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雇用保険法の改正

2024年10月02日

令和6年度の地域別最低賃金の引上げ額の「目安」が全国一律で「50円」と決定されて、この10月からは目安どおりに引き上げられることになりました。その上昇率は5.0%で、最賃の全国加重平均は1054円となります。北海道や茨城、滋賀などの8道県が新たに1000円以上に達し、これで計16都道府県が1000円以上となります。また、引き上げ後は、東京都の1163円が最高額となり、岩手県の943円が最低額です。ちなみに、石川県は983円が予定されています。今年は、徳島県が現行の896円から過去最大の84円引き上げて980円にすると決定したことには驚かされました。これまで徳島県の最低賃金は全国で2番目の低さでしたが、徳島県の後藤田知事が審議会に対して複数回にわたって大幅な賃上げを要請していて、最終的には「徳島県の立ち位置にふさわしい最低賃金とする必要がある」という理由で980円に決定したということです。

政府は最低賃金について、「2030年代半ばまでに全国加重平均1500円」とする目標を掲げていますが、中小企業の経営環境は厳しく、コストの価格転嫁を実現できた企業とできなかった企業の二極化がみられたり、企業倒産件数が増加傾向にあったりするなど、賃上げ原資の確保が難しいケースも多くなっています。最近、ぼくが立ち会った飲食店の労基署の調査では、直近2年間の最低賃金の上昇が急激すぎて従業員の時給が追い付いておらず、アルバイトの時給が最賃賃金に届いていなかったため是正勧告を出されてしまい、事業主は頭を抱えていました。

今年の5月に雇用保険法が改正されました。この改正では、教育訓練やリ・スキリング支援の充実のための自己都合退職の場合の給付制限の緩和などが含まれていますが、やはり短時間労働者への適用拡大は影響がありそうです。これまで、週所定労働時間20時間未満の労働者は雇用保険から適用除外とされていましたが、今回、週20時間以上の者から10時間以上の者に適用拡大することとされました。雇用保険は、「自らの労働により賃金を得て生計を立てている」労働者が失業した場合の生活を守ることを目的とした制度です。そのため被保険者となる者は、失業により給与がなくなってしまうと生活できなくなるリスクを負う者に限られていて、その基準が、これまではフルタイム労働者の週所定労働時間(40時間)の半分である20時間に設定されてきたというわけです。週20時間に満たない者の賃金は、家計補助に過ぎないとされてきましたが、生計の一端を担う者にまで基準を緩和するという考え方に今回の改正で変更されました。こうなると個人的に気になるのは、社会保険への影響です。社会保険の適用となる時間の基準は、週20時間で雇用保険と同じ時間となっています。社会保険は雇用保険と異なり、所得補償を主目的とはしていないのでそのまま基準の拡大が社会保険に当てはめられることはないと思いますが、財源の確保といった点から見ると両制度とも厳しい状況にあるといえるので、拡大の方向に向かわざるをえないように思います。適用拡大は、社会保障の充実といったことからもこれから加速していくように思います。

最後にもうひとつ押さえておきたい改正点があります。昨年、岸田首相が「子ども・子育て政策」の中で、男性の育休取得率を85%にまで引き上げることと併せ、産後期間の給付金の額を休業前賃金の手取り額10割にすることを掲げていましたね。それによって令和7年4月に「出生後休業支援給付」が施行されます。出生後休業支援給付は、子の出生直後の産後休業期間に、被保険者と配偶者の両方が、つまり両親で14日以上の育児休業等を取得すると、最大28日間まで休業開始前賃金の13%相当額が支給される制度です。既存の育児休業給付(67%)とあわせて給付率は80%となり、その間は社会保険料も免除されるため休業開始前賃金の手取り100%相当額になるという仕組みです。この制度は両親で育児休業等を取得することが要件になっていますが、配偶者が専業主婦である場合など様々な事情から育児休業を取得することが出来ないときは、配偶者の取得要件は問われないことになっています。この給付の創設にあたっては、財源問題が高いハードルだといわれていましたが、こども家庭庁が社会保険料などとともに徴収する「子ども・子育て支援金」が活用されることになりました。男性の育児参加を増やして出生率を向上させることが政府の目的ですが、こうなると男性社員は子どもが生まれてからの2か月間は育児休業を絶対にとりたいと思うようになるでしょうね。 

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

最賃平均1055円 27県が引上げ目安上回る 答申結果

 厚生労働省は、全国すべての地方最低賃金審議会で令和6年度の地域別最低賃金の改定額を答申したと発表しました。47都道府県の引上げ額は50~84円で、全国加重平均額は前年度から51円上昇して1055円になります。上昇額は、「目安」創設以降で最も高く、27県で中央最低賃金審議会が示した目安額の50円を上回りました。

各地の答申結果によると、最賃水準の低い地域を中心に、目安を上回るケースがめだちました。最も引上げ額が高いのは徳島の84円。以下、岩手と愛媛が59円、島根58円、鳥取57円などと続きます。

引上げ後の最賃最高額は東京の1163円で、次いで神奈川が1162円。以下、大阪1114円、埼玉1078円、愛知1077円と続き、合わせて16都道府県で1000円を超えました。一方、最低額は秋田の951円となり、すべての地域で950円に到達。最高額に対する最低額の比率は前年度の80.2%を上回る81.8%で、10年連続で改善しました。改定後の最賃は10月1日から順次発効します。

第1号はPayPay デジタル払いの指定業者 厚労省

厚生労働省は、賃金のデジタル払いに関与できる資金移動業者として、PayPay㈱を指定しました。

賃金のデジタル払いは、各事業場で労使協定を締結し、本人の同意を得たうえで、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動によって賃金を支払うもの。昨年4月の改正労規則施行によって導入されました。厚労大臣が指定したのは同社が初めて。

デジタル払いが行える口座名は、「PayPayマネーアカウント(給与受取)」で、口座残高の受入れ上限額は20万円。上限額を超えた場合には、超過金額を、労働者が指定した銀行口座などに自動で送金します。

同社破綻時においては、保証機関である三井住友海上火災保険㈱が口座残高の全額を保証します。破綻時から6営業日以内に、労働者が指定する銀行口座などに保証額を振り込みます。

同社のデジタル払いサービスは、ソフトバンクグループ各社の従業員を対象に先行して開始します。そのほかの企業の労働者については、年内開始を見込みます。申込みは各労働者がPayPayアプリ内から行います。

◆監督指導動向

均等・均衡待遇 慶弔休暇の違反めだつ 是正指導は176件に 大阪労働局

大阪労働局は、同一労働同一賃金の遵守徹底に向けて、是正指導を強化しています。このほどまとめた令和5年度のパートタイム・有期雇用労働法に基づく是正指導件数は、1143件に上りました。4年度の501件から倍増し、なかでも均等・均衡待遇に関する指導は、約18倍となる176件実施しています。違反の多くは、慶弔休暇などの福利厚生や手当における不合理な待遇差でした。

たとえば慶弔休暇では、正社員には付与しているが、短時間・有期雇用労働者には付与していなかったり、日数を減らしていたりする会社が多くみられました。待遇差を設ける場合であっても、1週間に3日のみ勤務する短時間労働者については、まずは勤務日の振替で対応できないか検討するよう指導したケースがあるとしました。

給与面では、通勤手当などの各種手当の支給基準に不合理な待遇差を設けている企業を多数確認しました。待遇に差を付ける場合は、所定労働日数に応じて日額交通費を支給するなどの指導を行っています。

同労働局では、昨年度以上に報告徴収を積極化しています。「労基署の監督時には、必ず同一労働同一賃金の状況を確認している。法遵守の徹底に向け、丁寧に指導を行っていく」としています。


カテゴリー:所長コラム


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