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健康保険法等の法改正情報

2021年09月01日

「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険等の一部を改正する法律」が今年の6月に成立しています。その中で健康保険法等の改正のうち、私たちの生活に影響の大きいものを取り上げてみたいと思います。今月は法改正情報一色です!

令和4年1月1日から施行される改正が二つあります。まず、任意継続被保険者制度の保険料や被保険者資格の喪失について見直しが行われます。任意継続被保険者制度は、健康保険の被保険者が会社を退職した後にもそのまま2年間は、退職前に加入していた健康保険制度に残り続けることができる制度です。これまでは、任意継続被保険者となった後に資格を喪失する場合、「任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したとき」「保険料を納付期日までに納付しなかったとき」など限られていて、任意継続被保険者が届出を行うことで、自分から制度を脱退することはできませんでした。そうしたこともあって、再就職で新しく健康保険に加入した場合には、あえて保険料を納付せずに資格喪失をさせることもありました。わざと未納にするというのはあまり気分のよいものではないですね。今回の改正で、任意継続被保険者が届け出ることによって、その申出が受理された日の属する月の末日に被保険者資格を喪失できるようになりました。そして任意継続被保険者の保険料についても見直しがなされました。次に現行では任意継続被保険者の保険料は、「退職直前の標準報酬月額」か「保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」のいずれか低い額を選ぶことができます。ようするに、在職時の健康保険料よりも低い額で任意継続被保険者になることができる制度になっているということです。改正後は、健康保険組合が、高い方の保険料を選ぶことができるようになります。保険料の低い方を選びたいという場合には、改正法施行日以降は注意が必要です。

もう一つ令和4年1月1日から施行されることになるのが、傷病手当金の支給期間の通算化です。傷病手当金は、私傷病により療養のため仕事を4日以上休んで給料を受けられないときに支給される健康保険の給付金です。傷病手当金の支給期間は支給開始日から起算して1年6か月を超えない範囲と定められているので、精神疾患やがん治療などで休職と復職を繰りかえすことで、支給期間中に傷病手当金を受けていない期間があっても、1年6か月が経過してしまうと、再び入院しても給付金は受けられないことになっていました。改正後は、支給期間が「支給を始めた日から通算して1年6か月」となるので、実際に1年6か月分の日数の給付金を受けるまでは、傷病手当金を受給することが可能となります。また、施行は来年1月1日ですが、経過措置が設けられていて、昨年7月2日以降に傷病手当金の受給を開始した者で、出勤に伴い不支給となった期間がある場合には、その日数分について受給が可能になるとされました。

あと、最後に健康保険の扶養認定の実務に影響がある通達が令和3年8月1日に出されています。現在、被扶養者として認定されるための条件に「主として被保険者の収入で生計を維持している」状態にあることとありますが、機械的に一律に適用されるわけではなく、生活の実態とかけはなれるなど妥当性を欠く場合に、実情に応じた認定が行われます。ようするに、基本的には収入が多いほうの被扶養者となるけれども、世帯の生計状況から見て生計維持の中心的役割をはたしていると認められるほうの被扶養者になることも認められています。新しく適用される通達では、夫婦とも健康保険の被保険者の場合を例にとると、まず「年間収入の多い方の被扶養者」になることになります。次に、「年間収入の差額の多い方の1割以内である場合は、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者」とされます。被扶養者の認定は、保険者によって温度差はありますが、これから厳しくなるのでしょうね。

最後に労働法の法改正です。令和4年1月1日から複数の職場で就労する65歳以上の高年齢労働者に対して雇用保険の特例適用制度が試行されます。現在はひとつの事業主に週20時間以上、雇用されていることが必要ですが、改正後は、65歳以上の高年齢労働者が、複数の事業所の労働時間を合算して「週の所定労働時間が20時間以上」就労している場合に雇用保険に加入できるようになります。ただ、事業主が合算した所定労働時間を把握して、手続きを行うことは困難であるとして、労働者本人がハローワークに対して届出を行うことになっています。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

労災の過労死認定基準が、20年ぶりに見直される予定です。厚労省設置の専門検討会は、最新の医学的知見を踏まえた報告書をとりまとめました。

長時間労働の数値的基準(月100時間、2~6カ月平均80時間)等は現行維持が適切と判断する一方で、それ以外の負荷要因である「勤務時間の不規則性」を重視し、判断要素を再整理する方針です。

具体的項目としては、「拘束時間の長い勤務」「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」を挙げています。

たとえば、勤務間インターバルについては休息期間11時間未満の勤務の頻度・連続性、海外出張勤務に関しては4時間以上の時差を伴うか否か等を評価するとしています。

◆ニュース

裁量労働改正へ「道ならし」 調査で問題点整理

裁量労働制の改正は「働き方改革の一環としての労基法改正案(平成30年国会上程)」の中に含まれていましたが、審議の途中で「偽造比較データ」の問題がクロ-ズ・アップされ、法案から削除されるという一幕がありました。

その後、厚労省では「実態を把握しなおして議論を再開する」という方針の下、再調査に着手しました。このほど、約3年を経て、調査結果が公表されましたが、企画型裁量労働制を採用する事業場の40%が見直しを求めていることが明らかになりました。

要望の第1位は「手続き負担を軽減すべき」(77%)で、僅差で「対象労働者の範囲を見直すべき」(72%)が続いています。

後者の範囲見直しについては、「『常態として』でなく、『主として』従事していればよいとすべき」(75%)、「法令ではなく、労使で合意された業務を対象とすべき」(52%)といった声が多数を占めました。今後、法改正も視野に入れ、さらに検討が進められる予定です。

◆送検

年休5日の時季指定怠る 「賃金不払い」端緒に捜査 津島労基署

愛知・津島労基署は、年休の時季指定を怠ったとして、給食管理会社と店長3人を名古屋区検に書類送検しました。

働き方改革関連法(労基法改正)により、平成31年度以降、使用者には年5日の年休時季指定が義務付けられています。同社は病院・社会福祉施設等で給食調理を受託していましたが、時季指定を怠ったまま、従業員6人に1日の年休も取得させていませんでした。

捜査の発端は、外回り従業員の勤務実態が不明として賃金を支払わなかった事案です。調査を続ける中で、年休についての実態も明らかになったものです。

年休の時季指定(労基法39条7項)に関する送検は愛知県内初で、全国でも初めてとみられます。


カテゴリー:所長コラム


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