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ビジネスと人権

2025年09月10日

平成27年から石川県中小企業団体中央会より外国人技能実習制度適正化事業の専門家として、石川県内の技能実習生を受入れている協同組合や企業の訪問を始めて今年で10年目になりました。この外国人技能実習制度は、1993年に創設されており、その制度の目的は、日本で培われた技術などを開発途上国へ移転して、その地域の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという国際協力が基本であって「労働力」ではないとされてきました。しかし、実習生を受け入れている企業の経営者から聞こえてくるのは、「実習生がいないと会社は立ちいかない」という切実な声です。

制度創設の頃は、中国からの受入れが中心でしたが、中国の経済発展とともにその数は減少し、受入国はベトナムにうつり、昨年あたりからはインドネシアやミャンマーからが増え始めているようです。これはその国の経済力の大きさを表しているようです。当初の日本のGDPは、1国でアジア全体の国を合わせても約2倍の規模を誇っていましたが、現在は約10分の1程度に縮小してしまっています。それだけ、日本に比べて、他のアジア諸国の経済力が強くなっています。つまり日本に来なくても、自国で働いて十分な収入が得られるのであれば日本で働く必要がないのです。いまや日本の経済を支えている技能実習制度ですが、失踪や過酷な労働条件によるトラブルが頻発したこと、また実習生は転職ができないため、日本は外国人労働者を低賃金で強制労働に就かせていると諸外国からは人権保護の観点から非人道的と批判されてきました。

「カカオ2050年問題」をご存じでしょうか。気候変動が原因で、2050年にチョコレートが食べられなくなるかもしれないといわれています。国連機関の報告書によると平均気温が上昇するとカカオが生育しなくなり、生産量が大幅に減少してしまう可能性が高いといわれています。また、カカオ産業での「児童労働」は特に深刻な状況にあるといわれます。児童労働とは、義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のことをいいます。カカオの生産現場は過酷な状況にあるといわれていますが、そこでは多くの子どもたちが働いています。

最近は日本企業でも「ビジネスと人権」への関心が高まっています。企業活動が社会、経済、環境に与える影響は無視できなくなっていて、「製品に責任を持つ」から「生産の在り方に責任を持つ」へと深化しています。人権を無視して大きな損害を生じさせたあるアメリカのアパレル企業があります。2013年にバングラデシュで8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落して少なくとも1132人が死亡する事故が起こりました。この事故がきっかけで自分たちのファッションが劣悪で安全基準が欠如した労働環境から生み出されていたことを知ることになり、ヨーロッパで大規模な不買運動が起こりました。その事故により失われた売上高は約1兆4000億円といわれています。このようにビジネスにおける人権侵害が企業の経済活動に与える影響は無視できなくなっていますが日本での取り組みは世界に遅れているといわれます。

こういった中で今、日本の繊維業界の取り組みが注目されています。繊維業はこれまで対象外だった外国人材受入れの特定技能制度をスタートさせました。繊維業界では技能実習生に対する労基法違反の事例が多くあったといわれています。しかし、特定技能制度の開始にあたり、業界独自の要件を設定しました。それは「国際的な人権基準を遵守し事業を行っていること」「勤怠管理を電子化していること」「パートナーシップ構築宣言の実施」「特定技能外国人の給与を月給制とすること」の4つです。この追加要件の設定は、単なる労働力確保にとどまらず、業界全体の労働環境と企業文化の改善を促す契機になるのではないかといわわれています。

20年前は、技能実習生が日本で3年働けば帰国後には家が3軒建つといわれ、日本で働きたい外国人はたくさんいました。その頃から比べると、日本を取り巻く状況は大きく変わりました。技能実習制度は、2027年に育成就労制度として生まれ変わります。今後は選ばれる日本となるための行動が求められそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

遺族補償年金 男女差解消を提言 厚労省労災研究会・中間報告

厚生労働省の「労災保険制度の在り方に関する研究会」は中間報告書をまとめ、遺族(補償)等年金における夫と妻の受給要件の差の解消などを提言しました。

現行の遺族(補償)等年金は、被災労働者の遺族である妻が年齢にかかわりなく受給できるのに対し、夫の場合は労働者である妻の死亡時に55歳以上か、一定の障害がある状態でなければ受給できません。中間報告書では、夫と妻の支給要件に差を設ける合理的理由を見出すことは困難と指摘し、要件の差を解消することが適当としました。差を解消する方法については、夫の要件を撤廃すべきとの意見が大半を占めたとしています。

労働災害が長期的に減少傾向にあるなかで存在意義が問われていたメリット制については、一定の災害防止効果があるうえ、事業主の負担の公平性の観点からも一定の意義が認められるとし、労災かくしを助長するといった懸念はあるものの、制度の意義を損なうほどの影響は確認できなったとして、「今後も存続させ、適切に運用することが適当」と結論付けました。

今後、提言内容について労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会で議論を進めます。

◆ニュース

男性の育休取得40% 前年度から大幅上昇 雇用均等基本調査

 厚生労働省がまとめた令和6年度雇用均等基本調査結果で、男性の育児休業取得率が初めて4割を超えたことが明らかになりました。4年10月1日~5年9月30日の1年間に子供が生まれた男性労働者の取得率を調べたもので、6年10月1日までに産後パパ育休を含め育休を開始した割合は前年度調査の30.1%から10ポイント以上増え、40.5%に達しました。

 育休を取得した男性のうち、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる産後パパ育休を取得した者は60.6%でした。有期契約で働く男性の育休取得率は33.2%で、前年度の26.9%より6.3ポイント上昇しました。

 業種別に男性の取得率をみると、鉱業・採石業・砂利採取業(67.7%)や、金融業・保険業(63.6%)、学術研究・専門・技術サービス業(60.7%)で6割を超えました。一方、生活関連サービス・娯楽業(15.8%)や不動産業・物品賃貸業(19.9%)は2割未満と、業種間の差が大きい状態です。

運転者の採用倍増 完全週休2日制導入へ 名正運輸

愛知県を中心に関東・東海・関西エリアに拠点を持つ名正運輸㈱は、トラック運転者の完全週休2日制を実現し、各種手当による給与増を図ったことで、昨年度の採用人数が50人に上ったと明らかにしました。例年の20~30人から大幅に伸び、運転者の総数が300人を超えています。

新制度の適用は今年4月ですが、昨年から募集要項で予告し、採用人数の増加につなげたといいます。完全週休2日制の導入により、年間休日を96日から104日まで増やしています。

給与に関しては、全従業員の平均で10~15%アップしました。子育て世代への生活支援として、「家族手当」を新設。20歳以下の子どもを扶養する社員に対して、1人当たり月1万円を支給します。中堅・ベテラン層向けには「プロドライバー手当」を導入しました。勤続2年目から月1000円を支給。勤続年数に応じて上がっていき、10年目に上限の1万円まで高める仕組みとしています。

無事故だった場合に支給する「安全手当」や、非喫煙者と禁煙中の者に支給する「健康手当」なども増額しています。

同社は日給月給制で一部に歩合給を導入していますが、その割合を下げ、基本給を3000円から6000円に増額しました。同社の広報担当者によると、トラック運転者に完全週休2日制を導入する企業はまだ少なく、「しっかり休めて、安定した給与がもらえる」ことを魅力にしていく考えです。


カテゴリー:所長コラム


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