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労働時間管理について

2022年07月01日

6月9日に「16億円賃金未払い すかいらーく 9万人対象」という残業代未払いの新聞報道がありました。外食大手の「すかいらーくHD」が、従業員の労働時間に関し5分未満の端数を切り捨てる運用をしていたことについて労働組合が是正を求めた労使交渉の結果、パート・アルバイト約9万人を対象に賃金を1分単位で再計算し、過去2年分の計16億~17億円を支払うことを決めました。そしてこれからは残業時間数の計算を1分単位で行う運用すると発表しています。この記事では、厚生労働省の担当者は「一般論として労働時間の端数を切り捨てる運用は違法の可能性がある」また、すかいらーく側は取材に対して「5分単位の勤怠管理自体が違法である認識はない」とコメントしています。では、なぜ違法だと判決が出たわけではなく、会社も違法ではないと考えているのに切り捨てた端数にあたる賃金を支払ったのか、が気になるところです。そこについて、すかいらーくは、残業時間数の計算方法を1分単位に切り替えるにあたり、「新管理方式への円滑な移行と従業員への配慮の観点」から支払ったことを理由に挙げました。

賃金の支払いについては、労働基準法によりその全額払いが使用者に義務付けられています。割増賃金の支払い方法のルールは、1日ごとの時間外労働時間数を30分単位で切り上げたり、切り捨てたりすることはできず、月ごとの合計で時間外労働時間数を計算する場合についてのみ30分未満を切り捨て、30分以上を1時間として切り上げることは問題ないとされています。ただ、実務では1日の残業時間数を15分単位で切り捨てている会社も多く、このすかいらーくの報道は多くの会社に影響を与えそうです。今回は、最高裁の判決が出たわけでもないので、この件をもとに監督署が「1分単位」の指導を行うことは考えにくいですが、最近の監督署の労働条件調査で労働時間管理を1分単位に変更するよう検討するよう指導されたケースも出てきています。

また、民法改正により2020年4月から賃金の時効が2年から当面3年に延長されているのはご承知のとおりですが、すでに今年の4月(2022年4月1日)以降に支払われる賃金に適用され始めているということになります。4月以降は、未払残業代の請求可能となる月数が1か月分ずつ3年分まで増えることになります。こうしたことからも、労働時間管理を一度、見直しておくことが必要になります。

一方、厚労省の「労働時間適正把握ガイドライン」(平成29年1月20日基発0120第3号)では、タイムカードの記録と合わせて、使用者が、自ら労働時間を現認することによって確認することも認められています。「1分」という言葉に反応してしまいがちですが、労働時間管理の本質は、「働いた時間であるかどうかを確認する」ことにあります。一番してはいけないことは、タイムカードを打刻させておいて、その打刻された時間が労働時間かどうか確認しないでそのままにしておくということではないでしょうか。

落語家の三遊亭歌之介(現 圓歌)さんの話です。歌之介さんは、林家こぶ平さんと一緒に真打ちに昇進しましたが注目されるのはこぶ平さんばかりで歌之介さんには誰も見向いてくれなかったそうです。悔しくてどうしようもない歌之介さんに、ジュポン化粧品の故養田実社長が言ったそうです。「歌さん、浮かぬ顔をしてどうしたんだ」「ウサギとカメの童話があるだろう。ウサギはどうしてのろまのカメに負けたのか、言ってごらん」歌之介は「ウサギにはいつでも勝てると油断があった。人生油断してはいけないという戒めです。と答えました。養田社長は「それは零点の答えだ」と強く言ったそうです。「カメにとって相手はウサギでもライオンでもよかったはずだ。なぜならカメは一度も相手を見ていない。カメは旗の立っている頂上、つまり人生の目標だけを見つめて歩き続けた。一方のウサギはカメのことばかり気にして、大切な人生の目標を一度も考えることをしなかった。君の人生目標はこぶ平くんだけはないはずだ。賢いカメになって歩き続けなさい。」「どんな急な坂道があっても、止まってはダメ。苦しい時には、ああ、なんと有り難い坂道なんだ、この坂道は俺を鍛えてくれていると感謝しなさい。有り難いというのは難があるから有り難いんだよ。」この一言が歌之介さんの迷いは吹っ切れたそうです。会社経営も本質を見失わないようにしないといけませんね。(月刊致知「挑戦と創造」より)

特定社会保険労務士 末正哲朗

●最新・行政の動き

厚労省は、求人メディア(募集情報等提供事業者)や職業紹介事業者などに情報の正確性・最新性を保つための措置を義務付ける改正職業安定法が今年10月に施行されるのを踏まえ、関係政省令と指針を改正します。

省令では、正確性・最新性の確保措置として、情報が正確でないことなどを自ら確認した場合は、速やかに募集企業への訂正依頼または掲載中止を行うこととします。求人メディアについてはさらに、求人充足時や内容変更時に速やかに通知するよう募集企業に依頼するか、掲載する募集情報の時点の明示のどちらかを講じます。

募集企業に対しては、指針において、募集の変更・終了時には速やかな掲載内容変更・終了を求めます。さらに、掲載媒体である求人メディアに対する掲載内容変更または終了を依頼するよう定めます。一方、求人メディアから不適正な募集情報の訂正を依頼された場合には速やかに対応することとしました。

施行は同法と同じ今年10月1日です。

◆ニュース

男女間賃金差を開示 300人超企業に義務付けへ 政府

岸田総理大臣は5月20日に開いた第7回新しい資本主義実現会議で、一定規模以上の企業に対して、男女間の賃金差の開示を義務付ける方針を表明しました。

同会議では、男女間格差や賃金、人材育成といった「人への投資」や取引適正化について議論しました。そのなかで岸田総理は、「男女間の賃金格差を解消するため、早急に女性活躍推進法の制度改正を実施する」と話し、労働者300人を超える事業主を対象に、男性の賃金に対する女性の賃金割合の開示を義務化するとしました。今年夏の施行をめざして準備を進めます。

厚労省によると、現在は複数の項目から1つ以上を選択する方式になっている情報公表の仕組みを一部見直し、男女の賃金差の公表を大企業に義務付けます。

日本での男女間賃金格差は、諸外国に比べて大きく、OECDの統計をみると、2020年における格差(男性の賃金の中央値に対する女性の賃金の中央値が低い割合)は、日本が22.5%に上るのに対し、海外はアメリカ17.7%、カナダ16.1%、イギリス12.3%などとなっています。

留学費用 賃金と相殺は有効 復職後1カ月で退職 東京地裁

建設会社で働いていた労働者が留学費用と相殺された賃金の支払いを求めた裁判で、東京地方裁判所は相殺を有効と認め、相殺後の残金730万円の返還を労働者に命じました。

労働者は同社の社外研修制度で海外の大学に留学しましたが、復職後1カ月も経たないうちに自己都合退職しました。両者は復職後5年以内に自己都合退職した場合は留学費用を返還し、賃金との相殺についても異議を申し立てないとする誓約書を交わしていました。

同社は留学費用から2年6月分の賞与・賃金と退職金などを相殺し、残金729万5985円の返還を求めたところ、労働者より返還債務の不存在確認や相殺された賃金の支払いを求める裁判を起こされたため、同社は残金返還の反訴を行いました。

同地裁は労働者の請求を全面棄却し、同社の反訴請求をすべて認め残金の返還を命じました。労働契約とは別に、金銭の消費貸借契約が成立していたと判断しており、労働基準法第16条が定める賠償予定の禁止にも抵触しないとしました。


カテゴリー:所長コラム


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