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これからの全世代型社会保障について

2019年12月02日

今年ももう12月。年齢を重ねるたび、こわいくらいに時間の経過がどんどん早くなるものですね。今年は「老後資金2,000万円」が話題になりました。金融庁が6月に公表した報告書の内容で、老後の生活には、2,000万円が不足するということが世間的に大きく取り上げられたわけですが、ある調査によると今年60歳になる人の4人に1人は貯蓄ゼロということだそうです。そういうことになると、これからは健康なうちは働き続けることが必要だし、そして年金制度に頼らざるをえないことも現実でしょう。しかし、アメリカの会社がまとめた2019年度の年金制度の国際ランキングによると、日本の年金制度は先進国を中心とする37の国と地域のうち31位だったと発表されています。政府の債務の多さや私的年金の加入を強制していない点などにより「持続性」が低いと評価されたためです。学習院大学教授の鈴木亘先生が新聞に社会保障についての記事を載せていました。それによると、今年の9月に社会保障改革を集中的に議論するため政府の「全世代型社会保障検討会議」が立ち上げられたそうです。この検討会議では社会保障の給付と負担だけの議論ではなくて、社会保障を支えるには経済成長が必要という認識に基づいた改革を目指していて、70歳までの就業機会の確保、兼業・副業できる環境整備、年金受給開始年齢の選択肢拡大などが話し合われています。期待されるのは業界団体の利害調整で立ちいかなくなっている厚生労働省に代わって、高齢者医療や介護の自己負担の引き上げ、軽度要介護者への給付範囲見直しといった懸案事項を、官邸主導で決断できる環境が整ったところに意味があるそうです。

日本の社会保障の最大の問題点は、年金、医療、介護といった各制度が社会保険方式をとっているのにもかかわらず保険料収入を大幅に上回る給付を続けていることです。その差の赤字額は、毎年50兆円にも及んでいて、その赤字額は全額を税金で補填しています。当然、それは税収で賄いきれず財政赤字として国の借金になっています。日本の政府債務は、約1,100兆円に達していて先進国の中で最悪と言われていますが、その最大の原因は社会保障の赤字にあります。日本の対外債務が非常に少ないことや海外資産が多いことなどから日本経済は破綻しないとも言われていますが、現在の社会保障制度が、毎年約50兆円もの赤字を出している現状をそのままにしておくことはできないのではないでしょうか。

今回の検討会議の名前につけられている「全世代型」ということの意味ですが、若者向けの給付を増やすということだけではなくて、世代間格差を是正することにあります。いくら幼児教育が無償化されても将来それを上回る負担増が押しつけられたり、受け取る年金額が減らされたりされるなら全く意味がないことになりますよね。

また、今回の検討会議では、年金財政の議論は含まれていません。今年の8月末に年金の健康診断といわれる財政検証が公表されているために政府は問題なしとしているようです。財政検証では、年金制度の100年安心が確保されたとするケースがいくつか公表されています。そのケースにおいては、運用利回りが経済成長率を2%以上も上回る想定になっていますが、運用利回りと国債の金利は長期的にあまりかい離しないものなので、国債の金利が経済成長率を上回り続けるとしたら、巨額の債務を抱える政府は、税収が金利支払いに追いつかず、理屈上、財政破綻にしてしまうことになります。日本は経済成長が必要なのに、経済成長をしすぎると国債の利払いができず財政が破綻してしまうという結果になるということです。

年金財政が厳しい状態にあることは、政府の長期見通しが立てられているためよくわかります。しかし、残りふたつの医療や介護は、年金よりもはるかに給付の伸びが高いにもかかわらず全く先が見えていないのが現状ではないでしょうか。年金は受け取りを我慢することは可能だとは思いますが、医療は出来ません。病気で苦しんでいる人をそのままにしておくことなんて出来ないからです。医療や介護についても、年金と同じように「見える化」することが急務です。もう私たちの子どもや孫へのツケ回しは許されないところにきているようです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

ハローワークで544件を不受理 違法企業の若年者求人

厚生労働省の集計によると、若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)に基づく求人申込みの不受理扱い(職業紹介の一時保留含む)件数が、544件に達していることが分かりました。 ハローワークは、求人内容が違法な場合等を除き、すべての求人を受理するのが原則です(職安法5条の5)。しかし、最近の法改正で、「求人者が労働関係法令違反で処分・公表措置を受けたとき」も不受理とする規定が新設されています。その第1が、上記の若者雇用促進法の規定で、学校卒業見込者等を対象とします。施行は平成28年3月1日で、544件という数字はこの施行日から令和元年6月までの累計です。その第2は、職業安定法の改正で、適用範囲を一般の全求人申込みに拡大します。新卒者と同様に、労基法、最賃法、職安法、均等法、育介法等の違反企業が対象になります。施行は来年3月30日で、若者促進法の施行後と比較し、不受理件数は大幅に増大すると見込まれます。

繰上げで最大84%の増額 年金改革で厚労省が試案

厚生労働省の社会保障審議会では、次期年金制度改正に向け、具体的な検討を進めています。被用者保険の適用拡大(短時間労働者への適用拡大等)や繰下げ制度の柔軟化・在職老齢年金制度の見直し等が課題として挙げられています。このうち、繰下げ制度について、上限年齢を70歳から75歳に引き上げる方向性が示されました(現行は70歳まで)。高齢者が自身の就労状況等に合わせ、年金受給の方法を選択できる幅を広げるのが目的です(繰上げは従来どおり、60歳まで)。新しい調整率として、繰上げは1カ月0.4%、繰下げは同0.7%という数字が提示されています。受給年齢を限度いっぱいの75歳まで繰り下げた場合、年金額は通常の65歳受給時と比較して、最大でプラス84%となる計算です。

◆送検

特別条項の枠超え残業命ず 休日労働含め183時間 高岡労基署

富山・高岡労働基準監督署は、6人の従業員に違法な時間外労働をさせたとして、電子部品メーカーと同社の富山工場長を富山地検高岡支部に書類送検しました。同工場では、1カ月70時間を限度とする特別条項付き時間外・休日労働(36)協定を結んでいましたが、受注が集中するなか、3カ月にわたって従業員6人について限度時間を大幅に超える時間外労働に従事させました。時間外労働の上限は、令和元年度(平成31年4月1日以降を対象とする36協定が対象。中小企業は1年の経過措置付)から1カ月100時間未満等に設定されています。同工場の違反が生じたのは、それ以前でしたが、時間外労働は最長の者で1カ月106時間、休日労働も合わせると183時間に上っていました。


カテゴリー:所長コラム


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