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年金改革法案とこれからの高齢者

2025年02月03日

年明けに、弊社近くの介護施設にいると思われる92歳の方から年賀状が届きました。「長い間ご無沙汰をしていました。小学校からの友達を思い出しております。春になったら会いましょう。」というようなことが書いてあります。ぼくには92歳の友達はいないし、それに名前が微妙に間違っていて、たちの悪いイタズラかと思いましたが、なんとなく間違っている名前を検索してみたところ県内の93歳の芸術家さんがヒットしました。この人に年賀状を送りたかったんだと思うと、とても大切なもののように感じて、その施設に年賀状を届けてきました。年の初めになにか良いことをしたような気持ちになりました。

日本鋼管の創業者である浅野総一郎氏は、「大抵の人は正月になると、また一つ年を取ってしまったと言い、殊に年配になると正月がくるのを恐がるが、私は年なんか忘れてしまっている。そんなことを問題にするから、早く年がよって老いぼれてしまう。この世は一生勉強していく教場であって毎年一階ずつ進んでいくのだ。年を取るのは勉強の功を積むことに他ならない。」勉強とは学問だけでなく仕事を通じて自分を磨くことで、その勉強に真剣勝負の心構えで臨むことが必要、それを積み重ねて一年に達した時、人生学の教場の一学年を卒業させてもらえる、と言葉を重ね、浅野総一郎氏はこう結んでいる。(月刊到知2024.3より)

昨年の経済財政諮問会議で「高齢者の定義を5歳延ばすことの検討」が提言されました。ようするに高齢者の定義を65歳から70歳にしてはどうかということです。さて、日本では百歳以上の高齢者が60年前と比べてどのくらい増えていると思われますか。1963年の統計で百歳以上の高齢者数は全国で153人でしたが、それが2023年には、男性1万550人、女性8万1589人で、なんと合計9万2139人になっています。60年間で約600倍に増えているんです。この数字は今後、一気に膨れ上がるといわれていて、団塊の世代が100歳になり始める2047年に50万人を突破し、2049年には65万人を超えるという予想もあります。健康寿命が延びていることもあって以前とは「高齢者」の意味が全く異なっていますが、高齢者の定義が「70歳から」になると年金制度はもちろんですが、いろいろな制度の設計に大きな影響が生じることが予想されます。

これからの通常国会で年金改革法案の提出される予定ですが、その目玉の一つが、働く高齢者の年金をカットする在職老齢年金制度の見直しです。65歳以上の高齢者は厚生年金と賃金の合計が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減額されますが、その基準額を2026年4月から月62万円に引き上げることで、約20万人の減額がなくなるそうです。この制度は、人手不足が強まるなかで高齢者の働く意欲をそいでいるとの指摘があるため将来的には廃止になると思われます。これから高齢者は、元気なうちは働き、働けない高齢者を助けることが当たり前になります。

80歳をとうにすぎたぼくの母ですが、高齢による両ひざの痛みですっかり外へは出歩かない生活になっていましたが、何を思ったのか両膝を手術すると言い出し、昨年末に入院しました。両膝に人工関節を入れるそうです。よほど痛かったのかとかわいそうに思う反面、年齢を考えるとずいぶん思い切ったことをするもんだと思いました。中村天風は「運命を拓く」のなかで、「活きている間に、一日一刻といえども、完全に活きることが、この貴重なる生命を与えてくれた造物主への正当な義務である。(中略)いくつになっても、いかなる場合も、自己向上を怠らないようにすること、これが自分の生命の本来の理想的な活き方なのだ。そういう気持ちを持っていると、いつまで年老いても、極めて壮健で元気よく、人並み以上の若さと溌刺さに満たされ、その生命というものは活躍してくれるのである。」といわれています。昭和の時代の考えや価値観に基づいた制度から脱して、今の時代にあった新しい生き方や仕組みを作り上げるための過渡期に日本はあるのでしょうね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

「106万円の壁」撤廃 最賃引上げが背景に 社保審年金部会報告書

厚生労働省の社会保障審議会年金部会は、年金制度改革の方向性に関する報告書をまとめました。短時間労働者に関する厚生年金の加入要件から「年収106万円の壁」となっている賃金要件の撤廃を盛り込んでいます。

地域別最低賃金の引上げによって、労働時間要件である週20時間以上働いた場合に月額賃金8.8万円以上の賃金要件を上回る地域が増加している点や、就業調整を行うかどうかを判断する基準として労働者から強く意識されている点を踏まえました。

賃金要件の撤廃時期については、保険料負担が相対的に過大にならないよう地域における最賃の引上げ動向を踏まえて決定すべきとしました。さらに、障害者など最賃の減額特例対象者のうち、月額賃金8.8万円以下の短時間労働者については、本人が希望する場合に任意で加入できる仕組みとします。賃金要件の撤廃後は、50人以下の中小企業への適用拡大を進めます。その際は、十分な周知・準備期間を確保するとしました。

年金部会では、労働者の負担感を軽減できるよう、標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者が厚生年金に加入する場合に、労使の保険料負担割合を変更できる特例措置の創設についても検討しましたが、慎重・反対意見がみられたため報告書には盛り込みませんでした。今後、政府において同特例の妥当性などの検討を深める必要があるとしました。

◆ニュース

0.1%引下げを了承 7年度雇用保険料率で 労政審部会

 厚生労働省は、労使が負担する令和7年度の雇用保険料率を引き下げる方針です。6年度の保険料率である1.55%から、0.1%引き下げて1.45%とする案を労働政策審議会雇用保険部会に示し、了承されました。そのうち、使用者の料率は0.9%、労働者の料率は0.55%となります。

現行の雇用保険料率の内訳は、失業等給付充当分0.8%(労使折半)、育児休業給付充当分0.4%(同)、雇用保険二事業充当分0.35%(使用者のみ)となっています。

雇用保険部会では昨年11月以降、財政状況を踏まえて弾力的に保険料率を設定できる失業等給付充当分および育休給付充当分の7年度保険料率について検討してきました。

同年12月23日の部会で厚労省は、失業等給付充当分について、5年度決算を踏まえた直近の財政状況が引下げの基準を満たしたとして、0.1%引き下げ、0.7%とする案を提示。育休給付充当分についても、0.4%を据え置くとしました。

「67歳定年」選択可に 技術者確保へ2年延長 大和ハウス

 大和ハウス工業㈱は、豊富な経験を持つ1級建築士や1級施工管理技士を確保するため、定年年齢を65歳とするか67歳とするか選択できる制度を導入しました。すでに2022年から60歳での役職定年や収入抑制措置を廃止しているため、最長で67歳まで、報酬を維持して働くことが可能となります。

同社は23年に、65歳定年後も原則70歳まで嘱託社員として週4~5日勤務できる再雇用制度を導入しました。とくに建築士などの技術者に関しては、年齢制限を撤廃し、生涯を通じての活躍を促しています。一方、再雇用を機に報酬が半減、またはそれ以下になることから、モチベーション低下や他社への人材流出などの課題がありました。

新制度の対象は、技術系職種の大半が所属する「全国社員(転勤あり)」のコースに限定しています。現在すでに再雇用となっている社員も、来年度以降67歳を迎える者については「67歳定年」を選択して正社員に戻ることを一部認めます。よりモチベーションの高い社員に活躍してほしいとの考えから、現在週5日で勤務している者に限定しました。


カテゴリー:所長コラム

令和7年度の年金制度改正と改正育児介護休業法

2025年01月06日

昨年末のSNSへの投稿です。「ボーナスの使い道 1位所得税、2位厚生年金保険料、3位健康保険料」その他にも「天引きされている社会保険料の額が大きすぎる」と不満が続出しているようです。20年前にはボーナスの社会保険料率が1%だったことを考えると、その金額に驚くのも無理はないですね。そんな社会保険料に注目が集まる中で、2025年は5年に一度の年金制度改正の年にあたります。まず、見直しの第一の柱にあげられるのは「基礎年金の底上げ」です。厚生年金の受給者を含めたすべての人が受け取る基礎年金は、過去30年と同程度の経済状況が続く場合、年金財政悪化のために、今のままでは将来の受け取り水準が3割低下するといわれています。次に第二の柱には「働き控え」を減らすことが挙げられています。改革案ではパートの働き控えを減らすため「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す方針です。また、高齢者の働き控えもあります。一定の給与所得がある高齢者について受け取る年金額を減らす「在職老齢年金制度」を縮小して、年金を満額受給できる人を増やします。現在は給与と厚生年金の合計額が月50万円を超えると、受け取る厚生年金が減らされますが、この基準額を62万円もしくは71万円に引き上げることが検討されていて、働く高齢者の就労意欲がそがれないようにします。最後に第三の柱ですが、高所得者の負担増を通じた年金財政の安定となっています。現在は厚生年金保険料の算出に用いる「標準報酬月額」の上限が月収65万円となっていますが、75万円~98万円に引き上げられる予定です。賞与を除く年収798万円以上の人の厚生年金保険料が増えることになります。

このような年金制度への大きな影響を与えているのは日本の人口動態ですが、特に生産年齢人口の減少により多方面で労働力の確保が困難となっている現状はかなり深刻です。そんな中でも労働力として頑張ってくれているのが「女性」です。総務省の労働力調査によると2024年上半期の女性の正社員数は15歳~64歳で1241万人となって、21年ぶりに非正規社員の数を上回りました。その正社員が増えている理由ですが、結婚・出産後も仕事を続ける女性が増えたことが大きいようです。最近の出産動向基本調査によると、第一子出産後も働き続ける妻は53.8%と、20年間で2倍以上に増えています。

このような女性の労働参加を支えるために、これまで法改正が繰り返し行われてきました。まず、勤労婦人福祉法が1972年(昭和47年)に制定され、初めて女性労働者への育児休業の実施等については事業主の努力義務であることが定められました。その後は、男性労働者も含めてすべての女性労働者に広く育児休業を保障するまでにはいたらなかったわけですが、大きな転機となったのは、1989年(平成元年)の「1.57ショック」といわれています。この年の合計特殊出生率は、1966年(昭和41年)「ひのえうま(丙午)」の年の1.58を下回って、戦後最低の1.57となり出生数は前年比-25.4%にまで落ち込みます。ひのえうまの年に生まれた女性は火のように激しく、夫を食い殺すという言い伝えがあり、女性の縁談には悪い条件になるとされたため、多くの夫婦が出産を避けたそうです。私は昭和42年の生まれになるので、その前の年がひのえうまの年にあたっていたわけですが、一学年上の先輩の人数がとても少なかったことだけは覚えています。この1989年が、仕事と育児の両立を推進する政策の重要性を痛感させることになって、1歳未満の子を養育する男女労働者に対して育児休業の権利を保障する「育児休業等に関する法律」が1991年に制定されるにいたりました。育児介護休業法は、幾度もの法改正を経て現在にいたっていますが、今年(令和7年)もまた改正が予定されています。 

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

意見聴取は施行前に 柔軟な働き方実現措置 育介法Q&A

厚生労働省は、2025年4月と10月の2段階で施行する改正育児介護休業法に関するQ&Aをまとめました。3歳~小学校就学前の子を養育する労働者に対する柔軟な働き方を実現するための措置について、導入要件となる過半数労働組合などへの意見聴取は施行日である2025年10月1日よりも前に行う必要があるとしました。

改正法では同措置として、始業時刻等の変更、テレワーク、短時間勤務制度などから2つ以上を選択して講じるよう事業主に義務付けました。選択時には、過半数組合または過半数代表者から意見を聴取しなければなりません。さらに、3歳未満の子を養育する労働者への個別周知および利用意向の確認も義務付けています。

Q&Aでは、施行日の2025年10月1日時点で措置を講じることができるよう、過半数組合などの意見聴取はあらかじめ行っておくべきとしています。

労働者への個別周知・意向確認については、施行日前に実施する義務はないと明記しました。ただし、施行前に行っておくのが望ましいとしました。

事業主が措置を用意していても、労働者の職種などから利用できないことがあらかじめ想定される場合は、措置義務を果たしたことにならないと指摘しています。

◆ニュース

工期設定で協力依頼 働き方改革へ発注側に 厚労省・国交省

 厚生労働省と国土交通省は、民間建設工事の発注事業者を会員に持つ主要経済団体に対し、建設業の働き方改革の実現に向けた取組みに関する協力要請を行いました。工期設定に当たり、週休2日を確保するほか、受注者からの見積りに基づき、受注者・下請が時間外労働の上限規制を遵守できる内容となるよう、会員企業の協力を求めています。

 上限規制遵守の観点からは、猛暑日、降雨・降雪日、河川の出水期などの自然的要因における不稼働によって、作業が他の期間に集中する可能性があることへの配慮を要請。技能者や重機オペレーターが現場へ移動する時間が労働時間に該当し得る点についても注意を促しました。また、工事の前工程で工程遅延が発生するなどして受注者から工期について協議の申出があった場合には、適切に協議し、状況に応じて工期延長など必要な契約変更を実施するよう訴えています。

「交際相手の近くに」も 希望転勤制を拡充 トラスコ中山

工場用工具卸売業のトラスコ中山㈱(東京都港区)は、従業員に対して交際相手の居住地近隣への転勤を認める「ひなどり転勤制度」を新設しました。2005年から配偶者の転勤や結婚・介護などに伴う“希望転勤”は可能でしたが、対象範囲を拡大しています。これまでも結婚を控えたケースなどには準用してきたところ、線引きが分からないなどの声もあり、改めて制度化を図りました。転勤の申請に当たり、書類の提出などは特段求めません。

同社では全国転勤型の総合職に対し、ジョブ・ローテーションを通じて育成を行います。配置転換を繰り返すなか、従業員が自らの事情に沿って勤務地を選択可能とし、将来の人生設計を考えやすくするのが狙いです。

過去3年間に既存の希望転勤制度を利用した人数は、育児・介護など家庭の事情による「希望転勤制度」が67人、配偶者の転勤に伴う「おしどり転勤制度」が18人となっています。


カテゴリー:所長コラム

年末年始休業のお知らせ

2024年12月23日

いつもお世話になりありがとうございます。

誠に勝手ながら12月28日(土)~1月5日(日)まで年末年始休業とさせていただきます。

ご迷惑をお掛けいたしますが、宜しくお願いいたします。

2025年も皆様にとって良い1年になりますよう心よりお祈り申し上げます。

どうぞ良いお年をお迎えください。


カテゴリー:お知らせ

これから日本が迎える「2040年問題」とは

2024年12月02日

日本の人口減少と少子高齢化が進行することにより、2040年に表面化する社会問題の総称を「2040年問題」といいます。2040年の日本では65歳以上の高齢者が3,929万人となり、全人口の34.8%を占めると予想されています。これは、1971年から1974年にかけて生まれた「団塊ジュニア世代」が65歳を超える年が2040年です。そのため、その時期には、高齢化による高齢者人口の増加と少子化による労働人口の大幅な減少が同時に起こり、日本経済や社会保障が危機的な状況に陥るといわれています。

政府が2018年に公表している将来推計では、自己負担分を除いた費用の総額にあたる社会保障給付費は2040年度に190兆円程度に達して今年度に比べて4割程度も増加する見通しになっています。その財源は当然、国民や企業が払う税金や保険料となります。連合が公表した今年の賃上げの結果によれば、平均で5.1%となり33年ぶりの賃上げ率となっていますが、なかなかその恩恵を感じられないという人が多くいるといわれます。その理由は、日本の税制においては、給与から直接引かれてしまう税や社会保険料の額が大きいために国民の負担感が増しているということになりそうです。

社会保険料を減らす改革の一方で取り組む必要があるのは少子化対策です。この数年は、新型コロナウィルスの影響で、子どもが生まれる数である出生数が世界中で急減しているといわれています。日本は新型コロナ前から少子化が問題になっていたので、コロナにより出生数が激減したとまではいえない状況ですが、確実に減少し続けているのは間違いないようです。2015年前後までは10万人の減少に10年強を要するペースであったものが、2016年に初めて100万人を下回ってから、わずか3年後の2019年に90万人を大きく下回って86.5万人となりました。さらに、2022年には77万人にまで落ち込んでいます。昭和女子大学総長の坂東眞理子氏は、「日本の課題は少子化、人口減、労働力不足である。歴代の内閣も児童手当の増額、高校授業料の無償化、大学奨学金の増額、保育所の定員増、育児休業の充実などに取り組んできたが、効果は出なかった。出所率が日本の1.20より低い0.72の韓国も児童手当の充実、育児休業など日本同様力を入れてきたものの、出生率を上向かせることはできなかった。」「日本は効果の期待できない少子化対策に注力し続けている。少子化の最大の原因は結婚できない若者(特に若い男性)の増大なのだが、相変わらず、生まれた子供の養育負担の軽減に努めている。日本もこれからは効果の乏しい対策に力を注ぐだけでなく、人口や労働力が減る中でどうこの社会経済を維持するか考えるべきではないだろうか。」(北國新聞2024.11.4)と話されています。若い男性が結婚できていないという指摘には注目するところです。すべての人が結婚しなければいけないという話ではないですが、結婚に対する考え方が多様化していて、日本の平均年取が上がらずに結婚に躊躇する人が増えていることは事実ですし、今後も婚姻数は下がり続けることになることが危惧されます。

保育園の関係者によると、最近は20代前半の若いうちに出産、育児を済ませたいと考える女性が増えているそうです。そうするとその親の世代はまだ50代くらいなので現役で働いていることも多く、昔とちがい育児を、「おじいちゃん、おばあちゃん」に手伝ってもらえないということになるので、若い親が二人で協力して育児をしなければならず二人で育児休業がとれるのはありがたいことなんだということでした。厚労省の2024年の調査では18~25歳の約2000人のうち、男性の約9割が「仕事も育児も熱心に取り組むつもり」と回答しています。「男性も育児をするのが当たり前」との意識を職場の管理職が持って、若い世代の意識を理解する必要がありそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

フリーランス 労働者性の確認を強化 監督署に相談窓口 労基法違反は是正勧告へ

厚生労働省は、業務委託などで働く個人事業主(フリーランス)からの相談を端緒に、労働基準監督署において労働者に当たるかどうかの判断を積極的に行っていく方針です。11月のフリーランス新法施行に合わせ、全国の労基署に「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を設置しています。相談者の「申告」に基づき、委託者である企業に立入調査を実施していきます。実態から労基法上の労働者に該当すると判断し、割増賃金不払いや違法な時間外労働などの違反がみつかったときは是正勧告します。

厚労省によると、近年は働き方が多様化し、フリーランスとしての新しい働き方が拡大する一方で、実態は労働者に当たる働き方をしているにもかかわらず、労基法などによる保護が受けられていないといったケースがあります。そのため、全国の労基署に設置した窓口では、平日の8時30分~17時15分の時間帯に、自身の働き方が労働者に該当すると考えるフリーランスからの相談に広く対応します。割増賃金の不払いや違法な時間外労働のほか、「年次有給休暇が取得できない」「労災保険を使わせてもらえない」といった悩みなどを受け付けます。

労基署がこれまでに処理したフリーランス関係の申告事案では、建設業の一人親方や、宅配ドライバーなどの運転者が多かったといいます。窓口での相談を端緒として、実態が労働者となっている者の労働環境整備に努める方針で、厚労省は「フリーランスを活用している企業は、指揮監督下で働かせていないかなどをチェックしてほしい」と話しています。

◆ニュース

実態勘案し総合判断 新興企業役員の労働者性 厚労省通達

 厚生労働省は、新しい技術やビジネスモデルで急成長をめざす企業である「スタートアップ企業」について、そこで働く者への労働基準法の適用を巡る解釈に関する通達を都道府県労働局長に発出しました。スタートアップの役員であっても労基法上の労働者に該当するかどうかは、勤務場所・時間の拘束性の有無や報酬の労務対償性などを判断要素として個々の実態を勘案し、総合的に判断するとしています。

取締役などの役員は一般的には労働者に該当しないと考えられるとする一方、取締役であっても就任の経緯や取締役としての業務執行の有無、業務への対価の性質・額などを総合考慮しつつ、会社との実質的な指揮監督関係や従属関係を踏まえて労基法上の労働者と判断した裁判例があることに留意すべきとしました。

管理監督者に該当するか否かについても、実態に沿って総合的に判断すると指摘しました。

取締役などの役員兼務者や、経営者直属の組織の長、企業内でそれらと同格以上に位置付けられている全社的なプロジェクトを統括するリーダーなどについては、基本給や役付手当が地位にふさわしい待遇となっていたり、一時金の支給率などにおいて職場の一般労働者に比べて優遇措置を講じていたりする場合、「一般的には管理監督者の範囲に含めて差し支えない」としています。

年1回管理者に研修 カスハラ対応体制示す マツキヨココカラ

ドラッグストアチェーン大手の㈱マツキヨココカラ&カンパニーは、カスタマーハラスメントに対する基本方針を策定し、対応マニュアルの作成や管理者向け研修の実施など、今後の対応体制を示しました。

店長、スーパーバイザーなどの管理者全員を対象として、今年度下期中の研修実施を予定しています。先行して全従業員に向けた「クレーム・トラブル対応研修」を10月に行いました。いずれも今後は年1回開催していく予定です。

相談窓口はすでに社内に設置しており、管理者・当事者の双方から相談を受け付けています。内容によっては関連部署と連携し、会社として対応します。相談窓口やお客様相談窓口に集まる情報を中心に事例を蓄積し、クレーム・トラブルの傾向を分析。特筆して多いケースなどについては統一した対応方法を定め、社内研修や対応マニュアルを通じて教育します。対応マニュアルは店舗運営マニュアルの一部として取り扱い、随時アップデートしていきます。

カスハラ対応については、今春に労働組合からの要求があったといいます。基本方針は、厚生労働省のマニュアルとUAゼンセンのガイドラインを参考に策定しています。


カテゴリー:所長コラム

外国人材の確保、育成就労制度の導入へ

2024年11月01日

私が技能実習制度に初めて関わりをもつようになったのは20数年前になります。20年前は日本と中国の経済力の差は明らかだったこともあって、中国からの実習生がほとんどでした。実習生は毎日、長時間の残業をこなして、その毎月の給与のほとんどを母国にいる家族へ送金しており、自分たちは1か月を数千円で生活していたようです。そのかわり、日本で3年間頑張れば帰国後に家が建つとまで言われていたものです。その後は、中国の経済水準が向上したことで、来日する実習生は中国からベトナムへと移り変わりました。さらに最近ではミャンマーからの技能実習生が増えてきています。ミャンマーは仏教国で家族を大切にする国民性が日本人との相性も良く、一緒に働く仲間として受け入れられているようです。

そのような日本の技能実習制度ですが、国際的には批判を受けていて制度の廃止の議論が長くなされてきました。そんな中で、令和6年6月14日に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び外国人の技能実習の保護に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。この法改正により技能実習制度を発展的に解消して、育成就労制度が新設されることになり、これから外国人を受け入れる日本の環境が整備されることになりました。技能実習制度は日本の技術の海外移転による国際貢献が目的でしたが、育成就労制度では、人手不足の状況等を適切に把握したうえで、外国人を受け入れる対象分野ごとに受け入れる見込み人数を適切に設定することとされていています。外国人は労働力であることがはっきりしたわけです。しかし、育成就労制度において、技能実習制度の基本的な枠組みが変更されるかというと、大きく変わる点はないように思いますが、育成就労制度の特徴は外国人の人権への配慮がなされたということではないでしょうか。また、育成就労制度では、分野や業務の連続性の強化により、特定技能への移行を見据えたキャリアアップを前提にしています。原則として3年間の就労を通じて日本での永住の道も開ける特定技能に当たる水準の人材を育成するための制度とされ、受け入れの対象分野は特定技能1号の特定産業分野と基本的には一致させることになっています。また、段階的な日本語能力の習得も求められます。育成就労制度では、就労開始前、育成就労終了時および特定技能への移行時に一定の日本語能力がないと就労開始や移行ができないことになりました。次に「転籍」についてです。技能実習制度では、実習中であることを理由に「転籍」は原則としてはできませんでしたが、これが実習生の失踪の原因になっていると指摘されてきたため、育成就労制度では、一定の要件のもとで同一業務区分内での本人意向による転籍を認めることとされました。

今、世界では外国人労働者の獲得競争が起きています。そもそも超少子高齢化と生産年齢人口の減少が進んでいる国は、日本だけではないということです。日本ほどではないですが、欧米諸国も着実に高齢化率が上がってきているし、特にお隣の韓国の状況は日本以上に深刻といわれています。そして、中国でも急速な少子高齢化による労働人口の減少に対して定年年齢の段階的な引き上げを決めたところです。

自国の政情や経済不安から逃れたいという思いから日本で働くことを希望する外国人は多く、日本で永住を希望する人も少なくないと聞きます。また、この数年で実習生が日本で働くという感覚は大きく変化しました。お金を稼ぐという目的だけではなく、多くの外国人は旅行などで日本での生活を楽しむようになりました。日本の魅力は、外国人がその家族と平和で安全に暮らすことができる場所であると世界に発信していくことが将来の労働力不足を解消することにつながるのかもしれません。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

ストレスチェック 「50人未満」にも実施義務 報告までは求めず 厚労省検討案

ストレスチェック制度は、労働者の心理的な負担の程度を把握するために医師などが実施する「ストレスチェック」と、その結果の「集団分析」、分析に基づく「職場環境改善」で構成するものです。ストレスチェックは50人以上の事業場に実施義務があり、50人未満事業場については、労働者のプライバシーの保護が難しいことから努力義務となっています。集団分析と職場環境改善は、企業規模にかかわらず努力義務が課されています。

法改正後から5年以上が経過していることから、厚生労働省は今年3月に有識者検討会を設置し、見直しに向けた議論を重ねてきました。9月30日の第6回会合では厚労省が中間取りまとめの骨子案を提示。規模の小さい企業でも健診機関やEAP事業者など外部機関を活用することでプライバシーの保護が図れるなど、ストレスチェックに対応できる環境がある程度整ったとみて、実施義務の対象を50人未満に広げるのが適当としました。他方、負担軽減の観点から、労基署への報告義務を課さない方向です。

50人未満事業場については、原則としてストレスチェック実施を外部委託することが推奨されるとしました。ただし、事業者として実施方針の表明や実施計画の策定などに主体的に取り組む必要があるため、厚労省において実施体制・方法に関するマニュアルを作成し、周知徹底を図るとしています。骨子案ではさらに、企業が実施体制を整えられるよう、義務化までに十分な準備期間を設定するのが適当としました。「少なくとも数年間は必要」(厚労省労働衛生課)といいます。

◆ニュース

お祝い金禁止徹底へ 来年1月から許可条件に 職業紹介

 厚生労働省は、有料職業紹介事業など労働力需給調整機能の強化策の一環として、来年1月1日から、指針で規定されている「就職お祝い金」などの金銭等提供禁止および就職後2年間の転職勧奨禁止を職業紹介事業の許可条件に追加する方針です。違反行為が継続・反復した事業者は許可取消しの対象になります。

 来年1月以降の新規許可・有効期間の更新から順次、新たな許可条件を付していきます。

 具体的には、個々の事業者に交付する許可条件通知書において、「その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る)に対し、就職した日から2年間、退職の勧奨を行ってはならないこと」、「求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと」を記載します。

 更新月の到来前にこれらの禁止事項に違反した場合は、指導を行うとともに許可条件を付けます。

内定辞退者3年以内なら即採用 イオンリテール

イオンリテール㈱は、退職者の再雇用制度を大幅に拡充しました。従来は結婚・出産・育児・介護などのやむを得ない事情で退職した者に対象を限定していましたが、新たに転職者や内定辞退者を対象に含めます。資格等級は退職時以上とすることを基本とし、3年以内の内定辞退者から希望があった場合は、選考を経ずに採用とします。

退職者の場合は、退職前の在職期間が1年以上の正社員およびアルバイトを除くパートタイム従業員が対象。制度利用の申込みは専用ホームページで受け付けており、退職時の事前エントリーは必要としません。

再雇用時の処遇に関しては、著しくスキルが落ちているなどの例外を除き、基本給の多くを占める職能給部分を保障します。職能給は職能資格ごとにシングルレートで設定しています。


カテゴリー:所長コラム



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