福利厚生の充実
2025年12月01日
ここ数年の初任給の上昇スピードはまったく衰える兆しを見せません。大企業に中小企業はなかなかついていけないというのが実情ではないでしょうか。そこで最近、よく聞くのが賃金面以外の労働条件について、充実させる企業が増えているということです。「福利厚生」というのは、休暇制度、住宅手当などの各種手当、研修制度などさまざまなものがあります。ある調査によると、学生が企業選びにおいて重視していることの上位は「福利厚生が整っている」(44.3%)、「給与の高さ」(39.8%)、「職種に興味がある」(32.8%)となっていて、福利厚生の注目度が最も高くなっています。また、「企業の福利厚生について魅力を感じるものは何か」という調査では、「休暇制度(病気休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇など)」(53.8%)が半数以上でトップとなり、「働き方(フレックスタイム制度、テレワークなど)」(50.8%)、「住宅(社宅、住宅手当など)」(37.5%)が次いだということです。就活で企業を選ぶ際は、仕事内容や企業の規模、給与などさまざまなポイントがあると思いますが、その中でも福利厚生が充実しているかどうかも重要なポイントになっているようです。
トップに挙がる休暇制度ですが、相談を多く受けるのが「入社時の有給休暇付与」制度です。労働新聞が行った調査では、首都圏の求人企業770社のうち27.1%の209社が制度に取り組んでいるそうです。この数年で年次有給休暇の計画的付与の活用が増えていることや入社直後の体調不良による欠勤で賃金が減ることを避けられるということもあって、導入する企業は増えています。また、住宅手当を支給する企業も増えています。その支給額の幅は広くて、5000円程度から20000円を超える手当を支給する中小企業も見られます。住宅手当の支給は、遠隔地からの人材募集という意味もあるので、若い人材を募集するにはとても有効な手段だと思います。
人間はどのようなときに不平不満を持つものなのか、コンサルタントの一倉定先生が昭和基地の越冬隊の例を示しています。「4か月間にわたるプラトー基地に向けた雪上の移動は困難を極めた。基地にたどり着く前の2週間は、標高三千メートル以上の希薄な空気で、氷点下60度に近い極寒を、ブリザードに襲われる中、移動を続けた。眠る間もない悪戦苦闘の末に、ようやく基地にたどり着いた。基地で一休みした以後の移動は順調だった。天候は回復し、気温は上がり雪上車のスピードも上がった。しかし、環境が順調になると、まず食事に対する不満が起こった。そしてちょっとしたことでも、空気がトゲトゲしくなったのである。同じ人間が、基地にたどりつく前の2週間の悪戦苦闘の間には、食事に対する不満どころか、食事をする間も惜しんで、難関突破に全員一致して死力を尽くしたのである。『人間とは奇妙な動物だ』と隊員は語った。」
一倉先生は「立派な本社ビルを建てると、かえって不満とホンワカ・ムードが高まることは、しばしばである。」と言います。不満というのは物理的環境が悪い時には起こらず、良くなった時に起こるものといわれます。「人間は満足感を持てば、その瞬間から働かなくなり、進歩も止まる。人間とは、このようなやっかいな動物なのだ。」そうです。
特定社会保険労務士 末正哲朗
◆最新・行政の動き
小規模事業場ストレスチェック 手引作成へ議論開始 厚労省・有識者検討会WG
厚生労働省は、ストレスチェックの実施義務が労働者50人未満の事業場まで拡大することを受け、小規模事業場向けの実施マニュアル作成に向けた有識者ワーキンググループの初会合を開催しました。
初会合では厚労省が、関係労働者の意見聴取や、実施者となる外部委託先の選定、調査票、医師の面接指導、集団分析・職場環境改善、プライバシー保護などの論点ごとに、対応案を示しました。
高ストレス者に対する面接指導については、労働者が安心して申出しやすくなるように、事業者に直接申し出るのではなく外部委託先を経由して申し出るなど、具体的な方法を記載するとしました。
ストレスチェックの実施や個人結果の通知・保存、面接指導の実施・申出勧奨、事後措置の各段階におけるプライバシー保護のあり方も検討事項に挙げました。厚労省は、面接指導を行う際の個人結果の取扱い方法として、事業者を経ずにストレスチェック実施者である外部委託機関が面接指導を担当する医師に直接提供すること、または本人が直接持参することを求める案を提示しています。
ストレスチェックの実施義務の対象事業場の拡大は、今年5月公布の改正労働安全衛生法に盛り込まれました。努力義務とされていた50人未満の事業場にも実施を義務付けるもので、令和10年5月までに施行されます。マニュアルは来年3~4月頃の公表を予定しています。
◆ニュース
外食産業の現状を分析 エリア責任者 心身負担大きく 過労死防止白書
白書では、エリアマネージャー(スーパーバイザー含む)、店長、店舗従業員(接客)、店舗従業員(調理)といった職種ごとに、労働時間の状況やハラスメントを受けた者の割合などを示しました。
それによると、1週間当たりの平均労働時間が60時間以上の労働者割合は、外食産業全体で14.9%なのに対し、エリアマネージャーは24.0%、店長は29.0%と、店舗の責任者に長時間労働の傾向がみられました。
パワハラやセクハラの経験割合についても、エリアマネージャーがとくに高い水準にあります。たとえば、パワハラの類型の1つである精神的な攻撃の経験割合は22.0%に上り、産業全体(13.6%)との差が大きくなっています。カスハラを受けた経験がある割合も、エリアマネージャーが30.0%で最も高く、店舗従業員(接客)が21.3%、店長が19.5%などと続きます。
15%が偽の会議案内クリック サイバー攻撃訓練で 東商
日常的に目にするオンライン会議の案内メールでも、心当たりがない場合は注意を――東京商工会議所は、会員の中小企業84社1146人を対象に行った電子メールによるサイバー攻撃訓練の結果をまとめました。「オンライン会議への参加案内」を装ったメール内のURLをクリックしてしまった参加者は14.9%に上りました。そのうち31.0%が「怪しいと思ったが、開いてみないと判断できないと思った」としています。
訓練は2019年から毎年、偽装メールの内容を変えて行っています。各社が事前に提出した社員のメールアドレスに、訓練を請け負う会社から偽装メールを送信するもので、今回のメールでは、本文の「参加情報を確認する」という文字の下にURLを配置していました。
過去の訓練では、「偽の研修案内」のクリック率が7.8%、「偽のシステム提供者からの通知」では6.1%だったのに比べ、今回は倍以上となっています。東商では、企業の経営者や人事担当者に向けたセミナーの開催を通じ、従業員への啓発を呼び掛けていきます。
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