人事・労務のエキスパート、石川県金沢市の社会保険労務士法人 末正事務所。人事・労務管理相談、社会保険労働保険手続き、紛争解決、組織活性、給与計算、人材適正検査まで、フルサポートします。

seminar

seminar

contact

ブログ

徳を積む

2023年01月05日

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

新しい年が始まるにあたって、古くから徳を身につけようとする人が、最初に読むべき本と言われている「大学」についての話をしたいと思います。(「『大学』に学ぶ人間学」より 東洋思想研究家 田口佳史氏著 致知出版社)

「大学」の巻頭には「大学の道は、明徳を明らかにするに在り」と書かれていて、ここに本義があるといわれています。江戸時代には、立派な人間になりたい人はまず「大学」を読むべしといわれ、今ならば小学校一年生の一学期の最初の授業で教えられていたそうです。まずはこの最初に出てくる「明徳」の意味を理解しないといけませんね。「徳」の概念ですが、本では松下幸之助さんの話が取り上げられています。筆者は、松下幸之助さんに「経営の神様と言われているあなたに、是非伺いたいことがあります。経営者というのは、いかなる条件を持っていないとできないものでしょうか?」と質問します。すると松下さんは即座に「運が強くなければダメだ」と答えたそうです。続けて「運を強くするにはどうしたらいいのですか?」と聞くと、この質問にも間髪入れずに「それは徳を積むことしかない」と答えられました。著者の田口氏は、「運というのは、自分の力を超えた存在である宇宙の哲理に沿った行動を自分に課することが運を強くするためには重要だ」と言います。なかなか難しいですが、自分の人生をしっかり生きようと思えば、天の道理・道義をよく知ることが必要だということになります。松下幸之助さんも「宇宙の哲理を承知していなければ、成功しても結局足をすくわれて惨めな末路になってしまう」といっています。その意味は、「宇宙の大原則に即して生きていくことが成功の秘訣であり、それを言葉や立ち居振る舞いとして表現することが徳なのだ」といい、そして、「そこにはほんの少しもやましいことや私利私欲があってはいけない」とも言っています。

ぼくなどは、「じゃどうしたらいいの?」となりますが、田口氏は、「徳」を「自己の最善を他者に尽くし切ること」だと表現していて、その純粋な形で相手を思いやって自己のベストを尽くすことが大事だという答えに三十年もかかってたどり着いたそうです。この考え方は大成功した人が共通に語っています。松下幸之助さんや稲盛和夫さんはこれを「生成発展」といいます。その意味は、常に世の中は発展していて、その宇宙の原理に則るかぎり、必ず成功するようになっており、成功しないのは自分にとらわれたり、何かにこだわったりして、この自然の法則に則っていないからだということです。

経営コンサルタントの小宮一慶さんは、決して宗教の話をしているわけではないと前置きしたうえで、著書「経営者の教科書」の中で、人を害する、人の不幸を願う、ライバルを蹴落とす、自分だけが良ければいい、などというのは宇宙の原理に反することで、そういった点において自身や自社がより良い商品やサービスをお客様に提供することにより、社会に貢献することが宇宙の原理にかなっていると書いています。また自分や自社も発展を続ける、小宮さんの言葉にすると「なれる最高の自分になる」ように務めることが生成発展にかなっていて、そこに妥協する余地はありません。つまり、自分や自社が成長、発展が出来ているのか、そして常にそうなろうと努力し続けることことが大切だということです。ビジネスの世界は「弱肉強食」ではなく、「優勝劣敗」」であって、会社同士も社員同士もお互いが切磋琢磨して、発展していくことが正しい姿です。「自分の仕事を通じて社会に貢献すること」や「それを通じて働く人が幸せになること」が会社の存在目的であることを十分に理解していれば、そのために頑張ろうと思うことができるし、とくに経営者はしっかりとそのことを認識している必要があります。

中国の古典に「暗いところから明るいところはよく見えるが、明るいところから暗いところは見えない」というのがあります。経営者は明るいところにいて、比較的暗いところにいる部下という舞台の上と下というイメージです。経営者は部下の様子はそれほどよくは見えないけれど、部下たちからは経営者の動きは、とてもよく見えるものだという意味です。この一年、常に他人に見られているという意識をしっかり持ち、行動をしたいと思います。

特定社会保険労務士 末正哲朗  

◆最新・行政の動き

厚生労働省は、コロナ禍で助成内容を拡充している雇用調整助成金について、今年12月から原則として通常の制度に戻す方針を明らかにしました。助成の日額上限は中小企業・大企業ともに雇用保険の基本手当と同額の8355円を維持しつつ、休業手当相当額に対する助成率を中小企業3分の2、大企業2分の1に引き下げます(11月までの助成率は中小企業が原則10分の9、大企業が同4分の3でした)。

とくに業況が厳しい事業主に対しては、来年1月末まで助成額などを上乗せする経過措置を設定します。売上高などの生産指標が最近3カ月の月平均で前年、前々年、または3年前同期比で30%以上減少しているケースが対象。助成上限額は9000円で、助成率は中小企業が10分の9、大企業が3分の2。解雇を行った事業主は順に3分の2、2分の1とします。

新型コロナの影響で小学校などが臨時休業した場合に、子どもの保護者に有給の休暇を取得させた企業に支給する小学校休業等対応助成金については、支給対象となる休暇取得期間を来年3月まで延長する方針。日額上限額は8355円を維持します。

一方、緊急事態宣言の対象区域などの事業主へ日額1万2000円まで支給する特例措置は、11月末で廃止となります。

◆ニュース

労災認定 事業主の「不服」表明可能に 保険料引上げ巡り

厚生労働省は、自社の労働災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する労災保険のメリット制について、事業主が労働保険料の引上げ決定後に「労災認定は違法」として保険料決定に関する不服を申し立てられるよう、行政解釈の変更を行う考えです。近年、保険料決定処分の取消し訴訟において、保険給付支給の違法性の主張が認められるケースが現れていました。

都道府県労働局長が行った保険料引上げの決定を不服として、事業主が厚労大臣に審査請求し、厚労省での審査において労災給付が支給要件に該当しないことが認められた場合、労働保険料の引上げは行わないものとします。一方、労働者に対する支給決定自体は取り消さない方向です。支給決定を取り消せば、いったん支払った給付の回収や支給打ち切りを行う必要が生じることから、支給決定を維持し、給付を生活の糧にしている被災労働者や遺族に甚大な影響が及ぶのを防ぎます。

産業医勧告 不利益取扱い禁止は努力義務 東京高裁

産業医事務所が、労働安全衛生法に基づく勧告権行使を理由に顧客企業から契約を解除されたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は同事務所の請求を棄却しました。

同事務所の産業医は平成31年4月15日、勧告書を顧客企業の代表取締役に手交しました。内容は、同社の総括安全衛生管理者兼人事総務部長が不適切な健康管理運営をしているため、処遇を考えて欲しいというものでした。同社は勧告書の内容を踏まえ、弁護士を選任し、産業医を含めた関係者の聞き取り調査を進めた結果、指摘事項の多くは存在が認められませんでした。認められたものについても緊急の対応は必要なく、法令違反もないとの結論を得て、同年6月19日に産業医との契約を解除しました。

二審の同高裁は一審同様、契約解除を有効と判断しました。同社は勧告書を受け取った際、事実確認のうえ、必要に応じて改善措置を講じると約束しており、勧告権行使は契約解除の理由ではないと評価しています。産業医が同社の言い分に耳を貸さず、労基署の行政指導を示唆するなど、対決姿勢を深めていき、信頼関係破壊に至ったとしました。

勧告権行使を理由とする不利益取扱いを禁止した安衛則第14条4項の規定は「努力義務」と判示。委嘱契約は準委任に当たり、原則双方がいつでも契約解除できるが、安衛法第13条5項が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを考慮し、契約解除が法の趣旨を実質的に失わせている場合は権利濫用に該当するとしています。


カテゴリー:所長コラム

進化するデジタルマーケティング

2022年12月01日

日経新聞に「城崎温泉復活へ宿泊データ共有」という記事がありました。兵庫県の城崎温泉が生き残りをかけて宿泊データを地域内で共有し始めたというものです。最上位の企業秘密といえる各旅館の予約データを自動で収集・分析するシステムを構築し共有することで、各旅館は他の旅館や地域全体のデータを参考にして、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かしているそうです。これまでは「いつどこから観光客が来ているのか、今までは正確に把握できていなかった」のが、ウェブのプラットフォームを使い、予約の日程、人数、金額、予約者の居住地域などを自動で収集し、温泉地全体の予約状況を可視化して、数カ月先までの需要を予測できる仕組みを作り上げたということです。個別の旅館名や予約者名などのプライバシーに配慮したうえで、プラットフォームに参加する旅館は自社のデータを提供する代わりに、同価格帯の旅館や地域全体の平均データなどを閲覧できるようになります。そうなると、たとえば「今月に入って東京からの予約が少し増えている」という情報がある時には、都民の誘客に注力するため都民向けの広告を大幅に増やしたり、連休中の同価格帯の旅館データから高価格の需要が見込めると判断できたときには、安売りプランの販売を控えても全客室に予約を入れられたりという成功事例が出てきて戦略がとても立てやすくなったそうです。

城崎温泉が情報共有に踏み切った背景には、新型コロナウィルス禍による旅行需要の激減があります。特に2020年度は観光客数が44万8千人と前年度からほぼ半減していて、旅館業の経営はこれまでの「勘と経験だけ」では立ちゆかなくなりました。それに加えて温泉地にくる旅行客は団体旅行から個人旅行へ移行していて、需要を可視化できる精緻なデータの必要性がますます高まっています。そして温泉旅館は競合するライバルでありながら運命共同体になってきており、また温泉地の活性化が、地域全体の潤いをもたらすという考えから他の温泉地でも個人客の嗜好の多様化を温泉地全体で応える取り組みが行われ始めています。

今、私たちはどんどん進化する「デジタルマーケティング」の時代に生きています。従来のマーケティングの手法に加えて、AIなどのデジタル技術の発達が「進化」をもたらしているといわれます。AIの発達に加えて消費者がネットを活用していることにより、企業は「購買前」のデータを「個別」に取得することが可能になったといわれます。たとえばネット上の購買履歴から、Aさんはどういう商品やブランドをよく買い、何と何を比較した後にどういう商品を買っているかということが分かり、また購入の時間帯も分かるので、企業側は、かなり精緻な「購買前」のデータを取得して、それに応じた個別の提案が可能になっています。その手法は現在の個人の嗜好の多様化にとてもマッチします。このように収集されたデータが、今後ますます、マーケティングだけでなく企業の戦略立案に大きな影響を与えることは間違いなさそうです。

ちなみにマーケティングといえばやはりドラッカーですね。ドラッカーのマーケティングの本質をついた言葉と言われているのが、「マーケティングの目的は、セリングを不要にすることなのである。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ。理想を言えば、マーケティングは製品なりサービスを買おうと思う顧客を創造するものであるべきだ。そうすれば、あとは顧客がいつでも製品やサービスを手に入れられるようにしておきさえすればいい。」(ピーター・ドラッカー『マネジメント』)です。ドラッカーは、マーケティングの目的は「セリング(営業活動)」を不要にすることだといいます。つまりマーケティングができていれば営業活動をしなくても商品やサービスは売れるということになります。言い換えると、企業が存続を許される条件は、良い商品やサービスを顧客に提供し続けることが必要だとなります。同じように松下幸之助氏は、社会の発展や人々の生活の向上のために企業が商品やサービスを提供することを行えている限り企業も生き残り、発展すると語っています。マーケティング活動が企業の存在意義そのものだと言われる所以です。ぼくもお客様のお役に立てる存在であり続けられるように努力して、常に謙虚でいられるなら長く社労士をさせてもらえるのであろうと信じています。(参照:「小宮一慶の実践!マーケティング」日本経済新聞出版社)

特定社会保険労務士 末正哲朗

最新・行政の動き

厚生労働省は、コロナ禍で助成内容を拡充している雇用調整助成金について、今年12月から原則として通常の制度に戻す方針を明らかにしました。助成の日額上限は中小企業・大企業ともに雇用保険の基本手当と同額の8355円を維持しつつ、休業手当相当額に対する助成率を中小企業3分の2、大企業2分の1に引き下げます(11月までの助成率は中小企業が原則10分の9、大企業が同4分の3でした)。

とくに業況が厳しい事業主に対しては、来年1月末まで助成額などを上乗せする経過措置を設定します。売上高などの生産指標が最近3カ月の月平均で前年、前々年、または3年前同期比で30%以上減少しているケースが対象。助成上限額は9000円で、助成率は中小企業が10分の9、大企業が3分の2。解雇を行った事業主は順に3分の2、2分の1とします。

新型コロナの影響で小学校などが臨時休業した場合に、子どもの保護者に有給の休暇を取得させた企業に支給する小学校休業等対応助成金については、支給対象となる休暇取得期間を来年3月まで延長する方針。日額上限額は8355円を維持します。

一方、緊急事態宣言の対象区域などの事業主へ日額1万2000円まで支給する特例措置は、11月末で廃止となります。

◆ニュース

労災認定 事業主の「不服」表明可能に 保険料引上げ巡り

厚生労働省は、自社の労働災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する労災保険のメリット制について、事業主が労働保険料の引上げ決定後に「労災認定は違法」として保険料決定に関する不服を申し立てられるよう、行政解釈の変更を行う考えです。近年、保険料決定処分の取消し訴訟において、保険給付支給の違法性の主張が認められるケースが現れていました。

都道府県労働局長が行った保険料引上げの決定を不服として、事業主が厚労大臣に審査請求し、厚労省での審査において労災給付が支給要件に該当しないことが認められた場合、労働保険料の引上げは行わないものとします。一方、労働者に対する支給決定自体は取り消さない方向です。支給決定を取り消せば、いったん支払った給付の回収や支給打ち切りを行う必要が生じることから、支給決定を維持し、給付を生活の糧にしている被災労働者や遺族に甚大な影響が及ぶのを防ぎます。

産業医勧告 不利益取扱い禁止は努力義務 東京高裁

産業医事務所が、労働安全衛生法に基づく勧告権行使を理由に顧客企業から契約を解除されたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は同事務所の請求を棄却しました。

同事務所の産業医は平成31年4月15日、勧告書を顧客企業の代表取締役に手交しました。内容は、同社の総括安全衛生管理者兼人事総務部長が不適切な健康管理運営をしているため、処遇を考えて欲しいというものでした。同社は勧告書の内容を踏まえ、弁護士を選任し、産業医を含めた関係者の聞き取り調査を進めた結果、指摘事項の多くは存在が認められませんでした。認められたものについても緊急の対応は必要なく、法令違反もないとの結論を得て、同年6月19日に産業医との契約を解除しました。

二審の同高裁は一審同様、契約解除を有効と判断しました。同社は勧告書を受け取った際、事実確認のうえ、必要に応じて改善措置を講じると約束しており、勧告権行使は契約解除の理由ではないと評価しています。産業医が同社の言い分に耳を貸さず、労基署の行政指導を示唆するなど、対決姿勢を深めていき、信頼関係破壊に至ったとしました。

勧告権行使を理由とする不利益取扱いを禁止した安衛則第14条4項の規定は「努力義務」と判示。委嘱契約は準委任に当たり、原則双方がいつでも契約解除できるが、安衛法第13条5項が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを考慮し、契約解除が法の趣旨を実質的に失わせている場合は権利濫用に該当するとしています。


カテゴリー:所長コラム

日本の近代化

2022年11月01日

群馬県にある富岡製糸場が今年10月4日で開業から150周年を迎えたと聞き、東京出張の帰りに立ち寄ってみました。富岡製糸場は、明治5年(1872年)に明治政府が設立した日本初の官営の製糸工場で、2014年に世界遺産に登録されてからは来場者数が年100万人を超えることもあるそうです。

当時の日本の外貨獲得のために重要な輸出品であった生糸の品質向上と増産のために器械製糸技術を普及させる目的でフランス人技術者を招いて設立され、そこには渋沢栄一も深く関わっていたそうです。そして富岡製糸場は、後に日本の製糸技術を世界一の水準に引き上げる原動力となりました。その建物の構造は西欧の建築方法によるものですが、屋根は日本瓦で葺くなど、日本と西洋の技術を見事に融合させたものになっていて、主要な施設が創業当時のまま、ほぼ完全に残されていました。

展示物の中で一番興味深かったのは、当時の女性工員(女工)の労働条件に関するものです。富岡製糸場は、明治日本の威信をかけた官営の模範工場で、生産技術だけでなく、労働環境もフランス式に整備されており、1日8時間労働や夏冬の長期休暇など、明治期の労働環境としては、世界でもまれなほど恵まれていたようです。展示資料によると設立当初に働いていた女工は約400人いて、勤務時間は年平均1日7時間45分、休日は日曜日(七曜日制が導入)のほか、暑休(夏休み)や年末年始の休暇もあったようです。給料は能率給による月給制で、習熟によって昇給がなされていました。そして福利厚生面では、女工には宿舎が用意され、食事も支給されていて、入浴も毎日できたそうです。また場内の診療所では、診察料および薬代は工場の負担で診療が受けられました。在勤期間についても、1年以上3年まで女工の希望によることとされていたそうです。しかし、1872年2月に始まった工女の募集ですが、「フランス人が工女の生き血を採って飲む」という噂が流れて思うように進まなかったそうです。

その後、明治26年(1893年)に民間に払い下げられて以降は、生糸の量産化に貢献し近隣農家の養蚕技術の改良にも主導的役割を果たすことになります。その一方で、利益を追求するあまり、民営化以降は、工女たちの就業時間は徐々に長くなり、1日10~12時間に及び、休日も月2日となるなど労働環境はだんだんと悪化したそうです。富岡製糸場で訓練された女工たちは、その後、地元の工場に戻り中心となって活躍しますが、その地元の工場の労働環境はかなり劣悪だったようです。当時の製糸工場の労働時間は、14時間以上で、休日は年末年始と旧盆に数日しかなく、工場内では、熱湯を使用するため工場内の湿度は上がり、水蒸気が天井で冷やされ、大粒の水滴が雨のように落ちてくる中で、女工はずぶ濡れになって働いていており、結核で命を落とす女工も多くいたそうです。

そうした労働環境が、現在の労働基準法の前身となる「工場法」の制定につながります。明治の前期から政府は日本国内における職工や工場に関する状況の調査を開始します。この調査をもとに法案の作成が進められますが、業界の反発や日清、日露戦争の勃発によって難航しました。日露戦争終結後の1909年(明治42年)に政府は議会に工場法案を提出することになりますが、繊維産業や中小企業を中心とした反対が強く法案は撤回となりますが、その後の努力により1916年(大正5年)9月1日についに施行されました。そして工場法施行に伴い警視庁と大阪など8道府県の警察部に工場監督官が設置されます。労働基準監督署の前身なのでしょうね。しかし工場法は、10人未満の小規模工場には適用されなかったため多くの工場が適用除外となり、労働者保護には不十分だったそうです。そして戦後になり工場法は戦前の労働者法規を集大成した労働基準法に形を変えていくことになるわけです。

今年10月14日には、明治時代の1872年に日本初の鉄道が新橋-横浜間で開業して150周年を迎えています。開業当時の列車は時速30キロ程度だったそうですが、徒歩で一日がかりだった新橋-横浜間は約1時間に短縮されたそうです。今の世界は150年前と同じく第四次産業革命の時代だと言われています。AIとロボットが生産性を向上させて、社会が大きく変化し、私たちの生活も大きく変わろうとしています。乗り遅れないようにしなければならないですね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

厚生労働省は令和5年度、時間外労働の上限規制の適用が猶予されている業種などにおける長時間労働の解消を後押しするため、働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)を新設する考えです。

適用猶予分野(建設事業、自動車運転の業務、医師、砂糖製造業〔鹿児島県・沖縄県〕)の中小企業が対象で、労働時間短縮に必要な経費の4分の3を支給します。具体的には、①就業規則の作成・変更費用、②労務管理担当者や労働者への研修費用、③専門家によるコンサルティング費用、④労務管理用機器の導入・更新費用、⑤労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新費用、⑥人材確保に関する費用となっています。労働能率増進設備としては、運送業における洗車機や、建設事業での土木工事積算システムなどが想定されます。

支給上限額は、分野ごとに定める成果目標の達成状況に応じて設定。自動車運転業務では、36協定見直しによる時間外労働の削減と勤務間インターバル制度導入で最大400万円を支給します。

建設事業では、協定見直しと週休2日制の導入で計350万円まで支給。休日については、4週4休から4週8休まで、休日が1日増加するごとに25万円、最大で100万円を支援する方針です。

◆ニュース

荷主へ周知徹底を 改正改善基準告示で報告

労働政策審議会の自動車運転者労働時間等専門委員会は、自動車運転者の改善基準告示の見直しに関する報告書を取りまとめました。

バスとタクシー・ハイヤーに関する見直し案を示した今年3月の中間報告の内容に、同委員会の作業部会が9月にまとめたトラックの見直し案を追加したもので、いずれの業態も拘束時間の削減と休息期間の拡大を図る内容となっています。全業態で継続8時間としていた休息期間を「継続11時間を基本とし、9時間を下限」に見直すとしました。拘束時間は、トラックが現行の1年3516時間から原則3300時間に短縮、バスが3380時間(年換算)から原則3300時間に短縮となります。

改正告示の履行確保を図るため、荷主や貸切バス利用者など発注者側にも周知すべきとしました。とくにトラックについては、長時間の荷待ちを発生させないよう荷主に対して労働基準監督署による「要請」を実施することが適当と指摘しています。

デジタル払い 来年4月スタートへ 口座残高上限100万円に

厚生労働省は、賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払い)を可能とする労働基準法施行規則の改正省令案を明らかにしました。

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進むなか、労基則を改正し、一定の要件を満たす資金移動業者の口座への賃金支払いも行えるようにします。

改正によって賃金の支払い先として追加されるのは、資金決済法上の「第2種資金移動業」を営む移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた移動業者の口座。労働者の同意を得た場合に、本人が指定する口座へ支払うことができます。

指定要件には、口座残高上限額を100万円以下とすることや、ATMを利用して1円単位で通貨を受け取れることなどを盛り込みます。企業には、賃金支払い方法の選択肢として、銀行口座や証券総合口座への振込みなども労働者に示すよう義務付けます。公布は今年11月、施行は来年4月1日の予定となっています。


カテゴリー:所長コラム

産後パパ育休がはじまります

2022年10月07日

先日、テレビを見ているとあるお父さんが笑顔で「今日は家族サービスで久しぶりのお出かけです。」とインタビューを受けていました。なんとなく違和感があったので、ネットで調べてみると…

「家族サービスという言葉を使う人は、普段家族に何もしていないですよね?家族に対して、何かすることが特別なことだと思っているからこそ、そういう言葉を選んで、使っているのでは?」「『休日は家族にサービスする』ふむふむ、何様のつもりでしょうか(笑)」など、『家族サービス』という言葉に嫌悪感を持つ人がたくさんいました。言葉の受け取り方って今の社会を反映しますからね。気を付けたいものです。

令和3年6月に公布された改正育児介護休業法が、今年の4月1日の一部施行に続いて、10月1日にも施行されます。今回の改正法の施行により育児休業制度が大幅に変更となります。

まずは、令和4年4月1日に施行された「個別周知・意向確認措置の義務付け」です。利用できる育児休業等の制度を知らない、理解が出来ていないという理由で、育児休業等の申出をしないことを防ぐための措置です。労働者本人又は配偶者の妊娠、出産についてその労働者から申出があったときは、その労働者に対して育児休業の制度等について知らせる(個別周知)とともに、育児休業等の取得の意向を確認するための面談等の措置(意向確認)を講じることが義務付けられました。個別周知と意向確認は、社内で周知をするだけではなく、「個別に」実施することが必要です。次に、雇用環境整備措置が義務となっています。育児休業を取得しやすい職場環境を整備し、育児休業の申出が円滑に行われるようにするため、育児休業についての研修の実施、育児休業に関する相談体制の整備、雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供、雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知の4つの措置のうちいずれか1つ以上を実施しなければなりません。この措置については、対象となる従業員が社内にいるいないにかかわらず、実施する必要があります。育児期の従業員でなかったとしても、養子をもらうケースがあるからのようです。

最後に10月1日から施行される「産後パパ育休(出生時育児休業)」です。新たに子の出生直後の男性の育児休業取得を促進することを目的とした、出生時育児休業の制度が創設されました。産後パパ育休は、子の出生後8週間の期間内に4週間以内の休業を取得できる制度です。赤ちゃんが生まれてお母さんが産後休業をとっている間にお父さんも休業を取得するということになります。また、この産後パパ育休中においては、労使合意の上で、働くことも可能です。そもそも育児休業中は、これまで一時的・臨時的に働くことしか認められていませんでしたが、産後パパ育休についてはその休業期間中の所定労働日数又は所定労働時間の半分以下の範囲内で就労することが可能となっています。しかし、働き方によっては、休業期間中に受けられる育児休業の給付金が大幅に減額されるケースも生じることになりそうです。厚労省のQ&Aでは、就労を認める対象となる労働者を、1日勤務できる者や特定の職種に限定することも可能としました。

あと、実務で注意する点として社会保険料の免除についての仕組の変更があります。施行日は本年10月1日となっています。育児休業を取得している期間は、社会保険料が事業主・被保険者とも免除されます。その期間は「育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月まで」とされています。そうなると、月の末日に育児休業を取得していればその月の保険料が免除されるため、月の末日の1日だけ休業したとしてもその月の給与・賞与の社会保険料が免除されることになります。しかし、月のほとんどが育児休業だったとしても月の末日を含んでいなければ社会保険料が免除されず不公平が生じていました。10月1日後は、給与の保険料は月の途中で14日以上(同一月内に限る)休業する場合も保険料が免除されることになり、賞与についても休業期間が1か月を超える場合に限り免除されるようになりました。改正前においては保険料の免除を狙ったと思われるような育児休業の取得が見られることもありましたので、納得の法改正だといえるのではないでしょうか。(参照:2022.10ビジネスガイド「特集2」より)

特定社会保険労務士 末正哲朗

実務に役立つQ&A

残業代を含めるか 社会保険適用拡大の8.8万円

Q 令和4年10月以降の社会保険の適用拡大について、週20時間以上働くパートですが、残業代は8.8万円に含まないとの理解で正しいですか。

A 被保険者となることができない者が、健保法3条等に列挙されています。同条9号ハに報酬に関する要件があります。すなわち、厚生労働省令で定めるところにより、法42条1項の規定の例により算定した額が、8.8万円未満としています。ここでいう報酬から、最低賃金法(略)4条3項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除きます。省令は健保則23条の4を指し、ここに「所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金」があります。

一方で、適用除外に該当せず被保険者資格を取得するときについてですが、「適用拡大の実施に伴い、新たに被保険者資格を取得する短時間労働者の(略)報酬月額の算出方法は、従来からの被保険者資格取得時の報酬月額の算出方法と同一」(令4・3・18事務連絡)としています。資格取得時の標準報酬月額を決定する際においては、当初見込まれる残業代を記載することになると解されています。

最新・行政の動き

厚労省は令和5年度、産業雇用安定助成金に新コースとして「スキルアップ支援コース」(仮称)を追加する方針です。

新コースでは、新型コロナウイルスの影響による事業活動の縮小がなくても、労働者の能力向上を図る目的で在籍型出向を行う場合に、出向元事業主に対して助成金を支給します。

在籍型出向は、自社にはない実践の場での経験から新たなスキルを習得することが期待できるため、賃金の一部を助成することで在籍型出向を推進し、企業活動の活性化を促すのが狙いです。助成金の活用場面として、DXをめざす企業がIT企業への出向を通じて従業員にデジタル技術を習得させるケースのほか、自動車関連工場への出向により、モノづくりにおける品質管理と工程管理に関する手法・考え方を習得させるケースなどが想定されます。

助成対象は、出向元事業主が負担した出向労働者の賃金で、助成率は中小企業が3分の2、大企業が2分の1。最長1年間にわたり、最大5人分まで支給します。1人1日当たり8355円を上限とする考えです。

新米社労士 越田のつぶやき

経営の神様の異名を持つ松下幸之助さんの言葉に[成功とは成功するまでやり続けることで、失敗とは成功する

までやり続けないことだ]というシンプルなものがあります。私自身この言葉に助けられた経験があります。

私は、社労士試験で2度不合格となり、3度目で合格しました。2度目の受験時は合格点に2点足りずに不合格

となり、正直社労士になるのを諦めようかと思っていましたが、この言葉を胸にもう1年頑張ることにし、無事

合格することが出来ました。松下幸之助さんの言葉は、何か人を熱くさせるものばかりですね。


カテゴリー:所長コラム

社会保険の調査にて

2022年09月01日

夏の甲子園大会が終わりましたね。今大会は、大阪桐蔭高校の春夏連覇に注目が集まりましたが、準々決勝で敗れてしまいました。どう見ても強すぎるので、「あれだけの選手を集めれば勝って当たり前」と言われ、完全に今大会のヒール役となっていたように思います。こんな「憎らしいほど強い」チームに育て上げた西谷監督はどういう人物なのでしょうか。

西谷監督は23歳で大阪桐蔭高校に赴任し、その当時の校長先生から「教えられる教師はたくさんいるけど、育てられる教師は少ない」という言葉があり、勉強や野球の技術を教えるだけでなく、子供たちを成長させるために信頼関係を大事にしたそうです。子どもたちから「この人の言うことなら間違いない」と思ってもらえる存在になることが必要だと思い、一人ひとりといかにコミュニケーションを取るか、つまり話を聴くかが重要だと考えたそうです。そんな西谷監督も、かつては子どもの言動を否定し、一方的に自分の意見を伝え、延々と説教をするようなダメ先生だったそうです。32歳のときに部内で不祥事があり半年くらいグランドに出られなかった時期があり、そのことをきっかけに指導者としてのあり方を勉強し直したそうです。また、もう一つ、監督として心掛けていることがあると言います。それは、「日本一」という言葉を日々の練習の中で使い続けているそうで、一日に最低十回は「日本一」を口にしているそうです。日本一と言ったから日本一になれるわけではないけれど、意図的に繰り返すことで、本気で日本一を目指す風土が醸成されていくのだそうです。「指導者が常日頃どのような態度で子どもたちと接し、どのような言葉を発しているか。それによってチームの成長、勝負の分かれ目が決まる。」西谷監督の二十年もの監督経験からの実感だということです。(「1日1話、読めば心が熱くなる 365人の仕事の教科書」致知出版社より)しっかりと目的や存在意義を明確にして、トップの「志」を組織に浸透させることで、目標が達成されます。高校野球も会社経営と同じなんですね。

先日、弊社のお客様の会社に年金事務所の社会保険の調査がありました。その際に永年勤続表彰制度により対象となった社員に支給された祝金が賞与にあたると指摘されることがありました。結果として追加で社会保険料の支払いを求められることになったわけですが、こういった動きは全国であるらしく、他県の社会保険労務士の情報では、福祉関係の事業所で通常の給与として支払っていた年末年始手当が賞与であるとされた事例もあるそうです。具体的には、12/30~1/3の間に出勤した場合に、1日5,000円の年末年始手当を支給していたところ、それが賞与だと指摘を受け、賞与支払届の提出をすることになったそうです。

社会保険における報酬は、「賃金、給料、手当、賞与などの名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのものをいい、金銭(通貨)に限らず現物で支給されるものも含む。」となっていて、報酬に該当しないものとして大入袋、見舞金、退職手当、交際費、慶弔費などがあります。そういったことからすると、祝金も報酬に該当しないものに含まれるように思われます。これまで、永年勤続表彰の祝金や年末年始手当については、賞与になるとは思いもしなかったというのが正直なところですが、どうも今後はそういうわけにいかないようです。

弊社のお客様の永年勤続表彰の祝金の件について、日本年金機構本部やいろんな年金事務所の調査担当者の方に話をうかがわせていただいたところ、基本的には“賞与になる”というのがぼくの感じたところです。ただ、あくまでもその一時的に支払われたお金が、「労務の対償」ではなく、「福利厚生」であると事業所が主張した場合、ある担当者からは、お祝金が社員及びその家族に対する福利厚生目的であることを規定に定めたうえで、福利厚生費で会計処理がなされていれば、賞与にはならないという回答もありました。しかし、絶対にこうだとは言い切れないように思います。年金事務所として明確な基準を持っていないようなので、各年金事務所の担当者の判断次第ということになりそうです。また、その他にも勤続手当、資格合格手当、バースデーギフト、社長賞などが「賞与」とされた事例があるということです。通常の給与以外に、額の多少にかかわらず、一時的な手当を支給するときは注意が必要ですね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

● 最新・行政の動き

厚労省は、精神障害に関する労災認定請求の大幅増加を受けて、認定基準の見直しに向けた検討を進めています。認定基準全般を検証し、より迅速・的確に心理的負荷を評価できるようにするのが狙いです

厚労省は、見直しに向けて議論している有識者検討会に対し、業務による心理的負荷につながる具体的出来事を記載した「評価表」の見直し案(たたき台)を提示。現行の評価表において、上司とのトラブルや、同僚等からの暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせなどを具体的出来事として示している「対人関係」に関する項目として、カスタマーハラスメントを追加するとしました

カスハラに関する具体的な項目として、「顧客や取引先、施設利用者等から(著しい)迷惑行為を受けた」を盛り込みます。迷惑行為の例には、暴行、脅迫、暴言のほか、著しく不当な要求を挙げる方針です。

また、最近の職場環境の変化を踏まえ、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務への従事」も具体的出来事に追加する考えです。

● 調 査

「いじめ」相談9%増 民事上の個別労働紛争

厚労省は、令和3年度の個別労働紛争解決制度の実施状況をまとめました。民事上の個別労働紛争の相談が増加しており、相談内容は「いじめ・嫌がらせ」が10年連続でトップになっています。

法制度の問合せも含め、全国の「総合労働相談コーナー」に寄せられた労働相談は124万2579件で、前年度比3.7%減少。このうち民事上の個別労働紛争は28万4139件で、同1.9%増加しました。

都道府県労働局長が行う助言・指導の申出は同7.1%減の8484件、紛争調整委員会のあっせん委員が仲介するあっせん申請は同11.6%減の3760件でした。

紛争内容では、民事上の紛争の相談、助言・指導申出、あっせん申請のすべてで「いじめ・嫌がらせ」が最多。いじめ・嫌がらせ関連は、相談が同8.6%増の8万6034件で、相談全体の約4分の1を占めました。助言・指導申出は7.8%減の1689件、あっせん申請は7.1%減の1172件でした。

【新米新米社労士 越田のつぶやき】

最近、中学卒業以来会っていなかった友達と10年ぶりぐらいにご飯に行く機会がありました。

その友達とは、中学時代は部活や漫画の話ばかりしていました。しかし先日ご飯にいった際には、

自然と仕事や結婚の話をしていました。その時のことを振り返ると、生意気ながら自分も少しは

大人になったなあと感じました。仕事においてもそう感じる日がくるといいのですが、恥ずかし

ながらまだまだだなあと感じる日々です。


カテゴリー:所長コラム



  • access
  • cubic
  • blog

pagetop