人事・労務のエキスパート、石川県金沢市の社会保険労務士法人 末正事務所。人事・労務管理相談、社会保険労働保険手続き、紛争解決、組織活性、給与計算、人材適正検査まで、フルサポートします。

seminar

seminar

contact

ブログ

日本の近代化

2022年11月01日

群馬県にある富岡製糸場が今年10月4日で開業から150周年を迎えたと聞き、東京出張の帰りに立ち寄ってみました。富岡製糸場は、明治5年(1872年)に明治政府が設立した日本初の官営の製糸工場で、2014年に世界遺産に登録されてからは来場者数が年100万人を超えることもあるそうです。

当時の日本の外貨獲得のために重要な輸出品であった生糸の品質向上と増産のために器械製糸技術を普及させる目的でフランス人技術者を招いて設立され、そこには渋沢栄一も深く関わっていたそうです。そして富岡製糸場は、後に日本の製糸技術を世界一の水準に引き上げる原動力となりました。その建物の構造は西欧の建築方法によるものですが、屋根は日本瓦で葺くなど、日本と西洋の技術を見事に融合させたものになっていて、主要な施設が創業当時のまま、ほぼ完全に残されていました。

展示物の中で一番興味深かったのは、当時の女性工員(女工)の労働条件に関するものです。富岡製糸場は、明治日本の威信をかけた官営の模範工場で、生産技術だけでなく、労働環境もフランス式に整備されており、1日8時間労働や夏冬の長期休暇など、明治期の労働環境としては、世界でもまれなほど恵まれていたようです。展示資料によると設立当初に働いていた女工は約400人いて、勤務時間は年平均1日7時間45分、休日は日曜日(七曜日制が導入)のほか、暑休(夏休み)や年末年始の休暇もあったようです。給料は能率給による月給制で、習熟によって昇給がなされていました。そして福利厚生面では、女工には宿舎が用意され、食事も支給されていて、入浴も毎日できたそうです。また場内の診療所では、診察料および薬代は工場の負担で診療が受けられました。在勤期間についても、1年以上3年まで女工の希望によることとされていたそうです。しかし、1872年2月に始まった工女の募集ですが、「フランス人が工女の生き血を採って飲む」という噂が流れて思うように進まなかったそうです。

その後、明治26年(1893年)に民間に払い下げられて以降は、生糸の量産化に貢献し近隣農家の養蚕技術の改良にも主導的役割を果たすことになります。その一方で、利益を追求するあまり、民営化以降は、工女たちの就業時間は徐々に長くなり、1日10~12時間に及び、休日も月2日となるなど労働環境はだんだんと悪化したそうです。富岡製糸場で訓練された女工たちは、その後、地元の工場に戻り中心となって活躍しますが、その地元の工場の労働環境はかなり劣悪だったようです。当時の製糸工場の労働時間は、14時間以上で、休日は年末年始と旧盆に数日しかなく、工場内では、熱湯を使用するため工場内の湿度は上がり、水蒸気が天井で冷やされ、大粒の水滴が雨のように落ちてくる中で、女工はずぶ濡れになって働いていており、結核で命を落とす女工も多くいたそうです。

そうした労働環境が、現在の労働基準法の前身となる「工場法」の制定につながります。明治の前期から政府は日本国内における職工や工場に関する状況の調査を開始します。この調査をもとに法案の作成が進められますが、業界の反発や日清、日露戦争の勃発によって難航しました。日露戦争終結後の1909年(明治42年)に政府は議会に工場法案を提出することになりますが、繊維産業や中小企業を中心とした反対が強く法案は撤回となりますが、その後の努力により1916年(大正5年)9月1日についに施行されました。そして工場法施行に伴い警視庁と大阪など8道府県の警察部に工場監督官が設置されます。労働基準監督署の前身なのでしょうね。しかし工場法は、10人未満の小規模工場には適用されなかったため多くの工場が適用除外となり、労働者保護には不十分だったそうです。そして戦後になり工場法は戦前の労働者法規を集大成した労働基準法に形を変えていくことになるわけです。

今年10月14日には、明治時代の1872年に日本初の鉄道が新橋-横浜間で開業して150周年を迎えています。開業当時の列車は時速30キロ程度だったそうですが、徒歩で一日がかりだった新橋-横浜間は約1時間に短縮されたそうです。今の世界は150年前と同じく第四次産業革命の時代だと言われています。AIとロボットが生産性を向上させて、社会が大きく変化し、私たちの生活も大きく変わろうとしています。乗り遅れないようにしなければならないですね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

厚生労働省は令和5年度、時間外労働の上限規制の適用が猶予されている業種などにおける長時間労働の解消を後押しするため、働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)を新設する考えです。

適用猶予分野(建設事業、自動車運転の業務、医師、砂糖製造業〔鹿児島県・沖縄県〕)の中小企業が対象で、労働時間短縮に必要な経費の4分の3を支給します。具体的には、①就業規則の作成・変更費用、②労務管理担当者や労働者への研修費用、③専門家によるコンサルティング費用、④労務管理用機器の導入・更新費用、⑤労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新費用、⑥人材確保に関する費用となっています。労働能率増進設備としては、運送業における洗車機や、建設事業での土木工事積算システムなどが想定されます。

支給上限額は、分野ごとに定める成果目標の達成状況に応じて設定。自動車運転業務では、36協定見直しによる時間外労働の削減と勤務間インターバル制度導入で最大400万円を支給します。

建設事業では、協定見直しと週休2日制の導入で計350万円まで支給。休日については、4週4休から4週8休まで、休日が1日増加するごとに25万円、最大で100万円を支援する方針です。

◆ニュース

荷主へ周知徹底を 改正改善基準告示で報告

労働政策審議会の自動車運転者労働時間等専門委員会は、自動車運転者の改善基準告示の見直しに関する報告書を取りまとめました。

バスとタクシー・ハイヤーに関する見直し案を示した今年3月の中間報告の内容に、同委員会の作業部会が9月にまとめたトラックの見直し案を追加したもので、いずれの業態も拘束時間の削減と休息期間の拡大を図る内容となっています。全業態で継続8時間としていた休息期間を「継続11時間を基本とし、9時間を下限」に見直すとしました。拘束時間は、トラックが現行の1年3516時間から原則3300時間に短縮、バスが3380時間(年換算)から原則3300時間に短縮となります。

改正告示の履行確保を図るため、荷主や貸切バス利用者など発注者側にも周知すべきとしました。とくにトラックについては、長時間の荷待ちを発生させないよう荷主に対して労働基準監督署による「要請」を実施することが適当と指摘しています。

デジタル払い 来年4月スタートへ 口座残高上限100万円に

厚生労働省は、賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払い)を可能とする労働基準法施行規則の改正省令案を明らかにしました。

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進むなか、労基則を改正し、一定の要件を満たす資金移動業者の口座への賃金支払いも行えるようにします。

改正によって賃金の支払い先として追加されるのは、資金決済法上の「第2種資金移動業」を営む移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた移動業者の口座。労働者の同意を得た場合に、本人が指定する口座へ支払うことができます。

指定要件には、口座残高上限額を100万円以下とすることや、ATMを利用して1円単位で通貨を受け取れることなどを盛り込みます。企業には、賃金支払い方法の選択肢として、銀行口座や証券総合口座への振込みなども労働者に示すよう義務付けます。公布は今年11月、施行は来年4月1日の予定となっています。


カテゴリー:所長コラム


  • access
  • cubic
  • blog

pagetop