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変化するこれからの労務管理

2023年12月01日

今年を振り返るとだんだんと労働問題の様子が変わってきているようなことがいくつかありました。驚いたのは、社員が会社在職中に弁護士を立てて会社を訴えたり、要求を突き付けてきたりしたことです。これまでは、退社することになった社員が、退職する理由は上司のパワハラだったとか、在職中の未払いになっている残業代を請求してくることはありましたが、さすがに在職中に労働条件について弁護士を通じて改善を求めてきたり、上司からのハラスメントに対して損害賠償を請求したりということは経験がないです。

一方で、人材不足も深刻化しているようです。名古屋のほうでは、トヨタのグループ会社が工場で働く期間工を採用するために、1人につき100万円の入社祝金を支給していると聞きました。そして業界によっては、ハローワークの求人票に入社祝金制度があることを記載してアピールを行うようになっていますし、企業が学生時代の奨学金を代理返済する制度も整備されました。また、人材確保が難しいといわれる薬剤師は、薬学部の大学生に対して企業が学費の貸し付けを行ったり、給付金を支給したりするなど、獲得競争が激化しているようです。

では、来年以降に社会がどのように変わっていくのか。日経新聞の記事をもとに現在、議論されていることを取り上げてみます。まずは、国民年金です。国民年金保険料の65歳までの納付が社会保障審議会で議論されています。国民年金の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から、65歳までの45年間に延長するという案です。審議会委員からは、「このままだと基礎年金だけでは生活が成り立たなくなる可能性があり、延長したほうがいい」「平均寿命が延び、働ける高齢者は保険料を支払うべきだ」といった賛成の意見が多くある一方で、根本的な原因である給付の抑制が進まない現状を改める機運は乏しいといわれています。そんな中、年金改革はもう間に合わないのではないかという記事も載っています。ヨーロッパでは年金の支給開始年齢の引き上げを進めていて、フランスは国民の大反対を受けながら62歳から64歳に引き上げたことは記憶に新しいし、イギリスも現在の66歳から67歳への引き上げが予定されているそうです。日本は、2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりますが、本来はこの団塊の世代への支給が開始される前に取り組むべきだった支給開始年齢の引き上げが見送られていて、もし今から支給開始年齢を遅らせるということになると、経済情勢から非正規雇用で働いてこざるをえなかった人が多い就職氷河期世代を直撃することになり世代間格差を広げかねず、もはや着手できなくなっているということだそうです。

次は雇用保険についてです。国は子育て支援のため、育児休業給付を賃金の手取りの実質8割から10割へ拡充することとして、2025年度から制度が開始されます。さらに2歳未満の子供を養育している労働者が育休明けに短時間勤務をした場合には労働時間や日数の制限を設けずに賃金の一定割合を上乗せして支給することになっています。また政府は男性の育休取得率の目標を「25年に50%、30年に85%」とすると表明しています。昨年の取得率は17.3%で、目標に向けて取得率が高まれば給付はさらに伸びることになります。この状況に財務省は育児休業給付の保険料率と国庫負担割合の見直しを、早急に図るべきとする方針を明らかにしていると11月20日の労働新聞が報じています。雇用保険料率は昨年10月に失業等給付にかかる料率が0.2%から0.6%に引き上げられたばかりなので、再度の引き上げとなると労使双方からの反発が予想されるということです。また、雇用保険の加入条件の一つとして週の労働時間について現行の「20時間以上」から「10時間以上」に緩和する方向で検討されているとのことで、新たに500万人が加入となる見込みだそうです。労働時間の規定の緩和でアルバイトやパート従業員が広く雇用保険の給付を受けられるようになることは良いことですが、企業や個人の保険料負担が増える面もあるということになります。

インドの名目国内総生産(GDP)が2026年に日本を抜くといわれています。その後、27年にはドイツも抜いて米中に次ぐ世界第3位の経済大国になるということです。今年は中国が人口減少に入ったといわれており、これまで日本、中国、韓国を中心に発展してきた極東アジアの時代が終わるのではないかという人もいます。これからますます日本社会の変化は続くのでしょう。社会が変わってきたことを実感した1年でした。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

介護直面前に情報提供も 支援制度活用を促進 離職防止策で論点示す

厚生労働省はこのほど、仕事と介護の両立支援制度の見直しに向けた論点を整理し、労働政策審議会の分科会に示しました。

介護離職を防止する観点からは、労働者への周知に関する新たな仕組みの導入を挙げています。具体的には、①介護の必要性に直面した労働者を対象に、両立支援制度に関する情報を個別に周知し、労働者の意向を確認すること、②介護に直面するよりも早期に支援制度の情報を一律に提供すること、③研修の開催や相談窓口設置などの雇用環境の整備――の3点を検討課題としました。

使用者委員からは、②の情報提供の時期として、介護保険被保険者となる40歳到達時のほか、育児期の労働者に実施する定期的な面談の活用なども検討すべきとの発言がありました。また、③の研修開催などについて別の使用者委員は、「中小企業での対応は難しい」と訴えました。

介護期の働き方としてテレワークの導入を事業主の努力義務にすべきかどうかも論点に盛り込みました。分科会では「テレワークは両立支援の手段として望ましい一方、実施が困難な業種・業態がある中では、努力義務化には慎重であるべき」、「選択的措置義務の選択肢の一つに追加すべき」などの声が挙がっています。

◆ニュース

4段階で手順示す 配偶者手当見直しへ 厚労省

 厚生労働省は、企業に対して配偶者手当の見直しを促すリーフレットを作成しました。9月に決定した年収の壁・支援強化パッケージの取組みの一環。配偶者の勤務先から配偶者手当をもらうために就業を調整している短時間労働者がいることから、廃止など見直しの手順を4ステップのフローチャートで示しました。

 取組みの第一歩として、賃金制度・人事制度の見直しの検討に着手した後、従業員アンケートなどを通じて、ニーズを踏まえて自社に合った案に絞り込みます。

 絞り込んだ案を基に、労使での話合いや、必要な経過措置の検討などを経て、見直し案を決定します。その後は、見直しの影響を受ける従業員に対して新制度に関する丁寧な説明を行っていくとしました。

 見直しの具体例として、①配偶者手当の廃止・縮小+基本給の増額、②手当廃止・縮小+子ども手当の増額、③手当廃止・縮小+資格手当の創設などを示しています。

死後の加入認めず 団交拒否は正当と判断 群馬県労働委員会

群馬県労働委員会は、鉄道車両メンテナンス業者が業務中に死亡した従業員の勤務状況に関する団体交渉に応じなかったとして、労働組合が救済を申し立てた紛争で、同社の対応は不当労働行為に該当しないと判断し、申立てを棄却しました。従業員が生前に同労組に加入した事実はなく、労組は「事後加入」と扱っていました。

従業員は昨年、業務中に心不全で死亡しました。労組は同社に対し、従業員の勤務状況などを交渉事項とする団交を申し入れました。同社は、従業員が生前に組合員だったことの確認を求めましたが、労組は応じず、団交は行われませんでした。労組は、団交拒否が不当労働行為に当たるとし、同労委に救済を申し立てました。

同労委の審査過程で、従業員が生前に同労組に加入したことはなく、相続人の意向で死後に「事後加入」となっていたことが判明しました。同労委は、死後、労働組合に加入することができないことは明らかであると指摘。他の従業員の中に同労組の組合員が存在しないことからも、同労組が「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しないとしました。


カテゴリー:所長コラム


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