人事・労務のエキスパート、石川県金沢市の社会保険労務士法人 末正事務所。人事・労務管理相談、社会保険労働保険手続き、紛争解決、組織活性、給与計算、人材適正検査まで、フルサポートします。

seminar

seminar

contact

ブログ

年収の壁

2023年03月01日

フィリピンを拠点にした特殊詐欺容疑事件が世間を騒がせています。その中で「闇バイト」が注目されています。闇バイトとは、高額報酬を提示して人を募集し、強盗や窃盗などの犯罪行為を手伝わせるものです。ぼくが大学生の頃ですから30年以上前の話を思い出しました。当時のぼくはアルバイトが楽しくて、大学の勉強はそっちのけでアルバイトばかりしていました。あるとき短時間で時給の良いアルバイトが求人誌に載っていたのでその仕事に応募し働き始めたんです。1回2回と仕事をするうち「この仕事は大丈夫なのか…」と不安に思い、周囲の人に不安を漏らしていました。あるときそういうぼくを見ていた一緒に働く中年の男性から「君はここにいるような人じゃないよ」と耳元でささやかれ、急いでその仕事を辞めたことを思い出しました。当時、大手の求人誌での募集で普通の仕事だと思っていましたが、あらためて誰でもいつの間にか犯罪者に仕立て上げられてしまう落とし穴が世の中にはあるのだと思いました。

 「『大学』に学ぶ人間学」で田口佳史氏は「正しいとは一体どういうことか」を説明されています。「正しいとは何かというとき、文字の持つ意味合いから考えることができます。「正」という字は「一」と「止」からできています。これは「この線で止まれ」という意味を持っています。したがって、正しいことをやろうと思ったら、基準となる線が必要なのです。外に出ると、道路は線だらけ。その線は「赤信号のときはここで止まってください」とか「歩くときはこの線に沿って歩いてください」という意味を表わしているわけです。しかし、そのように言われないと守れないというのは、本当は恥ずかしいことです。そういうものがなくても守らなければいけないと自ら思うものが「常識」や「良識」というものです。この「常識」や「良識」は、心の中に各々が引いている線なのです。これを「規範」と言います。」人は心の中に規範がしっかり植え付けられていることが大切なのだと思いました。(参照:「『大学』に学ぶ人間学」田口佳史氏著 致知出版社)

 2月初めの日経新聞に「『年収の壁』対策 就労促進を探る」という記事がありました。岸田首相は、一定の所得を超えると税や社会保険料が発生するため女性の就労抑制につながっている「年収の壁」への対応を検討するとしました。一般的には5種類の「年収の壁」があり、住民税が発生する100万円、所得税が発生する103万円、一定条件を満たすと社会保険に加入義務が生じて社会保険料が発生する106万円及び130万円、配偶者特別控除が減り始める150万円となっていて、特に影響が大きいのは手取り額が大きく減ってしまう「106万円」と「130万円」の壁と言われています。長年指摘されてきた「年収の壁」の問題ですが、これを機会に制度の見直しが進むと良いと考えますが、自民党の議員が予算委員会で、「年収が一定額を超えた瞬間、働いても社会保険料の負担で逆に所得が減る。さらに働き続けないと壁を越えられない」として、制度変更には時間がかかることから、一時的に政府が扶養者の新たな保険料負担を補助した上で、その間に制度の抜本改革に取り組むように提案していましたが、そもそもの問題は、扶養という制度に対する「不公平」という考え方が根底にあると思うので、この提案には無理があるではないかと感じました。

 今の日本経済にとって人手不足が大きな懸念材料になっています。人口減少や高齢化の加速で2022年の就業者数は新型コロナウィルス禍前の2019年の水準に戻っていないこともあり、外国人観光客が戻り始めているホテル業界では、清掃や配膳を担う従業員が足りず客室数の上限まで予約を取れない施設もあるそうです。また、飲食業界も居酒屋を中心にコロナ禍から回復してきていますが、人材不足は深刻です。

ここ数年の最低賃金の大幅な引上げもあって、過去25年間でパート労働者の賃金は29%上昇しているにもかかわらず、年収の伸びはわずか4%に留まっているそうです。「年収の壁」による勤務時間の調整がなくなることで労働供給が増えて、日本経済に良い効果となることが期待できますが、そもそもこれまで厚労省は勤労者であれば全員、社会保険に加入することを目指すとしており、それは社会保険制度の安定のために保険料の徴収を増やしていく必要があることだと考えると、「年収の壁」を壊すのではなく、すべての短時間労働者も含めて社会保険に加入させていくことになるのではないかと考えました。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

厚生労働省は、育児・介護休業法の見直しに向け、「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」を設置し、第1回会合を開きました。平成28年および29年の同法改正の施行後5年が経過したため、改正法の附則に基づき施行状況を確認し、今後の両立支援制度のあり方を検討します。

1月26日に開催した初回会合では、研究会における検討事項として①介護との両立を実現するための制度、②育児との両立を実現するための制度、③次世代育成支援対策の3点を提示。介護関連については、介護休業のほか、短時間勤務など選択的措置義務、テレワークの活用、介護休暇のあり方といった介護期の働き方が論点になります。介護に関する支援制度の周知も課題としました。

育児関連では、育児休業に加え、子の看護休暇や、子育て期の長時間労働の是正、柔軟な働き方について検討を進めます。たとえば、所定外労働の免除のあり方や、短時間勤務・テレワークを組み合わせた働き方の実現などが課題に挙がっています。 今後、企業からのヒアリングなどを通じて現状を把握したうえで、5月頃をめどに検討結果を取りまとめる考え。その後、法令改正も視野に、労働政策審議会で議論が行われる見込みです。


◆調査

3割弱で70歳まで就業確保 「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果

 厚生労働省は高年齢者の雇用確保措置などについて、労働者21人以上の企業、23万5875社からの報告に基づき、令和4年6月時点での実施状況をまとめました。

 令和3年4月から努力義務とされた70歳までの就業確保措置は、全体の27.9%に当たる6万5782社が実施済みとしました。前年比2.3ポイント増加しています。労働者301人以上の大企業では20.4%(同2.6ポイント増)、中小企業では28.5%(同2.3ポイント増)でした。

 措置の内容ごとの実施率は高い順に、「継続雇用制度の導入」が21.8%(同2.1ポイント増)、「定年制の廃止」が3.9%(同0.1ポイント減)、「定年の引上げ」が2.1%(同0.2ポイント増)、「創業支援措置の導入」が0.1%(変動なし)。

 70歳以上まで働くことができる企業は、同2.5ポイント増加し、39.1%となりました。


カテゴリー:所長コラム


  • access
  • cubic
  • blog

pagetop