人事・労務のエキスパート、石川県金沢市の社会保険労務士法人 末正事務所。人事・労務管理相談、社会保険労働保険手続き、紛争解決、組織活性、給与計算、人材適正検査まで、フルサポートします。

seminar

seminar

contact

ブログ

4月施行 労働法令改正点

2023年04月03日

この4月にうちの息子が大学を卒業して社会人になりました。やっと親としての責任も果たせたのかなと思いつつ、弊社は、息子が2歳のときに個人の社労士事務所を開業してちょうど20年となり感慨深いものもあります。息子が幼い頃は、お父さんは家にいないのが当たり前で少しさみしい思いもさせましたが、ずいぶん立派になってくれたと感謝しています。

 新卒といえば大卒初任給の引き上げが大きく報道されています。来春に向けて25万円から30万円とする企業があるなど、人手不足が理由というより未来の基幹人材に投資する意欲が高まっているようです。みずほフィナンシャルグループでは、大卒の水準を26万円に設定していて、みずほ銀行の場合は、前年度から5.5万円の大幅アップになるそうです。高騰ぶりが目覚ましいといわれるゲーム業界では、29万円に引き上げる企業もあるなど、5万円超の大幅アップに踏み切っていて、セガでは24年度の初任給として、前払い退職金を含め30万円とするということです。新卒人材の獲得競争とはいえ、入社1年目からこの金額を支払い、その後の昇給はどうするのかというような疑問もありますが、この何十年も変わらなかった新卒の給与が物価上昇という要因もあるなかで上昇するということはよいことにはちがいないですね。

賃金に関する話をもうひとつ。デジタルマネーによる給与の支払いが、令和5年4月から解禁になります。労基法の改正により賃金の支払いは、現金、銀行振込、総研総合口座振込、現物支給に加えて「デジタル口座支払」が加わります。賃金決済法に規定された資金移動業者は、利用者に対してウォレットやアカウントを提供し、あらかじめチャージした金額に応じて、デジタルマネーを残高として発行し、そのデジタルマネーを決済や送金に利用したり、出金したりすることができるサービスを行っています。そういった資金移動業者が厚生労働大臣の指定を受けて口座への資金移動による賃金の支払いを行うことを賃金デジタル払いといいます。スマホ決済を日常的に使っている人にとってはチャージする手間が減るという意味ではメリットになるでしょうし、企業にとってもスマホ決済事業者の多くが、自社サービス内での送金手数料を無料にしているのでコストが軽減されることになります。そもそも賃金デジタル払いは世界で進んでいるサービスだそうです。世界銀行によると、銀行口座を保有していない成人は約14億人いてこのデジタルサービスを利用しているとのことです。日本に働きにくる外国人労働者は自国にいる家族への送金に苦労していると聞きますが、アプリ上で送金できるようになれば、手続きは簡単になり、送金手数料も不要にすることもできるようです。

日本のキャッシュレス普及率は、2010年の13.2%から2021年には31.5%まで伸びています。賃金デジタル払いがどれだけの影響を与えるかは不透明ですが、内閣府の国民経済計算によると、国内における雇用者報酬は総額で約300兆円近くあって、そのうちの一部であっても、銀行からスマホ決済事業者に流れるとなると社会への影響は大きいと思われます。一方で、会社の実務への影響ですが、あまりないのではといわれているようです。現行の給与支払いの作業にデジタルマネーの口座への入金という作業が加わるだけだという意見も多いようで、またそもそも労働者から給与のデジタルマネー払いを求められたとしても、会社がその要求に応える義務はないということになります。労基法では、給与の支払いは基本的に現金払いであり、それ以外は例外的な措置とされているからです。

その他に令和5年4月に施行されるのは、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%以上引き上げが中小企業にも適用されることがあります。1か月の起算日から時間外労働時間数を累計して60時間を超えた分について、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。それにともないこれまでは就業規則に定めること等により明確にすることが望ましいとされていたため、特定してこなかった会社が多い法定休日ですが、今後は法定休日労働(35以上)との区別をする必要があることから、特定しておくべきだと考えます。また常時雇用する労働者数が1000人超の事業主に対して男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務化されたり、健康保険の被保険者に支給する出産育児一時金が42万円から50万円に引上げられることになっています。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

厚生労働省は、昨年12月に成立した改正障害者雇用促進法に関連し、一定要件下での障害者雇用調整金および報奨金の減額の詳細を定める同法施行規則改正案などを明らかにしました(令和5年3月1日に一部公布)。

調整金の支給対象者数が10人(年換算で120人)を超える場合、超過人数に対しては、通常の金額よりも6000円低い1人当たり2万3000円を支給します。報奨金は、対象者が35人(同420人)を超える場合、同様に通常額より5000円少ない額を支給します。

また、調整金などの見直しとともに、 障害者雇用を後押しする助成金として、①中高年齢等職場適応助成金(仮称)、②障害者雇用相談援助助成金(仮称)の2種類を新設します。

①は、加齢によって職場適応が困難になった障害者(35歳以上)の雇用継続を図るため、職務転換のための能力開発や、必要な介助者の配置・委嘱などの措置を講じた事業主に支給します。たとえば職務転換に向けて能力開発を行った場合、対象の障害者1人当たり年間20万円を限度に支給します。助成率は4分の3。中小企業や障害者を多く雇用している企業については、30万円が上限となります。

②は、障害者雇用について企業への援助を行う事業者に対し、援助費用を助成するもの。援助を受けた企業が雇入れ・雇用継続のための措置を行った場合に、原則として60万円を支給します。

調整金などの減額支給の開始と助成金の新設は来年4月を予定しています。

◆ニュース

介護離職防止 代替要員確保を支援 両立助成金の拡充で

厚生労働省は令和5年度、両立支援等助成金を拡充します。

介護離職防止支援コースについて、従来の生産性要件を廃止して支給金額を見直すとともに、取り組みに応じた加算措置を新設します。取得時の支援では、作成した介護支援プランに基づき、労働者が5日以上の介護休業を取得した場合に30万円を支給。プランに沿って原職などに復帰させ、3カ月以上継続雇用した際にはさらに30万円を支給します。職場復帰時の助成金を受給する企業には、「業務代替支援加算」を新設。代替要員の新規雇入れに対して20万円を上乗せ支給します。また、労働者に対し仕事と両立支援に関する個別の周知と、雇用環境の整備を行った企業に対する加算措置(15万円)も新設します。

育児休業の取得を後押しする出生時両立支援コースと育児休業等支援コースには、男性の育休取得率などを公表した際の加算制度を設定します。

給料ファクタリング 貸金業・出資法上の貸付けに 最高裁が初めて決定

最高裁は、「給料ファクタリング」と称する取引きについて、貸金業法と出資法が定める貸付けに当たるとする決定を初めて下しました。

二審までの事実認定によると、東京都内の事業者が「給料ファクタリング」と称して、顧客となる労働者から賃金債権の一部を4割引きで譲り受け、割引後の額を賃金の「前払い」のような形で交付していました。労働者が希望した場合は賃金債権を割引前の額面額で買い戻すことができ、買い戻しを希望しない場合は使用者に債権譲渡通知をしますが、すべての顧客との間で買い戻しが実施され、譲渡通知は留保されていました。

最高裁は、賃金債権については、労働者が賃金支払日前に第三者に譲渡した場合であっても、その支払いにはなお労働基準法第24条(賃金の支払)の直接払い原則が適用されると指摘。譲受人は使用者に支払いを求められないため、労働者に買い戻させることでしか資金を回収できなかったと評価しています。形式的には債権譲渡だったとしても、実質的には同社と労働者間における、返済合意のある金銭交付であったとしました。上告を棄却し、有罪とした一審判決が確定しています。

給料ファクタリング業者が賃金債権譲渡を理由に、直接企業に支払いを求めるケースもあり、弁護士法人ALG&Associatesの家永勲弁護士は「事業者に支払ってしまうと、刑事罰の対象になる可能性がある」と注意を呼び掛けています。


カテゴリー:所長コラム


  • access
  • cubic
  • blog

pagetop