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間違って支払われた年金の行方

2022年02月01日

昨年の暮れに息子と温泉に入ったときの脱衣場でのこと。息子がぼくに向かって「セーターを着たお父さんってお腹が出ていてカッコ悪くなったよね。でも、仕事のときのお父さんはカッコいいと思ってるよ。少し痩せたらいいのに…」。いつの間にか上手いこと言うようになったもんだと感心しながらも、最近は、かかりつけ医からも、「痩せなさい!」と注意される始末なので、今年の目標は、「ダイエット」に決まりです。この1年間は、生活習慣の改善にしっかり取り組みます。昨年暮れに厚労省が公表した健康寿命の最新値ですが、男性72.68年、女性75.38年となったそうです。考えてみれば、その年齢まであっという間のように思います。健康寿命は「日常生活に制限がない期間の平均」の推計値とされています。健康維持は、健康を損なう前の早いうちからの取り組みが大事なんでしょうね。

先日、ある方から年金についてのご相談がありました。その内容ですが、簡単に言うと日本年金機構から、受給している年金の額について計算誤りがあったので、受給中の年金について、本来の正しい年金額に訂正を行うためにその額を減額し、さらに誤って多く支払った年金のうち時効となっていない過去5年以内の分について返して欲しいというお知らせがあったということでした。その方は、「日本年金機構が、年金額の計算を誤って年金額を決定し、勝手にその額を長年に渡って振り込んできていたのに、今になってその額は間違っていたので返して欲しいと言われても、その額は数百万円にもなっていてとても返すことができる金額ではないし、今の生活にも支障が出てしまう。日本年金機構の言う年金の減額の計算方法が正しいということであれば返さなければいけないと思うがどうしたらよいのでしょうか。それに今も誤っているとされている年金額が減額されないで振り込まれてきているので、返還しなければならない金額がどんどん増えているということになるのではないでしょうか。」ということでした。また、その方は事前に弁護士に相談したところ、「年金額が誤って振り込まれてきているということであるが、債務の不存在を知っていたときは、給付したものの返還を請求することができないとする民法705条の規定がある。」と言われたとのことです。

民法705条は、非債弁済といわれ、債務がないことを知りながら自ら進んで給付し損失を招いた場合は、あたかも相手方に贈与したようなものであるから、保護する必要はないというのが趣旨です。しかし、不当利得として返還請求できるのは、債務がないことを知らなかった場合に限られることになるそうです。現在、振り込まれている年金額は、日本年金機構が「債務がないことを知りながら」振り込んできているといえるのでしょうか。支払う必要のない年金額だと機構がわかっていながら振り込んでいるのであれば、返す必要がないということになります。しかし、年金額の減額訂正を知らせてきているのに、当人がその手続きをしないために機構が年金額をそのまま振り込まざるをえずにしかたなく振り込んでいるようにも見えます。

この件に関して興味深い判例がありました。「富山傷病手当金併給調整事件」です。反復性うつ病により障害等級2級の障害厚生年金・障害基礎年金を受給していた原告が、線維筋痛症による1級の障害厚生年金・障害基礎年金を請求し、年金額が1級に改定され増額となったものの、傷病手当金をすでに受給していたことを理由に、傷病手当金のうち1級の障害厚生年金・障害基礎年金の全額に相当する額が併給調整(支給停止)されたことにより審査請求、再審査請求を経て富山地方裁判所で訴訟になった事件です。この事件に伴い、被告(全国健康保険協会)は、傷病手当金の減額分について不当利得の返還を原告に求めた別訴を提起しました。しかし、裁判所はこれを棄却しています。その理由ですが、原告が受けた傷病手当金の額が、仮に不当利得に当たり得るとしても、原告は受益について善意(ある事実を知らないこと)であったこと、そのお金は生活費に使ってしまっており、貯蓄するなどして資産の形成がされていないこと、現在も病気のため医療費や生活費の負担が大きいことにあります。受給により利益が現存していれば、原則として返還しなければならないということですが、本件の原告はたまたまお金が残っていなかったために返還義務を免れたということになるようです。民法703条不当利得の意味ですが、例えて言うと「大雨が降って隣の養魚池のコイやフナが自分の池に流れ込んできたときには、それを返さなければならないことはもちろんであるが、必ずしもそのコイやフナを、元通りの状態や数量でもって返せというわけではない。現状のままで引き渡せばよいのである。」(「口語民法」自由国民社)ということだそうです。      

特定社会保険労務士 末正哲朗

~ 弊社に新しく社会保険労務士が加わりました ~

【 ご挨拶 】   越田敏行と申します。平成31年4月に末正事務所に入社し、社会保険労務士資格 取得に向けて勉強に励んでおりましたが、この度の令和3年度の社労士試験に合格 することができました。無事、今年1月に社会保険労務士登録を済ませることが出 来ましたので、これからは有資格者としてお客様のお役に立てるよう一層、努力し てまいります。まだまだ駆け出しでございます。何卒、ご指導のほどよろしくお願い いたします。

社会保険労務士法人末正事務所

社会保険労務士 越田 敏行

◆最新・行政の動き

厚労省は、改正育介法の円滑な施行に向け、Q&Aやモデル規定・書式等を公開しました。改正法は、令和4年4月から段階施行されますが、企業では、新設された意向確認義務等の実施体制整備、就業規則等の改正等が急務となっています。

4月からの「育児休業等の情報提供」については、妊娠・出産の申出時に「制度周知は不要」と意思表示した従業員に対しても、法定の措置を講じる義務は発生すると指摘(書面で対応も可)。さらに、意向確認時に「休業取得予定なし」と回答した従業員であっても、正式な申出があれば、休業付与を拒めない点などを明らかにしています。

10月からの出生時育児休業に関しては、労使協定等の所要の手続きを踏めば、休業中の一部就労(あらかじめ出社予定決定)も可能ですが、その規定・書式例等も示しました。

◆ニュース

子育て理由の転勤拒否 懲戒解雇は有効と判示

転勤拒否を理由とする懲戒解雇を違法と訴えた事案で、大阪地方裁判所は、配転命令は権利濫用に当たらないとして、元従業員の主張を退けました。

裁判で、元従業員は「持病がある子供と高齢の母との3人暮らしで、転居を伴う配転は難しい」と主張しました。

入社以降、グループ企業内で10回を超える配転・出向を経験しましたが、就業場所は一貫して関西地区でした。しかし、今回は、会社が関西・西日本オフィスを閉鎖するため、業務集約先である関東地区への配転命令が出されました。

元従業員が拒否し、懲戒解雇されたため、裁判で争ったものです。会社が数回にわたって説得を試みた際、本人は詳細な説明をしませんでしたが、裁判所は「仮に事情が伝わっていたとしても、配転は権利濫用に当たらない」と判断しました。

判決文では「子どもの通院は月1回ほどで、母も要介護状態にないなど、転勤しても対応可能な範囲だった。配転命令に応じない事態を放置すれば、企業秩序維持に支障を来すおそれがあった」と述べ、懲戒解雇も有効としています。


カテゴリー:所長コラム


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