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これからの労働法制と労務管理

2020年06月01日

コロナウィルスの感染拡大の影響で働き方改革がかすんでしまっていますが、そんな中でも新しい法律の施行は続いています。最近では労働基準法が改正(2020年4月施行)され、賃金請求権の消滅時効が5年(当面は3年)になりました。また、パワーハラスメント防止措置義務化は2020年6月施行です(中小事業主については2022年3月31日までは努力義務)。2つともコロナ下でなければ大きく取り上げられてもおかしくない改正です。

最近、関与先で未払い残業代を請求されることがありました。特徴的なのは、会社はキチンと残業代を支払っていたと思っていたのに、突然、退社した従業員から数百万円の未払い残業代の支払いを求められたということです。その背景にはいったいどのような問題があるのでしょうか。今、会社が行っておきたい未払い残業代の発生しない労働時間管理を考えます。

突然、退社した従業員の代理人だという弁護士から内容証明が送られてきたので、私に相談にのって欲しいと連絡がありました。話を聞くとその内容証明には、未払い残業代として300万円、そしてその他の慰謝料等を含めると500万円を超える金額を支払えと書いてあるとのことです。その会社では、たしかに一部、残業代を支払っていない労働時間もあるが、それ以外は全て支払っているから、そんな大きな金額を請求されても納得がいかないということでした。その後、弁護士とのわずか数回の書面のやりとりの後、裁判となります。その結果、会社は納得のいかないまま裁判所から和解を提示され、数百万円を支払う結果で終わることとなりました。その会社の社長は、もっと労働時間管理をしっかり行うべきだったと後悔する結果となったようです。

今、このようなトラブルが増えていると聞きます。残業代トラブルが増えている要因は2つあるといわれていて、まず一つ目にあげられるのは働き方改革が始まり労働基準監督署の長時間労働に対する取り締まりが厳しくなっていることがあります。労基署の是正勧告を受けて未払残業代を支払った企業数は2018年度で1768社となっており、5年前に比べて25%増えているそうです。

二つ目の要因といわれているのが、人手不足を一因とする転職者数の増加だといわれています。未払い賃金の請求は、圧倒的に退職後に行われます。会社に勤めている間は、その後の人間関係や会社からの評価を心配する人が多く、そんな心配をする必要がなくなる退職後に請求に動く人が増えるのです。

また、退社後に未払い残業代を請求する場合、労働者側が実際に何時間働いたかを証明する必要がありますが、会社を辞めた後にその本人の手元にタイムカード等がなくても請求することが可能です。会社には、タイムカードと賃金台帳を3年間(今後は5年)保存する義務が課せられているため、会社に対し、法的手段により請求すればそれらの資料を開示させることができます。それ以外にも、手帳などに労働時間をメモ書きしているとか、帰宅時間を家族にラインで毎日送っていたなどそういったものでも十分に労働時間の記録として扱われることになります。

未払い残業代の請求を受ける側の企業にも労働時間について多くの認識不足があります。職務手当や営業手当といった手当に、毎月一定額の固定残業代を含ませて支払い済と主張したとしても、そのことが労働条件通知書や就業規則などに明記されていなければ認められません。また、本来、残業代の単価計算に入れる必要のない通勤手当や家族手当などを従業員一律の金額で支払っていたりすると基本給と同じとみなされて単価計算に含めなければならなくなることもあります。最近では、36協定や変形労働時間制の協定当事者である従業員の過半数代表者の選任の手続きを怠っていた場合、協定そのものが無効とされ変形労働時間制が適用されなくなることにより残業時間の計算がやり直しになり、残業代が大幅に膨らんでしまうこともあります。

そういったことに対する中小企業経営者の認識は不足していて、従業員から訴えられて初めて気づくことがほとんどです。「何年も前からこのやり方でやってきたのに」と事が起きてから驚くことが多いのです。今後、時効が延長されることにより、未払いとなる残業時間数が大幅に増えるため、未払い残業代トラブルが激増することは容易に想像できます。働き方改革が始まり、労働時間管理についてはどの企業も神経質にならざるをえません。会社も働く社員も一緒に労働時間を管理するという意識がこれからは大切になってくるようです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

新型コロナで手当を支給 出勤・業務負荷の増加に対応

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が発せられましたが、休業や在宅勤務が難しい業種や職種も存在します。やむを得ない出勤等に対し、手当等を上乗せし、従業員のモチベーション維持を図る企業も増えています。

大手小売業の㈱ライフでは、全従業員4万人に対し、3億円の原資を拠出して「緊急特別感謝金」を支給しました。正社員、契約社員のほか、パート・アルバイトも対象で、出勤日数や時間による差は設けません。

ソフトウエアの品質保証等を行う㈱SHIFTでは、取引先オフィスへ常駐する従業員や、社内のテストセンターで業務を行う従業員等を対象に、「危険手当(1日当たり最大4000円)」を支給します。

保育・人材・介護事業を展開するライク㈱では、本社・支社オフィス勤務の社員に1勤務当たり3000円の特別手当を新設しました。

5%の賞与減額は有効 「安全喚呼」をなおざりに

新幹線の運転士が「喚呼ミス」等を理由とする賞与減額を不服とした裁判で、東京高等裁判所は会社側勝訴とする一審判決を維持しました。

会社と労組の間では、勤務成績不良の場合、賞与を5%減額する等の協約を結んでいます。原告の運転士は、「運転士の基本動作集」に定める指差し手順等のルールを正確に履行していませんでした。

たとえば、「道具箱鎖錠よし」とすべきところを、「よし」とだけ確認していました。運転士は、「手順・用語が少しでも異なれば直ちに非違行為とするのはあまりに形式的・硬直的」と主張していました。これは、どこの職場でも起こりそうなトラブルです。

高裁は、「乗客の安全な輸送という事業の重要性と新幹線運転士という職務の重大性を理解していない」と指摘。安全・安定・快適な輸送サービスのため、規則違反を非違行為とするのは当然として、賞与減額を有効と判断しました。

記録の保存にも留意を 改正労基法で通達・Q&A

改正労基法・労基則は令和2年3月31日に公布され、同4月1日から施行されています。厚労省では、これに合わせ施行通達(令2・4・1基発0401第27号)とQ&Aも公表しました。

賃金請求権の消滅時効が2年から5年(当面の間は、経過措置により3年)に延長されたほか、記録の保存義務・付加金の請求期間についても同様の措置が講じられました。

新しい時効規定が適用されるのは、「施行日(4月1日)以後に支払期日が到来する賃金請求権」に限られます。

記録の保存に関しては、労基則の改正により、起算日の明確化が実施されました。原則は「記録の完結の日」(56条1項)ですが、「賃金の支払期日が記録の完結より遅いときは、支払期日が起算日」(追加された56条2・3項)となります。


カテゴリー:所長コラム


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