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「同一労働同一賃金法案が成立」

2015年11月09日

「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」(同一労働同一賃金推進法)が、今年の9月16日から施行されていることは、ご存じでしょうか。法律の名称通り雇用形態による待遇格差などの是正を目的とした法律です。そして、法律の内容を見ると、派遣労働者の待遇改善に力点がおかれているようです。また、時期を合わせて改正労働者派遣法が、9月30日に施行されました。この改正法でも、「業務の内容、責任その他に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図る」と派遣社員の待遇改善を条文の中で定めています。

今回、正社員と派遣社員との格差として取り上げられているのが、「派遣社員には、交通費が出ない」というケースです。派遣社員の時給は、平均1,351円となっており、他の契約形態よりも高くなっていますが、交通費は支給されていないケースが多く、派遣で働くデメリットとされています。改正法の省令では、派遣会社と有期で契約している人について、派遣会社の正社員になっている人と同じように働く場合には通勤手当に格差を設けないよう盛り込まれています。また、格差の是正策は賃金の本体部分にもあって、例えば、派遣会社が派遣先企業から受け取る派遣料金が上がった場合には、派遣社員の賃金も「可能な限り引き上げるよう努める」となっています。こちらのほうは、強制力のない努力義務ですが、派遣社員にとっては賃上げの可能性がぐっと高まります。もうひとつ大きく変わるのは派遣の契約期間が、終わった時です。「雇用が不安定になる要因」(厚生労働省)として、派遣会社に対し、契約終了という理由だけで派遣社員を解雇することを禁じました。このように、派遣社員の待遇改善に動く背景には、何があるのでしょうか。

週刊東洋経済(10/17号)で、「中年フリーター273万人の実態」として、バブル崩壊直後に新卒だった世代がフリーター化していて、その数は非正規全体の1割強に上ると取り上げられていました。中年フリーターの問題が深刻なのは、家計を支えなければいけない立場であるにもかかわらず、低い賃金で雇用も安定していないということにあります。非正規の平均月収は約20万円となっていて、年齢を重ねてもそれほど賃金は上がらないのが特徴です。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する調査」によると、壮年(35~44歳)非正規の相対的貧困率(等価世帯所得が雇用者全体の中央値の半分以下の人の割合、同調査では年収150万円以下を貧困と定義)は男性で31.5%にもなっていて、壮年非正規男性の3人に1人が貧困状態にあります。この数字には、中年フリーターの人達が好んで非正規の仕事をしているわけではないということに問題があって、非正規に就いた主な理由である「正規の職員・従業員の仕事がないから」が半数近くになっています。

これからは、その中年フリーター達が高齢化によって働けなくなる人が増加します。貯金がなく年金も少ないとなると、とても生活できません。生活保護受給世帯は今年6月時点で162万人と過去最多になっており、その半数近くを占め、伸び続けているのが高齢者世帯です。

同一労働同一賃金推進法は、そういった中で成立しました。同一労働同一賃金は、外国で広く用いられている考え方で、同じ職務なら年齢や企業に関係なく基本的に賃金は同じとなります。

しかし、当初の推進法では、「職務に応じた待遇の均等」とされていましたが、同じ職務であっても責任やその他の事情に応じてバランスがとれていればよいことに修正されました。人の能力を重視する日本では、なかなか導入が難しいようですね。

特定社会保険労務士 末正哲朗


カテゴリー:所長コラム


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