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2020年の法改正 総まとめ

2021年01月05日

新年おめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 新しい年がスタートしました。今月はいつもと趣を変えて、昨年に改正された労働に関する法律をまとめてみます。

〇 労働基準法関連

1. 賃金請求権の消滅時効期間の延長等

(1)賃金請求権の消滅時効を改正民法と同様に5年に延長(経過措置付)

(2)起算点が客観的起算日(賃金支払日)であることを明確化

2. 記録の保存期間等の延長

(1)賃金台帳当の記録の保存期間を賃金請求権と同様に5年に延長(経過措置付)

(2)割増賃金等の付加金の請求期間を上記と同様に5年に延長(経過措置付)

3. 経過措置・検討規定

(1)賃金請求権の消滅時効、記録の保存期間、付加金の請求期間は当分の間は3年に

(2)施行後5年経過後の状況を勘案して検討、必要に応じて措置

平成29年の民法改正(令和2年4月1日施行)で消滅時効の規定が大幅に書き換えられました。 その改正民法の施行後、賃金の消滅時効は現在の2年から、基本的には5年(当分は3年)に伸びます。 最近は、監督官からも「これからは残業代の請求が3年間の遡りが可能になるので、残業時間の管理は しっかりしてください。」と指導されるようにもなりました。退職者からの未払残業代請求のブームが起 こるかもしれませんので対策は今のうちですね。 ちなみにタイムカードの保管期間は、現在3年間となっていますが、こちらも5年間になるようです。

〇 雇用保険法等関連

1. 高齢者の就業機会の確保および就業の促進

(1)70歳までの高年齢就業確保措置(定年の引上げ、創業支援措置等)を講ずることを努力義務化 (高年齢者雇用安定法)

2)高年齢雇用継続給付の縮小(雇用保険法)

高年齢雇用継続給付の給付率が、令和7年4月1日から引き下げられます。基本は60歳以後 の各月の賃金に10%(現在は15%)を乗じた額となり、賃金の低下率によって給付率も逓減し ます。これまで60歳定年以降は、年金と雇用保険からの給付があるからと給与を一律に下げ てきたわけですが、これからは同一労働同一賃金の影響も受けるでしょうし、60歳以降の賃金の 考え方の見直しが必要になりますね。

(3)雇用安定事業による高年齢就業確保措置の導入等に対する支援(雇用保険法)

国は65歳~69歳までの雇用を「令和2年までに就業率を40%とする」ことを目標にしてきました。 そして政府は「成長戦略実行計画」で、「70歳までの就業機会の確保」を挙げています。 ポイントは65歳までは「雇用の確保」、70歳までは「就業の確保」です。就業の確保とは、委託契約 やボランティアに従事する機会を設けることなどが含まれており、従業員として雇用する義務まではあり ません。ぼくは70歳まで働けたならいいなとは思いますが、70歳まで現役世代並みに働きたいとは 思いません…そういったことなのでしょうね。

2. 複数就業者等に対するセーフティーネットの整備等

(1)複数就業者の労災給付について、複数事業場の賃金に基づき給付日数を算定することおよび対象範囲を拡充 (労災保険法)

昨年、経団連がこれまで「慎重な検討が必要」としていた社員の「副業・兼業」について、推進する 方針に転じました。今後、これまでと異なる新たな働き方が登場することが予想されますが、一方で 労働者保護の観点から労災保険給付のあり方が問われていて、今回、補償内容を充実させることにな りました。基本的には、労災保険の給付は災害が発生した事業場での賃金をもとに行われます。 ただ、複数の事業場に就業している労働者が、片方の事業場で被災するともう一方の事業場でも働けなく なるので、労働者保護に欠けるといえます。そこで、給付額を決定するにあたって複数の事業場の賃金を 合算することになりました。一般的に労災保険からの給付を受けた場合、保険料率のアップを伴うことが ありますが、この上乗せ分については事故とは関係のない事業場の賃金であるため保険料率への反映はし ないことになりました。

(2)複数の事業主に雇用される65歳以上の高齢者に対する雇用保険の適用(雇用保険法)

これまで65歳以上の方は雇用保険に加入できませんでしたが、要件に該当したうえで本人が申出を行っ た場合に高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険被保険者)となることができるようになりました。2以上 の適用事業所に雇用され、週の労働時間の合計が20時間以上であることが必要で、失業したときは高年齢 求職者給付金が一時金で支給されます。

(3)勤務日数が少ない被保険者を対象として、日数だけでなく労働時間により被保険者期間を算定 (雇用保険法)

(4)雇用保険の失業給付の給付制限期間の短縮(雇用保険法)

失業給付(基本手当)については自己都合退職の場合、原則3カ月間の給付制限が行われてきました。 「安易な離職の防止」がその趣旨ですが、法改正により「転職を試みる労働者が安心して再就職活動を 行うことができるよう支援するため」、2カ月(5年間のうち2回までに限る)に短縮されました。 退職者は1カ月早く給付を受けられることになります。この「1カ月」の差は大きいのではないでしょ うか。

(5)大企業に対し、中途採用比率の公表を義務付け(労働施策総合推進法)

従業員300人超の企業を対象に中途採用に関する情報の公表が義務付けられました。 中途採用者数の割合を公表することにより中途採用を促進します。公表は企業のホームページなどで 定期的に行う必要があります。経団連による「就活ルール」廃止などの影響で、これまでの新卒一括 採用から近年増加している「通年採用」へ移行する流れを後押しすることになりそうですね。

3. 失業者、育児休業者等への給付等を安定的に行うための基盤整備

(1)育児休業給付を失業等給付から独立した給付と位置付け(雇用保険法)    育児休業給付は、平成6年に作られた制度ですが、給付総額が増加して、今では失業給付に匹敵する額 になっているそうです。法律は給付金の額を賃金の40%相当と定めていますが、暫定措置として、 当分の間、給付率を「50%(休業を開始した日から180日までは67%)」としていました。今回、 雇用保険給付の体系を見直し、育児休業給付を安定的に行えるようにしたうえで暫定措置である給付率 「50%(休業を開始した日から180日までは67%)」を恒久化することとなりました。

(2)雇用保険料率の弾力条項の見直し(労働保険徴収法)

(3)雇用保険の保険料率および国庫負担引下げの時限的措置を2年間(令和2~3年度)に限り実施     (労働保険徴収法)

(4)雇用保険二事業に係る弾力条項の範囲拡大(労働保険徴収法)

(労働新聞社編「まる分かり2020年改正 労働基準法・雇用保険法・労災保険法・高年齢者雇用安定法」より)

特定社会保険労務士 末正哲朗


カテゴリー:所長コラム


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