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「裁量労働制の議論をとおして」

2018年03月26日

先月、働き方法案が、国会で議論が始まり、「脱時間給制度」の導入や裁量労働制の拡大が含まれており野党から問題視されているけれども、やっと今回で決着がつきそうですね~~なんてことをお伝えしましたが、法案提出前の予算審議で裁量労働制にかんする不適切なデータが出てきてしまい、これを機に野党は裁量労働制に対する攻勢を強めており先行きが不透明になっています。

そもそも長時間労働をさせることや残業代の支払いをしないことを合法とすることを目的にした裁量労働制の導入は、制度の悪用としか言いようがありませんが、本来は時間にとらわれない働き方のほうが生産性は上がるという仕事もあるはずです。雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は著書「マネジメントの基礎理論」で、仕事そのものを楽しいと感じている人は、自ら頑張るようになり、長時間労働もいとわず、そのうえ会社を辞めないものだと言っています。経営者、社員に限らずですが、同じ考えを持つ方も多いように感じています。当然、職種や仕事の内容にもよりますが(裁量労働制が導入できる職種は限定されている。)、好きなだけ頑張ることができる機会までを会社から強制された長時間労働といっしょに考えて議論するのは何か違うような気がします。

裁量労働制の拡大は、良くも悪くもこれからの労務管理においてとても影響が大きいことなので今後が注目されるところなのですが、最近、感じるのは先ほどのように一方だけから物事を見て判断してしまうと本当の現実から目を背けさせてしまうことになるのではないかということです。

最近、読んだ本ですが、近藤明美氏、藤田久子氏、石田周平氏編著の「がん治療と就労の両立支援」(日本法令)に、興味深いことが書いてありました。がん治療後の職場復帰にあたっては、その社員自身にも、一定程度の努力が求められるというのです。つまり、がん治療からの職場復帰には、それなりに職場に負担をかけているということを、社員自身が踏まえて行動することが求められており、具体的には、①治療をきちんと受け、体調を整える、②「がん」だということですべて配慮されるべき、と誤解しない、③配慮に関しては感謝する、④いつかは自分が配慮する側になることを目標にする-などが挙げられています。

ようするに、「配慮」というのは、通常では行わないことだと自覚することが必要だということです。人は、障害や制約をもつ人に対して出来るだけの支援を行うべきであることは当然のことですね。その一方で、支援を受ける側が感謝の気持ちを持つことも大事なことです。一定の配慮が必要となる事情や時期は人により違えども、誰にでも生じる可能性のあることです。双方の気持ちが通じなければ良好な関係は成り立ちません。だからこそ、日頃から職場において「お互い様」の気持ちを持つ必要があるということが書かれていました。

この話は、がん治療からの職場復帰に限らず、育児や介護など全てに通じることなのではないでしょうか。お互いの立場を尊重できなければ、いろいろな考え方や価値観の人が集まる職場は居心地の悪い場所になってしまいます。

今の日本が、「働き方改革」を推し進めている背景は、高齢者、若者、育児・介護をしながら仕事をする方たちがさまざまな制約を持ちながら働くことを支援していくことで、労働者一人ひとりが納得できる働き方、人間らしい働き方を実現することにあります。

なにひとつ制約を受けないで一生働き続けられる人などいるわけもなく、家族や職場の同僚など周囲の人の協力によって成り立っているのだということを忘れたくはないものです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

参考文献:「マネジメントの基礎理論」海老原嗣生著 プレジデント社

「がん治療と就労の両立支援」近藤明美、藤田久子、石田周平編著 日本法令


カテゴリー:所長コラム


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