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「電通事件の本質」

2017年08月08日

東京へ出張に出かけたときのことです。日本橋を歩いていると、向こうのほうで、何やら多くの人たちがそば屋さんの前でワアワア騒いでいるので、なんだろうと思い近くまで行ってみました。何を言っているのか聞いてみると、「不当解雇反対!○○屋は、解雇を撤回しろ!」と。日本橋の街中のちっちゃいそば屋に向かってですよ。個人加入の労働組合なんでしょうね。東京は、すごいなあと思ってしまいました。

週刊誌の「東洋経済」によると、現在、社労士バブルだそうです。たしかに数か月前から、ひっきりなしに長時間労働対策や監督署の調査対応などの相談が入ってくるようになりました。きっかけはご存じの通り、「電通事件」ですね。電通事件について経営者側弁護士の石嵜先生がお話しされていたことをご紹介したいと思います。

平成28年10月7日に、電通の女性新入社員の過労自殺の遺族記者会見が行われました。亡くなった女性社員は、毎日、朝方に帰宅し、睡眠時間は、2、3時間しかとれないまま翌日も通常通り出社する日が続いていたそうです。そんな彼女は、出社するときも髪はボサボサで、睡眠不足のため目は赤く充血していたそうです。その彼女に対し、上司は「女なのにそんな格好で会社に出てくるな!」と怒鳴っていたそうです。

ぼくは、電通事件が大きく社会問題となったのは、亡くなられた女性社員が、若くてキレイで、東大卒で、母子家庭でとその背景が社会の同情を引いたのではと正直なところ思っていました。

その労災認定後、通常であれば1年以上の時間がかかるところ、H28.9.30労災認定の2週間後に立入調査、その約3週間後に厚生労働省が強制調査、H28.12.28電通と亡くなった社員の直属上司が書類送検と驚くほどのスピードで処理されています。これは、なぜなのか。明らかに、電通はスケープゴートにされ、政府は長時間労働の削減という流れを一気に進めるという結果をもたらしたということです。

「若くてキレイで、東大卒で、母子家庭に育った女性社員」が、過労自殺したということが、事の本質ではなくて、「女性」社員が職場環境によって殺されたということが大きな問題だということだそうです。

今、政府は「1億総活躍社会」の実現をしようとしています。どんどん女性を労働力として働かせようとしているそのさなかに、電通事件で明らかになったのは、男性中心の古い職場環境で女性を働かせると女性は耐えられないということだったんです。これまでの日本の経済成長を支えてきた昭和チックな労働環境が、今も根強く社会には残っています。それは、男性正社員を中心とした長時間労働やパワハラといったものが特徴です。

考えてみれば、ぼくの会社員時代もそのものでしたよ。会議では、「おまえなんかその窓から飛び降りてしまえ!」って言う上司がいたり、仕事を片付けるため日曜日に休日出勤したら、上司がいて5時間くらい説教されたりとか。今から思えば笑い話みたいなことですけど、現在の職場にもあるんでしょうね。こんな職場に弱い女性を入れるわけにはいかないじゃないですか。「1億総活躍社会」の実現には、どんな人でも健康に元気に働くことのできる職場にすることが必要です。石嵜先生によると、だからこそ電通事件をきっかけにして世の中の流れを大きく変えていったのだということでした。

企業は黒字であることが絶対に必要です。黒字だからこそ社員の生活を守ることが出来るから。

しかし、これからは長時間労働やパワハラをなくし、社員の健康を守るということが、良質な人材の確保につながり、それが企業の発展をもたらすという前向きな議論を行うことが必要なようです。

 

特定社会保険労務士 末正哲朗


カテゴリー:所長コラム


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