外国人材の確保、育成就労制度の導入へ
2024年11月01日
そのような日本の技能実習制度ですが、国際的には批判を受けていて制度の廃止の議論が長くなされてきました。そんな中で、令和6年6月14日に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び外国人の技能実習の保護に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。この法改正により技能実習制度を発展的に解消して、育成就労制度が新設されることになり、これから外国人を受け入れる日本の環境が整備されることになりました。技能実習制度は日本の技術の海外移転による国際貢献が目的でしたが、育成就労制度では、人手不足の状況等を適切に把握したうえで、外国人を受け入れる対象分野ごとに受け入れる見込み人数を適切に設定することとされていています。外国人は労働力であることがはっきりしたわけです。しかし、育成就労制度において、技能実習制度の基本的な枠組みが変更されるかというと、大きく変わる点はないように思いますが、育成就労制度の特徴は外国人の人権への配慮がなされたということではないでしょうか。また、育成就労制度では、分野や業務の連続性の強化により、特定技能への移行を見据えたキャリアアップを前提にしています。原則として3年間の就労を通じて日本での永住の道も開ける特定技能に当たる水準の人材を育成するための制度とされ、受け入れの対象分野は特定技能1号の特定産業分野と基本的には一致させることになっています。また、段階的な日本語能力の習得も求められます。育成就労制度では、就労開始前、育成就労終了時および特定技能への移行時に一定の日本語能力がないと就労開始や移行ができないことになりました。次に「転籍」についてです。技能実習制度では、実習中であることを理由に「転籍」は原則としてはできませんでしたが、これが実習生の失踪の原因になっていると指摘されてきたため、育成就労制度では、一定の要件のもとで同一業務区分内での本人意向による転籍を認めることとされました。
今、世界では外国人労働者の獲得競争が起きています。そもそも超少子高齢化と生産年齢人口の減少が進んでいる国は、日本だけではないということです。日本ほどではないですが、欧米諸国も着実に高齢化率が上がってきているし、特にお隣の韓国の状況は日本以上に深刻といわれています。そして、中国でも急速な少子高齢化による労働人口の減少に対して定年年齢の段階的な引き上げを決めたところです。
自国の政情や経済不安から逃れたいという思いから日本で働くことを希望する外国人は多く、日本で永住を希望する人も少なくないと聞きます。また、この数年で実習生が日本で働くという感覚は大きく変化しました。お金を稼ぐという目的だけではなく、多くの外国人は旅行などで日本での生活を楽しむようになりました。日本の魅力は、外国人がその家族と平和で安全に暮らすことができる場所であると世界に発信していくことが将来の労働力不足を解消することにつながるのかもしれません。
特定社会保険労務士 末正哲朗
◆最新・行政の動き
ストレスチェック 「50人未満」にも実施義務 報告までは求めず 厚労省検討案
ストレスチェック制度は、労働者の心理的な負担の程度を把握するために医師などが実施する「ストレスチェック」と、その結果の「集団分析」、分析に基づく「職場環境改善」で構成するものです。ストレスチェックは50人以上の事業場に実施義務があり、50人未満事業場については、労働者のプライバシーの保護が難しいことから努力義務となっています。集団分析と職場環境改善は、企業規模にかかわらず努力義務が課されています。
法改正後から5年以上が経過していることから、厚生労働省は今年3月に有識者検討会を設置し、見直しに向けた議論を重ねてきました。9月30日の第6回会合では厚労省が中間取りまとめの骨子案を提示。規模の小さい企業でも健診機関やEAP事業者など外部機関を活用することでプライバシーの保護が図れるなど、ストレスチェックに対応できる環境がある程度整ったとみて、実施義務の対象を50人未満に広げるのが適当としました。他方、負担軽減の観点から、労基署への報告義務を課さない方向です。
50人未満事業場については、原則としてストレスチェック実施を外部委託することが推奨されるとしました。ただし、事業者として実施方針の表明や実施計画の策定などに主体的に取り組む必要があるため、厚労省において実施体制・方法に関するマニュアルを作成し、周知徹底を図るとしています。骨子案ではさらに、企業が実施体制を整えられるよう、義務化までに十分な準備期間を設定するのが適当としました。「少なくとも数年間は必要」(厚労省労働衛生課)といいます。
◆ニュース
お祝い金禁止徹底へ 来年1月から許可条件に 職業紹介
来年1月以降の新規許可・有効期間の更新から順次、新たな許可条件を付していきます。
具体的には、個々の事業者に交付する許可条件通知書において、「その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る)に対し、就職した日から2年間、退職の勧奨を行ってはならないこと」、「求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと」を記載します。
更新月の到来前にこれらの禁止事項に違反した場合は、指導を行うとともに許可条件を付けます。
イオンリテール㈱は、退職者の再雇用制度を大幅に拡充しました。従来は結婚・出産・育児・介護などのやむを得ない事情で退職した者に対象を限定していましたが、新たに転職者や内定辞退者を対象に含めます。資格等級は退職時以上とすることを基本とし、3年以内の内定辞退者から希望があった場合は、選考を経ずに採用とします。
退職者の場合は、退職前の在職期間が1年以上の正社員およびアルバイトを除くパートタイム従業員が対象。制度利用の申込みは専用ホームページで受け付けており、退職時の事前エントリーは必要としません。
再雇用時の処遇に関しては、著しくスキルが落ちているなどの例外を除き、基本給の多くを占める職能給部分を保障します。職能給は職能資格ごとにシングルレートで設定しています。
カテゴリー:所長コラム