採用の約束はどこから契約になる ~ 企業を守る採用手続き
2026年10月01日
労働新聞(9月21日号)に「不埒な内定取消許されぬ」と、内定取消しが例年に比べて増加していると報じていました。前年度に内定が取り消された件数は80人となっていて、前年の15人から目立って増えているそうです。過去にはリーマンショックのとき、取消件数が2143人にもなって大きな社会問題になりました。当時は急遽、法改正され、取消しを行う際には事前に公共職業安定所へ通知するというルールが設けられました。また、対象者への説明が不十分である場合には、事業所名の公表もできることになっています。埼玉労働局は相談件数の内容で、「採用内定取消」が令和7年度において過去最多となっていることに「人手不足下で採用計画数を確保するため、辞退者が出る前提で多めに内定を出したところ、辞退者が少なく、内定取り消しに至るケースが増えているのでは」と分析しています。
法的に「内定」というのは「解約権を留保した就労始期付労働契約」といわれ、内定通知と誓約書提出によって労働契約成立となります。合理的な理由がない内定取消しは、解約権の乱用に当たるという裁判例もあります(大日本印刷事件昭54.7.20)。現在の企業側の「人手不足」は、一方で学生の立場を強くすることにもなります。先日、ある企業の採用担当者の方から「採用内定を出した学生に入社誓約書の提出求めたところ拒否された」という相談がありました。詳しく理由を聞いてみると、その学生から「第一志望の企業に内定をもらえたら、この内定はお断りするつもりです。」とハッキリと言われたそうで、こういう場合の内定通知はどうしたらよいかということでした。担当者の腹ただしさがよくわかったので、誓約書の提出が内定条件と書いておいたらどうですかと話しましたが、ずいぶんと時代は変わったものです。
他にも、他県でコンサルタントをしている知人から、顧客である会社が求人票の応募者に内定を出し、労働条件通知書で入社後の勤務地について「最終的な配置は会社の人事権により決定する」と説明したところ、その内定者から提示された求人条件とは大きく異なる労働条件を一方的に押し付けられたとして、渡された労働条件通知書も労働基準法に定められた要件を満たしておらず、違法書面であり、労働基準監督署へ刑事告発すると会社に書面で通知してきたがどう対応したらよいかという相談がありました。その書面には、こういったことを指導している法律家には懲戒請求を行うとも書いてあります。その社長さんから話を聞きましたが、入社誓約書を書いてもらうために労働条件の説明をしたところ態度が豹変したそうで何が悪かったのかわからないと話されていました。たしかに、労働条件通知書は2024年4月1日施行の法改正で、労働条件通知書には「就業場所」と「業務範囲」について、雇入れ直後だけでなく将来の変更の範囲を明示することが義務化されています。労働基準監督署は、労基法違反の刑事告発があれば、こういった軽微な違反であっても受理することになっているので、会社が書類送検される可能性は高いです。このケースでは、まだ誓約書の提出がないということであったので、労働契約は成立しておらずそもそも企業側に責任は発生しないともいえますが、契約自体は口頭でも成立するものなのでどういうやりとりがあったかが問題となりそうです。
今回の件では、労働契約がいつ成立するのかということがとても大事なことだと再認識することになりました。内定は、「始期付解約権留保付き」の労働契約といい、「実際に働き始める日(始期)」までの期間は、使用者側に契約を解約できる権利(解約権)が留保されている契約です。典型例は「新卒採用の内定」です。ただ、解約権が留保されているからといって簡単に解約できるわけではなく、働く日までに病気になったり、学校を卒業できなかったりなどの理由に限られて解約が認められることになるので、無制限に解約できるわけではありません。あやふやな状態でいつから働くということだけを決めてしまうのは、とてもリスクがあると理解しておかないといけませんね。
特定社会保険労務士 末正哲朗
◆最新・行政の動き
各事業場における36協定の締結を支援するための体制も拡充しています。全国の働き方改革推進支援センターに、特別条項の締結や柔軟な労働時間制度の活用を支援する「専門相談窓口」を設置し、さらに、労基署の労働時間相談・支援班と同センターのチームにより、36協定や特別条項の締結に関するアウトリーチ型の訪問支援を展開します。
一律的な指導などをめぐっては、日本成長戦略や骨太の方針で見直しの必要性が指摘されていました。「労基署において、重大・悪質な事案に対しては厳正に対応しつつ、労働時間や労働者の健康確保措置に関する労使の合意にのっとった指導が行われるよう速やかに見直す」などと記載されていました。
◆ニュース
地域別最賃は、中央最低賃金審議会が示した引上げ額の「目安」を踏まえ、各地方審議会の調査審議を経て決定しました。目安額は、東京などAランクの地域が54円、福岡などBランクと沖縄などCランクの地域が56円としていました。
答申では、33府県が「目安」を上回りました。引上げ額が最も大きいのは65円の佐賀で、目安を9円上回りました。以下、鹿児島が64円、高知と沖縄がともに63円などと続いています。
改定後の最賃最高額は東京の1280円で、最低額は宮崎の1085円です。最高額と最低額の差は現在の203円から8円縮まり、195円となります。最高額に対する最低額の比率も83.4%だったものが84.8%に改善し、金額・比率面ともに地域間格差が縮小します。
経済産業省は、足元で企業の業績・株価が上昇する一方、成長投資の拡大や持続的な賃金上昇に十分に結び付いていない「新たなパラドックス」が生じているとして、構造的な課題解消に向けた「成長投資ガイダンス」をまとめました。賃上げを含んだ成長投資拡大を求めています。
成長投資拡大に当たっては、今後の労働供給制約社会において、賃上げは単なる分配政策ではないと強調。人材を惹き付け、生産性向上投資を促す「供給力強化政策」そのものであり、「成長戦略の起点」になると位置付けました。企業には、現状維持に留まらない生産性向上や事業再編に取り組み、収益力の底上げ、賃上げにつながる好循環を広げることが期待されるとしています。
投資が進まない背景は、赤字のセグメントへの投下資本が多いと分析しました。低収益の事業への投資が固定化され、成長領域への資源配分が十分に進んでいないとしています。同ガイダンスについて赤沢亮正経済産業大臣は「普及を通じて果敢な成長投資を促し、賃上げを含む成長投資を後押ししていきたい」としました。
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