国民皆保険を守るために
2026年03月02日
先日の衆議院選挙で圧勝して第二次高市政権が誕生しました。連立を組む日本維新の会は選挙戦で現役世代を中心とする社会保険料の負担軽減を訴えたこともあり、政権が直面している最大の課題は社会保険料の負担軽減となります。自民党で単独過半数を占める政治基盤で、支払い能力のある高齢者の負担増に踏み込めるかが注目されています。
日本維新の会は、医療費を年4兆円減らし、現役世代の保険料を1人当たり年6万円引き下げるとしています。社会保険料の負担は、40~60代でいえば、この20年間で1世帯当たりおおむね月2万円、40歳未満も月1万円以上増えていますが、70代はというと月6400円ほどの増加に過ぎません。(日経新聞2026.2.11)改革の方向性として、医療の窓口負担について「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」「高齢者の定義見直し」としています。75歳以上の1人当たり国民医療費(平均95.4万円)は現役世代(0~64歳の平均21.8万円)の約4.4倍ですが、厚労省によると75歳以上の後期高齢者医療制度の2023年度の財政状況は、制度の支出を賄うための現役世代が負担する交付金は7兆1059億円と前年度から6.1%増加し、3年連続で過去最高を更新しています。75歳以上となる団塊の世代が増えたので、医療費を押し上げました。その後期高齢者医療制度の収入のおよそ5割は税金で、あとの約4割は現役世代が加入する健康保険制度が交付金という形で負担する仕組みです。しかし、現状では、75歳以上の高齢者の窓口負担は1割なので、どうしても現役世代には不公平感が残ります。
では、なぜ日本の社会保険料の負担感がこんなに大きくなってしまったのでしょうか。OECD諸国の社会保険料が収入に占める比率を見ると日本が最も高くなっています。一方で税の割合は低いことがわかっています。例えば、年収300万円ほどの世帯では、収入に占める所得税と住民税の負担は5%程度ですが、企業負担も含めた会社員の実質的な社会保険料負担は30%にもなります。給料が上がらなかった過去20年間において、社会保険料は上がり続けてきたわけです。なぜかということですが、所得税や消費税を上げるには、税制改正のプロセスを経て国会において法改正されなければならないのですが、社会保険料は厚労省の省令もしくは審議会の決定で上げることができる仕組みだからです。(2026.3.6PRESIDENT「年金・健保・所得税の正体」)
昨年末に中小企業の従業員が多く加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)が、2026年度の平均保険料率を9.9%と前年度比0.1%下げると決めたと報じられました。2012年度以降、平均料率を10%で維持してきたわけですが、ここ数年の高水準の賃上げが背景となり収支が15年連続の黒字となり、準備金も大きく積みあがっていることからというのが引下げの理由です。現役世代は給料が増えても手取りが増えない理由はここにありそうです。ただ、今後、賃金が直近10年の2倍の実績で伸び続けても2035年度には収支が200億円の赤字になるといわれていて厳しい状況に変わりはありません。また、こども家庭庁はこの4月分の給与から社会保険料に上乗せして「支援金」の徴収を始めます。収入が400万円の場合、被保険者1人当たりの負担額は労使合計で月767円(支援金率0.23%)となります。この8年度は総額6000億円で、10年度には1兆円と段階的に引き上げが予定されています。10年度の負担額は8年度の1.7倍になる見込みです。
日本歯科医師会の伊藤智加専務理事は、「女性の平均寿命が90歳を超え、100歳まで元気でいることが特別でなくなる時代となりつつある。その平均寿命の延伸は、国民皆保険制度の賜であるとも言われている。」「国民皆保険が実現する前は、医療を受けられずに亡くなる人も大勢いたと推察されるが、制度の成立によりその恩恵を国民が平等に受けられることとなった。」(「週刊社会保障」2025.12.15)と話します。国民皆保険で日本人の寿命が20歳ほど延びたわけです。こんなに恵まれた制度は、日本の他にありません。この制度をこれからも維持できるよう、そもそもの「相互扶助の精神」に立ち返る必要があるのではないかと思います。
特定社会保険労務士 末正哲朗
◆最新・行政の動き
改正同一賃金ガイドライン 記載拡充し10月施行 住宅手当などを追加 厚労省
厚生労働省は、非正規労働者の待遇を改善するため、同一労働同一賃金ガイドラインや関係省令を改正し今年10月に施行する方針を明らかにしました。
同ガイドラインについては、待遇差などに関する考え方をさらに明確化する見込みです。これまで記載がなかった退職手当、家族手当、住宅手当などを対象に、原則的な考え方や「問題となる例」などの記載を追加します。たとえば、家族手当については、「相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければならない」旨を明記します。
転居を伴う配置変更の有無に応じて支給する住宅手当に関しては、通常の労働者と同一の転居を伴う配置変更がある短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同じ手当を支給することとしました。賞与に関する記載も充実させる見込みです。
省令を改正し、通常の労働者との待遇差に関する説明義務の運用改善も図ります。雇入れ時の労働条件明示事項に、待遇差の内容・理由や、待遇決定に当たって考慮した事項の説明を求めることができる旨を追加し、短時間労働者などの雇用管理改善指針(告示)においても、待遇差に関する説明方法を見直します。「資料を活用し、口頭により説明することを基本」としていた方法を改め、「資料を活用し、口頭で説明」または「説明事項すべてを記載した資料の交付」により行うこととしました。
指針ではさらに、公正な評価による待遇改善を促進する観点から、短時間・有期雇用労働者の賃金について、職務内容などの評価を昇給に反映するなど、公正な評価に基づく決定が望ましい旨を明確化する見込みです。処遇改善に関する自社の取組み事項をウェブサイトで公表することも推奨しています。
◆ニュース
自爆営業もパワハラ 10月から指針で明確化 厚労省
厚生労働省は、パワーハラスメント防止に向けて事業主が講ずべき措置に関する指針を改正し、いわゆる「自爆営業」がパワハラに該当することを明確化します。同指針の改正を含む告示案要綱について労働政策審議会に諮問し、「妥当」との答申を受けました。今年10月から適用する予定です。
同指針では、職場におけるパワハラについて、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害される――の3つの要素を満たす行為と定義しています。
改正後の指針では、商品の買取り強要など、事業主が労働者に対し、自由な意思に反して自社の商品を購入させる行為に関する言動について職場におけるパワハラの3要素をすべて満たす場合にはパワハラに該当する旨を明記します。
そのほか、労働者が自身の性的指向・性自認を他者に開示する「カミングアウト」を強要する行為が、パワハラに該当し得る旨を示しました。カミングアウトを禁止する行為も同様としています。
土日祝定休を試行 三井不動産レジ 営業社員の見学同行廃止
中高層住宅の賃貸事業などを展開する三井不動産レジデンシャル㈱は今年5月から、一部の物件を担当する営業社員約30人を対象に定休日を土日祝に変更します。モデルルームの見学に同行する商慣習を見直し、運営スタッフによる案内と平日のオンライン商談を拡充していきます。
同社には約300人の営業社員が在籍しており、定休日は水・木となっています。土日祝定休の別職種から異動を打診した際、「子どもの学校行事に参加できない」などの理由で抵抗を示されることがありました。
育児・介護中でも活躍できる環境の整備に向けて、2021年には約5人を対象に「日曜定休」を試行開始しました。23~25年にオンライン商談を実施した顧客440人に対するアンケートでは、約85%が対面商談と遜色ないと回答しています。従来は住宅販売センターに出向かなければ得られなかった情報が遠隔で得られる点などが評価されました。今後の反響次第では、全営業社員への適用も検討しています。
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