使直接交渉による解決」が54件でした。

争議行為を伴う争議を産業別にみると、件数は「医療、福祉」が22件で最も多く、「情報通信業」が13件、「製造業」が11件で続きます。


カテゴリー:所長コラム

30年の意味

2023年10月02日

2023年は「最も暑い夏」となりました。気象庁によると、6~8月の全国の平均気温が1898年の統計開始以来最高だったと発表しています。日中、外回りでエアコンの効いた車内にいても日差しは厳しいし、車を降りて外に出ると一気に体温が40度になるような感覚を受けたのは初めてのように思います。「十八史略」に「四時の序、功を成す者は去る」という言葉あるそうです。四時の序とは春夏秋冬の順序をいうそうで、春は春の役割を精いっぱい果たして夏にその立場を譲っていく。夏は夏の役割を精いっぱい果たして秋に譲っていく。秋は秋の、冬は冬の役割を果たして次の季節に譲っていく。このように四季が巡るように、人もまたそれぞれの役割を果たして次の人にその立場を譲っていかねばならない、ということだそうです。人も同じです。いろいろな人が功を成して去っていき、その積み重ねの上に自分たちがいる、ということですね。また、同時に、自分たちが今ここにいるのは、自分の役割を果たすためであることを肝に銘じなければならないと思います。今年の「夏」は、というより、今年の「夏」も、頑張りすぎていましたね。

哲学者の森信三氏は、「人生は正味三十年」と言いました。「この人生に対して、多少とも信念らしいものを持ち出したのは、大体三十五歳辺からのことでありまして、それが多少はっきりしてきたのは、やはり四十を一つ二つ越してからのことであります。ですから、もし多少とも人生に対する自覚が兆し出してから、三十年生きられるということになると、どうしても六十五、六から七十前後にはなるわけです。」「このように考えて来ますと、人間も真に充実した三十年が生きられたら、実に無上の幸福と言ってもよいでしょう。」加えて、森氏は「ずいぶんぜいたくな望みとさえ思われる」と言っています。この30年というのは、言い得て妙ではないでしょうか。人生100歳といわれるようになりましたが、「人が真に活動する正味ということになるとまず三十年そこそこのものと思わねばならぬでしょう。」「人生もその正味は三十年として、人生に対する一つの秘訣と言ってよいかなと思うのです。」とも森氏は言っています。(致知出版社「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」より)中国には、「十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年にして歴史なる」という格言があるそうです。これは企業にもあてはまることだと思いますが、経済産業省のデータによると、1年以内で廃業する会社の割合は、27.2%、2年以内では39.1%、3年以内では47.2%、5年以内で58.2%となって、起業から10年後に残っている企業は約26%にまでなるそうです。企業を30年存続させてこそ、役回りを果たしたといえるのかもしれません。ぼくは36歳の時に社労士事務所を開業して20年になりますが、まだまだ10年は頑張って社会のお役に立てるようにしないといけないですね。

家具売り大手の「イケア・ジャパン」が制服への着替え時間について「従業員に賃金を支払っていなかったこと判明した」と報じられました。イケア・ジャパンはテレビの取材に対して、「着替え時間に関しては、関係法令に明文の規定もなく、判例上の基準も曖昧な部分があることから、実務上見解の分かれる点について不明確性をなくし、従業員有利の方向で明確な取扱いを設定するものとしました」とコメントしています。その上で、今後は着替え時間を1律5分とし、1日10分間を労働時間に含めるとしたそうです。メディアは、2000年3月に最高裁が「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間とし、着替えを義務づけられた制服などへの着替えも労働時間に当たるとの判断を示していると報じていますが、一方で「入門後職場までの歩行や着替え履替えは、それが作業開始に不可欠なものであるとしても、労働力の提供のための準備行為であって、労働力の提供そのものではないのみならず、特段の事情のない限り使用者の直接の支配下においてなされるわけではないから、これを一律に労働時間に含めることは使用者に不当の犠牲を強いることになって相当とはいい難く、結局これをも労働時間に含めるか否かは、就業規則にその定めがあればこれに従い、その定めがない場合には職場慣行によってこれを決するのが最も妥当である。」(昭56.7.16最高裁第一小法廷判決)として労働時間としなくてもよいとするものもあります。まるでイケアが賃金未払の違法行為を行っていたかのような報道の仕方には疑問を感じますが、最近は疑わしきは労働時間とする傾向があるように思いますし、以前と違って余計なトラブルにならないように事業主はとても気を遣っているようにも感じています。良くも悪くも、これが世の中の流れなので、合わせていかないといけませんね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

43円引上げ1000円超に 24県が「目安額」上回る 最賃答申

 厚生労働省は8月18日、全国すべての地方最低賃金審議会で令和5年度の地域別最低賃金の改定額を答申したと発表しました。47都道府県の引上げ額は39~47円で、改定後の全国加重平均額は43円(4.47%)上昇して1004円になります。上昇額は「目安」制度の創設以降で最も高く、24県で中央最低賃金審議会が示した「目安」を上回りました。

改定後の最高額は東京の1113円で、愛知、京都など5府県が新たに1000円を突破します。最低額は岩手の893円で、最高額に対する比率は80.2%。改定額は10月上~中旬に発効します。

◆調査

副業者が60万人増加に 就業構造基本調査

総務省は5年ごとに就業状況を調査しており、今回は昨年10月1日現在で実施しました。

有業者は6706万人で、前回調査の2017年に比べ85万人増加しました。無業者は4313万人となり、163万人減少しました。非農林業従事者のうち、副業がある者の割合は4.8%の305万人となり、17年と比べて60万人増加しました。現在就いている仕事を続けながら、他の仕事もしたいと思っている追加就業希望者は7.8%の493万人で、17年から93万人増加しました。

追加就業希望者比率を都道府県別でみると、東京都と沖縄県が10.2%で最も高く、次いで神奈川県と京都府が8.8%で続いています。育児中の者のうち有業者の占める割合は85.2%(17年比5.9ポイント増)でした。介護中は58.0%(同2.8ポイント増)で、どちらも増加傾向にあります。


カテゴリー:所長コラム



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