人事・労務のエキスパート、石川県金沢市の社会保険労務士法人 末正事務所。人事・労務管理相談、社会保険労働保険手続き、紛争解決、組織活性、給与計算、人材適正検査まで、フルサポートします。

seminar

seminar

contact

ブログ

年収の壁対策

2023年11月01日

「年収の壁」解消に向けた対策が決定されています。年収の壁とは年収が一定額に達した場合、税金や社会保険料の支払い義務が生じる収入の水準を指します。住民税の課税対象となる「100万円の壁」、所得税の課税対象となる「103万円」の壁、要件を満たした場合に社会保険の加入が必要になる「106万円」の壁、社会保険の扶養から外れる「130万円」の壁、配偶者特別控除が受けられなくなる「150万円」の壁、などがあります。そのうち、特に影響が大きいとされるのが、手取りが急に減ってしまう「106万円」と「130万円」の壁です。今回は、その2つの壁に対策がとられました。まず、「106万円の壁」対策として、従業員の手取り減少対策に取り組んだ企業に対し、従業員一人当たり最大50万円の助成金を支給されます。次に、「130万円の壁」には、連続2回までは130万円を超えても扶養にとどまれるようにするとされました。これらの支援策は、2025年の年金制度改正までの措置として10月から開始となっています。

「年収の壁」があるために、パート労働者は勤務時間を減らすなど就労調整を行うために人手不足となるといわれます。特にこれからの年末に向けては、社会保険の扶養から外れないように勤務時間を減らすパートが増えるといわれます。「本当はもっと働きたい。でも損はしたくない。」と考えて働く時間を短くすることがないように、企業に助成金を出してパートの賃上げや労働時間増を促したり、一時的な「壁超え」については柔軟な対応を認めたりすることでパートの年収が減らないようにするというのがねらいです。ですから、企業はパートを社会保険に加入させると助成金がもらえるとかパートはたくさん働いてたくさん給与をもらっても扶養から外されないという意味ではないことに注意ですね。

こういった対策は、これまでパートに就労調整を迫られてローテーションが組めずに人手不足に陥ってきた企業にとっては朗報ですし、パートにとっても収入増となります。ですが、ここでいう106万円と130万円には、計算方法に大きな違いがあるので注意しなければなりません。106万円の計算方法は、毎月の給与の基本給と手当を足した額となりますが、そこに通勤手当や残業代、賞与などは含まれないことになっています。ですから、パートやアルバイトが、これからの年末に向けての繁忙期にいくら残業しても壁超えを心配する必要はありません。もう一方の130万円の計算には、毎月の決まった給与に加えて残業代や賞与はもちろんその他の不動産収入や配当収入なども合算することになっていますので、年末にむけてしっかり計算する必要があります。

この「年収の壁」の問題には、社会保障制度の公平性の問題が隠れているといわれています。現在、専業主婦など会社員に扶養される配偶者は、「第3号被保険者」といわれ働きに出ても社会保険料を支払う必要はないのに、支払った人と同じだけの国民年金の老齢基礎年金を受け取ることができます。この優遇制度がそもそも現在の社会情勢に合っていないのに、今回の対策では、そういった人の収入が一定額を超えても、国が実質的に保険料を肩代わりして手取りが減らないようにすることになるので、これでは優遇に優遇を重ねることになるのではないかという意見があります。ただ、今回の対策は3年程度の時限措置で2025年の年金制度改革に合わせた「つなぎ措置」にすぎないということです。すでに来年10月から従業員数51人までの事業者に対して厚生年金への加入義務を拡大することが決まっていますが、今後は50人以下の事業者にも拡大することが検討されています。

これからは、多くのパートの人たちは年収を減らす選択をしない限り、社会保険に加入して保険料を負担することになるようです。そうなると、当然、企業の負担する保険料も増加します。岸田首相は、最低賃金(時給)の全国平均について「2030年代半ばまでに1500円となることを目指す」と言っているわけですから、人件費は、社会保険料の企業負担分である15%を加えると1725円となります。小売業や飲食業、宿泊業などパート依存度が高い業界はかなり厳しい状況となりそうです。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

手当支給企業に助成金 3年間で1人50万円 厚労省・「年収の壁」支援パッケージ

厚生労働省は、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せずに働けるようにするための「支援強化パッケージ」を発表しました。

社会保険に関する「年収の壁」には、従業員100人超企業で週20時間以上勤務した場合に厚生年金・健康保険に加入して保険料負担が生じる「106万円の壁」と、配偶者の被扶養者から外れる「130万円の壁」の2種類があります。

「106万円の壁」対策として、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を設置します。賃上げや、労働者負担分の保険料に相当する手当支給などを行う企業に対して、労働者1人当たり最大50万円を助成します。令和7年度までの時限措置で、1事業所当たりの申請人数に上限は設けません。企業が手当により肩代わりした本人負担分の保険料相当額については、保険料算定の基礎に含めません。

「130万円の壁」対策では、一時的な増収によって130万円を超える際、事業主の証明を添付することで、連続2年まで被扶養者に留まれるようにします。

10月中に改正雇用保険法施行規則を公布し、同月1日に遡って適用する方針です。

◆調査

総争議件数は減少傾向 令和4年「労働争議統計調査」の結果

 厚労省は令和4年「労働争議統計調査」の結果を公表しました。令和4年における総争議は270件(前年比27件減)で、元年に次いで2番目に低く、減少傾向にあります。このうち、ストライキなどの争議行為を伴う争議は65件(同10件減)で、伴わない争議は205件(37件減)でした。

争議の主な要求事項は、「賃金」に関するものが139件で、総争議件数の51.5%と最も多く、次いで「組合保障及び労働協約」が103件、「経営・雇用・人事」が98件となっています。

4年中に解決した労働争議は206件で、総争議件数の76.3%を占めています。解決方法は、「第三者関与による解決」が68件に上り、「労使直接交渉による解決」が54件でした。

争議行為を伴う争議を産業別にみると、件数は「医療、福祉」が22件で最も多く、「情報通信業」が13件、「製造業」が11件で続きます。


カテゴリー:所長コラム

30年の意味

2023年10月02日

2023年は「最も暑い夏」となりました。気象庁によると、6~8月の全国の平均気温が1898年の統計開始以来最高だったと発表しています。日中、外回りでエアコンの効いた車内にいても日差しは厳しいし、車を降りて外に出ると一気に体温が40度になるような感覚を受けたのは初めてのように思います。「十八史略」に「四時の序、功を成す者は去る」という言葉あるそうです。四時の序とは春夏秋冬の順序をいうそうで、春は春の役割を精いっぱい果たして夏にその立場を譲っていく。夏は夏の役割を精いっぱい果たして秋に譲っていく。秋は秋の、冬は冬の役割を果たして次の季節に譲っていく。このように四季が巡るように、人もまたそれぞれの役割を果たして次の人にその立場を譲っていかねばならない、ということだそうです。人も同じです。いろいろな人が功を成して去っていき、その積み重ねの上に自分たちがいる、ということですね。また、同時に、自分たちが今ここにいるのは、自分の役割を果たすためであることを肝に銘じなければならないと思います。今年の「夏」は、というより、今年の「夏」も、頑張りすぎていましたね。

哲学者の森信三氏は、「人生は正味三十年」と言いました。「この人生に対して、多少とも信念らしいものを持ち出したのは、大体三十五歳辺からのことでありまして、それが多少はっきりしてきたのは、やはり四十を一つ二つ越してからのことであります。ですから、もし多少とも人生に対する自覚が兆し出してから、三十年生きられるということになると、どうしても六十五、六から七十前後にはなるわけです。」「このように考えて来ますと、人間も真に充実した三十年が生きられたら、実に無上の幸福と言ってもよいでしょう。」加えて、森氏は「ずいぶんぜいたくな望みとさえ思われる」と言っています。この30年というのは、言い得て妙ではないでしょうか。人生100歳といわれるようになりましたが、「人が真に活動する正味ということになるとまず三十年そこそこのものと思わねばならぬでしょう。」「人生もその正味は三十年として、人生に対する一つの秘訣と言ってよいかなと思うのです。」とも森氏は言っています。(致知出版社「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」より)中国には、「十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年にして歴史なる」という格言があるそうです。これは企業にもあてはまることだと思いますが、経済産業省のデータによると、1年以内で廃業する会社の割合は、27.2%、2年以内では39.1%、3年以内では47.2%、5年以内で58.2%となって、起業から10年後に残っている企業は約26%にまでなるそうです。企業を30年存続させてこそ、役回りを果たしたといえるのかもしれません。ぼくは36歳の時に社労士事務所を開業して20年になりますが、まだまだ10年は頑張って社会のお役に立てるようにしないといけないですね。

家具売り大手の「イケア・ジャパン」が制服への着替え時間について「従業員に賃金を支払っていなかったこと判明した」と報じられました。イケア・ジャパンはテレビの取材に対して、「着替え時間に関しては、関係法令に明文の規定もなく、判例上の基準も曖昧な部分があることから、実務上見解の分かれる点について不明確性をなくし、従業員有利の方向で明確な取扱いを設定するものとしました」とコメントしています。その上で、今後は着替え時間を1律5分とし、1日10分間を労働時間に含めるとしたそうです。メディアは、2000年3月に最高裁が「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間とし、着替えを義務づけられた制服などへの着替えも労働時間に当たるとの判断を示していると報じていますが、一方で「入門後職場までの歩行や着替え履替えは、それが作業開始に不可欠なものであるとしても、労働力の提供のための準備行為であって、労働力の提供そのものではないのみならず、特段の事情のない限り使用者の直接の支配下においてなされるわけではないから、これを一律に労働時間に含めることは使用者に不当の犠牲を強いることになって相当とはいい難く、結局これをも労働時間に含めるか否かは、就業規則にその定めがあればこれに従い、その定めがない場合には職場慣行によってこれを決するのが最も妥当である。」(昭56.7.16最高裁第一小法廷判決)として労働時間としなくてもよいとするものもあります。まるでイケアが賃金未払の違法行為を行っていたかのような報道の仕方には疑問を感じますが、最近は疑わしきは労働時間とする傾向があるように思いますし、以前と違って余計なトラブルにならないように事業主はとても気を遣っているようにも感じています。良くも悪くも、これが世の中の流れなので、合わせていかないといけませんね。

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆ニュース

43円引上げ1000円超に 24県が「目安額」上回る 最賃答申

 厚生労働省は8月18日、全国すべての地方最低賃金審議会で令和5年度の地域別最低賃金の改定額を答申したと発表しました。47都道府県の引上げ額は39~47円で、改定後の全国加重平均額は43円(4.47%)上昇して1004円になります。上昇額は「目安」制度の創設以降で最も高く、24県で中央最低賃金審議会が示した「目安」を上回りました。

改定後の最高額は東京の1113円で、愛知、京都など5府県が新たに1000円を突破します。最低額は岩手の893円で、最高額に対する比率は80.2%。改定額は10月上~中旬に発効します。

◆調査

副業者が60万人増加に 就業構造基本調査

総務省は5年ごとに就業状況を調査しており、今回は昨年10月1日現在で実施しました。

有業者は6706万人で、前回調査の2017年に比べ85万人増加しました。無業者は4313万人となり、163万人減少しました。非農林業従事者のうち、副業がある者の割合は4.8%の305万人となり、17年と比べて60万人増加しました。現在就いている仕事を続けながら、他の仕事もしたいと思っている追加就業希望者は7.8%の493万人で、17年から93万人増加しました。

追加就業希望者比率を都道府県別でみると、東京都と沖縄県が10.2%で最も高く、次いで神奈川県と京都府が8.8%で続いています。育児中の者のうち有業者の占める割合は85.2%(17年比5.9ポイント増)でした。介護中は58.0%(同2.8ポイント増)で、どちらも増加傾向にあります。


カテゴリー:所長コラム

名前をつける

2023年09月01日

今年の夏の甲子園大会も注目するところがたくさんありましたが、興味を引かれたのは「仮面ライダー兄弟」です。佐賀県代表の鳥栖工の兄弟バッテリーのことですが、その兄弟の名前は、兄がアギト(晶音)で弟はヒビキ(響)。「平成仮面ライダー」シリーズの主人公で、「仮面ライダーアギト」(2001年)と「仮面ライダー響鬼(ヒビキ)」(2005年)と名前が同じなんですね。他の選手もすっかり読めない名前ばかりで、時代を感じます。ちなみに、「絶対読めないキラキラネームランキング」というのがあって、1位「男」、2位「心姫」、3位「紅葉」となっています。順番に「あだむ」「はあと」「めいぷる」だそうです。読めませんね。子供の名前を決めるのは、人生の一大イベントといってもいいくらいだと思います。あるアンケート調査によると、1位は「こう育って欲しいという願いを込めた漢字や言葉を入れる」、2位「対面した印象で決める」、3位「季節や植物、自然からのイメージで決める」となっています。ぼくは自分の息子の名前には「拓」の文字を入れました。一人息子なので、なんとか自分で人生を切り開いていけるようにと願ってのことです。

もっと話を大きくします。本来、「拓」という文字にはもっと広い意味があるようです。月刊誌「致知」(2023.9)の特集「時代を拓く」には、「時代を拓くとは自分を拓くこと、自分の運命を拓くことである。一つの時代に対し、自分の運命を拓いていける人にして、初めて時代を拓くことができるのである。」と書かれていました。森信三氏の「修身教授録」にある言葉ですが、「実は真実の道というものは、自分がこれを興そうとか、あるいは「自分がこれを開くんだ」というような考えでは、真に開けるものではないようです。(中略)では真実の道は一体いかにして興るものでしょうか。それには「自分が道を開くのだ」というような一切の野心やはからいが消え去って、この身わが心の一切を、現在自分が当面しているつとめに向かって捧げ切る「誠」によってのみ、開かれるのであります。」とあって、「自分が開くんだ」と思って開けるものではなく、無我夢中に打ち込んできた結果だということだそうです。「時代を拓くとは自分を拓くこと、自分の運命を拓くことである。一つの時代に対し、自分の運命を拓いていける人にして、初めて時代を拓くことができるのである。では、時代を拓くリーダーの条件は何か。一は時代の流れを読み、方向を示すこと。二は必死で働くこと。三は自分を磨き続ける。四は集団を幸福に導く。五は犠牲的精神(自分の都合より組織のことを優先する。)。六は宇宙の大法を信じ、畏敬し、その大法に則り行動する。この条件を徹底、反復、実行する人のみが天から力を授かり、時代を拓くのである。歴史がそれを実証している。」と特集記事は結んでいます。

果たせなかった夢をわが子に託す子育てを「リベンジ型子育て」というそうです。進学や経歴など自分が果たせなかったことを子どもに果たしてもらおうと考える親のことをいうそうですが、そこには親の熱心な思いはあっても、子供の意志がないということになります。「わが子にいい人生を送ってほしい」という願いは親なら誰しも持っているし、その思いを子どもの名前に託すことはよくあることです。しかし、その思いはどうも裏返しになりがちなようにも思います。ぼくが子どもにつけた「拓」という字ですが、たぶん自分自身に向けてのものだったのではないだろうかと思えました。

今年度の石川県の最低賃金は933円になります。過去最大の42円増となり、全国平均でも41円引上げて、初の千円超となる1002円を目安とした水準に達するようです。経営者側は原材料価格の高騰などで中小零細事業者の経営環境が厳しいとして難色を示したとのことですが、日本の将来を考えると良いことなのではないかと思っています。日本経済は「失われた30年」といわれる長期停滞に陥っていますが、そろそろその潮目が大きく変わるではないかといわれるようになってきました。その理由は、まず賃金の上昇です。次に企業の設備投資が上向いていること。企業の設備投資が、2023年度の名目設備投資は前年度比4.5%増の101兆円強、2024年度は105兆円弱に上る見通しで、100兆円超えは32年ぶりになり、2年連続の100兆円超えとなると史上初めてとなるそうです。あとは、将来に向けて日本企業の多くがGX、DXなどの技術革新をリードする力があることだといわれています。これからの日本経済の将来が楽しみです。

 特定社会保険労務士 末正哲朗

最新行政の動き

パワハラ防止法関連 2000社超を是正指導 相談は5万件に倍増 厚労省

厚生労働省は、事業主にパワーハラスメント防止措置の実施を義務付けた労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の施行状況を明らかにしました。

義務化の対象を中小企業まで広げた令和4年度において、全国に設置されている総合労働相談コーナーなどに寄せられた同法関連の相談件数は5万840件となり、2万3000件程度だった前年度から117.6%増加しました。相談内容は、パワハラ防止措置関連が4万458件(87.7%)を占めました。パワハラに関する相談を行ったことを理由とする不利益取扱い関連も1581件(3.1%)ありました。

相談などを受けて雇用管理の実態把握を行ったのは4899事業所。このうち2258事業所で同法違反がみつかり、是正指導しました。是正指導件数は計2546件で、589件だった前年度の4.3倍に達しています。

指導内容は、「パワハラ防止措置」が1655件で最も多く、以下、「事業主の責務(労働者への研修実施など)」が475件、事業主に対して自らの言動に注意を払うよう努めることを求める「事業主の責務(自らの言動)」404件、「パワハラ相談を理由とした不利益取扱い」12件と続きました。

◆ニュース

勤続期間の要件削除 退職金規定例を見直し 厚労省

 厚生労働省は、企業の参考となる「モデル就業規則」(令和5年7月版)を公表しました。

 従来のモデル就業規則では、「勤続〇年以上の労働者が退職しまたは解雇されたときに、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続〇年未満の者には退職金を支給しない」と記載。勤続年数による制限や、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取扱いを例示していました。7月版においては、これらの取扱いを改め、「労働者が退職しまたは解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する」としました。

 モデル就業規則では退職金の支給に関する留意事項として、「退職金制度は必ず設けなければならないものではないが、設けたときは、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、額の計算および支払いの方法、支払いの時期などを就業規則に記載しなければならない」と指摘しています。

性同一性障害 女性用トイレ使用制限は違法 トラブル想定し難い 最高裁

経済産業省で働く性同一性障害の職員が、女性用トイレの使用を制限されているのを不服とした裁判で、最高裁判所第三小法廷は国による使用制限を違法と判断しました。

職員は、生物学的な性別は男性ですが、平成11年に性同一性障害の診断を受け、20年からは私生活を女性として過ごすようになりました。21年7月には職場の上司に性同一性障害について伝え、女性の服装での勤務や女性用トイレの使用などを申し出ました。性別適合手術は健康上の問題から受けていません。

経産省は職員の了承のもと、同僚らを対象とした説明会を開き、終了後、職員による女性用トイレ使用について意見を求めたところ、数人の女性職員が違和感を抱いているように見受けられました。経産省は説明会を踏まえ、職員の勤務する階とその上下階の女性用トイレの使用を認めず、その他の階の使用を認める決定をしました。

職員は25年12月27日付で、女性用トイレの使用を含め、女性職員と同等の処遇をするよう人事院に求めました。人事院はいずれの要求も認めない判定を下しました。判定を不服とした職員が取消しを求める裁判を提起し、一審の東京地裁は人事院の判定を違法、二審の東京高裁は適法と判断しました。

最高裁は人事院の判定は裁量権の逸脱・濫用に当たるとして、違法と評価しました。2階以上離れた階の女性用トイレを使用するようになったことを理由とするトラブルは生じておらず、説明会でも明確な異論は出なかったと指摘。職員の置かれた具体的な事情を踏まえずに、他の職員に対する配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視した対応と強調しています。


カテゴリー:所長コラム

『働く』ことの意味

2023年08月01日

うちの息子はこの4月から新社会人となっていますが、だんだんそれらしくなっていく息子に対して父親としてどんな言葉をかけてあげたらよいか、ふと考えることがあります。昨年の8月24日に稲盛和夫氏が亡くなりましたが、稲盛氏の言葉は特別です。ぼくは盛和塾で稲盛氏に幾度かお会いできましたが、80歳もとうに過ぎており、本当に優しそうな方という印象しかありませんが、先輩の方々が稲盛氏を前にとても緊張している姿を見て、ものすごく厳しい方だったのだとうかがい知ることができました。そんな稲盛氏が86歳の時に、人生で一番大事なことは何かと聞かれ、「一つは、どんな環境にいても真面目に一所懸命に生きること。自分が自分を一つだけ褒めるとすれば、どんな逆境であろうと不平不満を言わず、慢心せず、今目の前に与えられた仕事に、それがどんな些細な仕事でも、全身全霊で打ち込み努力をしてきたこと。もう一つは、利他の心。皆を幸せにしてあげたいと強く意識し、生きていくこと」と答えられています。稲盛氏は、大学卒業後、京都の会社に入ります。いろいろとご苦労があり最初は嫌な会社だと思っていたそうです。そんな稲盛氏ですが、「仕事を好きになったこと、会社を好きになったこと、そのことによって今日の自分がある」と、そして「自分は素晴らしい会社で素晴らしい仕事をしているんだと、無理にでも思うようにし、脇目も振らず必死に研究に邁進したことで、仕事を好きになり、会社を好きになっていきました。それが一般的には不可能と思えるようなことをできるようになったベースだと思います。」。今年のWBCで侍ジャパンの監督を務めた栗山英樹氏は、稲盛さんに教わったこととして「いまの世の中って、仕事しすぎちゃいけない、『寝ないで仕事をしろ』とは言いにくい時代になりました。でも僕は仕事でしか学べないことがあると思っていて、寝ないで仕事に没頭するある一時期って大切だと思うんです。没頭し、やり切らないと見えてこない世界があるんです。稲盛さんもご著書の中で『仕事でしか人間形成はできない』と断言されています。」と話します。誤解されないように伝える必要がありそうですが、自分の息子にならそのまま言えますよ。最近は若者がすぐに会社を辞めてしまうと言われます。恵まれた環境にあるのに、それに気づかず、不平不満を言い、それで環境を変えたところでうまくいかないのが人生というものです。稲盛氏は「働くということは、生きていく糧を得るためのものだというのが一般的ですけれども、そうではなくて、自分の人間性を高めていくためになくてはならないものです。一所懸命働くことによって、自分自身の心を高め、自分の人生を精神的に豊かなものにしていく。同時に、収入も得られますから、物質的な生活も豊かになっていく。ですから、働くということは大変大事なことだと思っています。」と「働く」ことの意味を話されました。息子には物心共に豊かな素晴らしい人生をおくることができるよう、稲盛氏の言う『「働く」ことの意味』を伝えてあげたいです。 (参照:月間「致知」2022.12月号 致知出版社)

昨年、「先日、弊社のお客様の会社に年金事務所の社会保険の調査がありました。その際に永年勤続表彰制度により対象となった社員に支給された祝金が賞与にあたると指摘されることがありました。結果として追加で社会保険料の支払いを求められることになったわけです。」とお伝えしました。これ以来、一時金で支払う手当には社会保険料がかかりますと弊社のお客様にはお伝えしてきましたが、最近、事情が変わったようです。厚労省から、長期勤続者に対して支給する金品は、要件を満たした場合には賞与として扱わない旨の事務連絡が6月に出されていて、そこに3つの要件が挙げられました。まずは「①表彰の目的」です。「企業の福利厚生政策又は長期勤続の奨励金として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。」。次に「②表彰の基準」として「勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。」。最後に「③支給の形態」は「社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。」。3つの要件のうち一つでも欠けたら認められないということではなく、総合的に判断するということです。当時、いきなり「お祝金」は賞与にしてくださいと言われ、調査官が「納得いかないなら、訴えてください!」とまで言っていたことを考えると、よほど反対の声が多かったのでしょうね。おかしいことはおかしいと皆で声をあげることが大事なのだと思わせてくれた一件でした。 

特定社会保険労務士 末正哲朗

◆最新・行政の動き

労働移動円滑化 モデル就業規則改正 退職金の減額見直し 政府・骨太方針を閣議決定

政府は6月16日、政策の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定し、三位一体の労働市場改革を通じた構造的賃上げの実現と、「人への投資」の強化、分厚い中間層の形成をめざすとしました。三位一体の改革として、①リスキリングによる能力向上支援、②成長分野への労働移動の円滑化、③個々の企業の実態に応じた職務給の導入を進めます。

労働移動の円滑化に向けた施策には、退職金制度に関する労働慣行や退職所得課税の見直し、失業給付制度の見直しなどを挙げました。

民間企業の一部では、自己都合退職時の退職金の減額や、勤続年数・年齢が一定基準以下の場合に退職金を支給しないケースがあることから、厚生労働省が定めるモデル就業規則を改正します。勤続年数による制限を設けている点や、会社都合退職者と自己都合退職者とで異なる取扱いを例示している点を改めます。

退職所得課税については現在、勤続20年を境に勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額される仕組みになっています。これが積極的な離職を妨げているといった指摘もあるため、見直しを図る方向です。

また、現行の失業給付において、自己都合離職と会社都合離職とで受給までの期間に差があることから、給付申請前のリスキリング実施などを条件に、受給までの期間をそろえます。

能力向上支援では、教育訓練給付など個人に直接給付する支援策を強化。多様な働き方の推進にも注力し、選択的週休3日制の普及などに取り組むとしました。

◆ニュース

学習志向尊重し配属を 人材活用の指針策定 経産省

 経済産業省は、中小企業・小規模事業者の人材戦略を後押しするため、「人材活用ガイドライン」を策定しました。

経営課題を解決できる人材の採用・育成に向けて、人事評価制度の策定やキャリアパスの見える化を提案しています。自ら希望するキャリアを構築できるように、本人の学びたい内容を尊重・優先して配属先・転属先を決めるなどの配慮も必要としました。

また、企業が求める人材のタイプを「中核人材」と「業務人材」の2種類に区分したうえ、それぞれのキャリアの見える化の取組みも提案しました。中核人材には、経営にかかわるポジションへの登用を挙げ、業務人材に対しては、非正規から正規雇用へ転換する仕組みを示すことなどを提案しています。

ガイドラインと同時に中小企業50社の取組みをまとめた優良事例集も公表しています。

開店前納品を是正 運転者の時短図る 日本百貨店協会

日本百貨店協会は、2024年問題への対応として業界の慣行である開店前納品を是正し、納品リードタイムの緩和に向けた取組みを始めていると明らかにしました。アパレル・ファッション関連商品の納品を開店後にずらし、トラックドライバーの労働時間短縮を図ります。

百貨店業界では、各社が専門の納品代行事業者と契約を結び、数百に及ぶ取引先の商品が一括に納品される仕組みを構築しており、商品はいったん同事業者の物流センターに集められ、検品・仕分けのうえで開店前までに各店舗へ配送されます。

従来は慣例的に深夜に検品作業が行われてきましたが、納品時刻をずらすことで日中の検品を可能とし、早朝の配送業務を減らします。また複数台のトラックで納品している大型店舗において、1台で複数回配送する「ピストン運行」への移行や、納品回数を減らす「集約運行」を実現します。同協会では今後、雑貨などの商品に関しても同様の取組みを拡大したいとしています。


カテゴリー:所長コラム

学び直し

2023年07月04日

先日、お酒を飲んでタクシーで家に帰るときの話です。少し走ったところで、運転手さんがかなり高齢の方だったので、「交通系のカードは支払いに使えますか?」と聞いたところ「使えなくはないけど…」という返事だったので、「クレジットは大丈夫ですね。」と確認をして家に着きました。運転手さんにクレジットカードを渡すと、たどたどしい手つきで機械操作をすすめています。すると「お客さん、暗証番号を教えてください。打ち込むので。」と言われたので、「いやいや、それはありえないでしょう!」と断りました。押し問答が続いたため、文句を言おうと、ふとタクシー会社はどこなのだろうと車内を見回すと個人タクシーであることが分かりました。これでは文句を言っても仕方がないと思い、一緒に機械操作をしてなんとか支払いを済ませタクシーを降りました。経営コンサルタントの小宮一慶氏は、マーケティングでは、「お客様は自分の基準で一番を決める」、そこにはとても重要なヒントが隠されていると言います。お客様がモノを買うときは、「主観的に」自社を一番だと思ってくれるかどうかが必要であって、客観的に一番である必要はありません。例えば「日本一高い山は?」というと客観的な基準ですが、「日本一の百貨店はどこ?」になると主観的な基準に変わります。お客様にとっての「主観的一番」になれる要素をいかに見つけ出せるかどうかがビジネスで成功するために大変重要な要素になるということです。ぼくは、これから個人タクシーに乗ることはやめようと思いました。お客様はいつも勝手なものです。

「最近の多くの新入社員は、上場企業でも3年で辞めるつもりでいるらしい」という話を聞きました。企業は、新入社員に対して長く働いて欲しいと思って採用しているはずで、嫌ならいつでも辞めていいと思っている企業などありません。それは、1992年にノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカー教授が「企業は新入社員にコストをかけて教育訓練(人的資本投資)を行い、それにより高まった能力でその後その企業に貢献してもらうことで投資コストを回収するからである。」という人的資本理論にあります。そして多くの企業はマジメに人的資本投資を行う上で、社員の定着を図るのは当然ですし、そのために長く勤めるほど得をするような年功賃金や定年退職金は経済合理性にかなった制度であるということは労働経済学の実証分析で繰り返し確認されているとこれまではいわれてきました。しかし、最近の国が考えていることは少し違うようです。(参照:週刊社会保障N3216「時事評論」)

日経新聞(6月6日)で「終身雇用前提の退職金を見直し」と退職金税制の改正が報じられています。現在、退職一時金の税金は同じ会社に長く勤めるほど優遇されます。政府は、この長く勤めるほど優遇される税制の是正を目指すとし、また企業には勤続年数が短いと退職金を支払わない慣行をなくすように促すとともに硬直的な労働市場を見直して成長産業に人材が移動しやすくするそうです。

最近では、リスキリングの取り組みを検討する企業が増えてきていますが、リスキリングという言葉が先行していて、そもそもリスキリングはなぜ求められているのか、リスキリングとは何かを理解していない人も多いと思います。リスキリングとは時代の流れを見据えて今後必要とされるスキルや知識を新たに獲得する(企業がさせる)ことです。仕事の進め方が大きく変化したり、社会や産業構造が変化・進展するなどで、既存の仕事が減少または消滅して新しい仕事が作り出されることが予想されています。この変化に適応していくために新たなスキルを身に付け、今後のビジネスモデルの変化や技術革新に対応する準備をすることがリスキリングです。また、もうひとつ社会人の学びとして注目されているのが、リカレント教育です。リカレント教育は、学校を卒業して社会人として働いた後、自分が必要とするスキルを学ぶことをいいます。リスキリングは、主に企業側からの社員に対する教育の提供になりますが、リカレント教育は自らの希望や考えで新たなスキルを身に付けていくことに違いがあります。

岸田首相は、リスキリング、日本型職務給の導入、成長分野への円滑な労働移動の3つを「三位一体の改革」として進めるといいます。大手企業に就職すれば一生安泰という時代が終わり、生涯学び続けることでキャリアが充実し、人生が豊かになる。自分のキャリアは自分で描くことが、これから重要視されます。

(参照:ビジネスガイド2023.7「中小企業版「リスキリング」取り組みステップ」)

特定社会保険労務士 末正哲朗

身近な労働法の解説 ―LGBTとSOGI―

5月17日は「多様な性にYESの日」(国際的には「LGBT嫌悪に反対する国際デー」)です。また、6月は「プライド月間」(LGBTQ+の権利を啓発する活動が世界中で開催される月)です。

今回は、労働施策総合推進法に基づく指針における性的指向・性自認に関するハラスメント防止について解説します。

1.LGBTとSOGI

(1)LGBT・LGBTQとは

性的指向としてのレズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシュアル(両性愛者)と、性自認としてのトランスジェンダー(心と出生時の性別が一致しない人)の頭文字を取った言葉です。クエスチョニング(性のあり方を決めない人・決めたくない人)もいます。

(2)性的指向・性自認(SOGI)とは

恋愛感情または性的感情の対象となる性別についての指向のことを「性的指向(Sexual Orientation)」、自己の性別についての認識のことを「性自認(Gender Identity)」といいます。この頭文字であるSOGI(ソジ・ソギ)は、すべての人が持つものです。LGBTは当事者のみが対象で、SOGIはすべての人が持っている属性です。

男性に惹かれる人・女性に惹かれる人・どちらにも惹かれる人・どちらにも惹かれない人と、恋愛対象はすべての人それぞれです。また、「自分は男性(女性)」と思う人もいれば、「どちらでもない」「どちらでもある」と思う人もいます。身体的な性とSOGIの組み合わせは実に多様で、また、それぞれの性(身体・指向・自認)にはグラデーションがあり、時に揺れ動くものでもあります。

2.労推法(パワハラ防止)におけるSOGI

均等法(セクハラ防止)のほか、職場におけるパワハラ6類型の中で、該当するまたはしないと考えられる例のうち、SOGIに関連して次のようなものが挙げられています。

神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

該当すると 考えられる例

人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。

●個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

該当すると 考えられる例

労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。

該当しないと 考えられる例

労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(上記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す。

※SOGIに関する言動やSOGIに関する望まぬ暴露(アウティング)は、職場におけるパワハラの定義を満たす場合には、これに該当します。

SOGIに関する侮辱的な言動は、特定の相手だけではなく、周囲の誰かを傷つけます。自らのSOGIについて他者に伝える「カミングアウト」をしていない人がいることに留意しましょう。

自身を含めたすべての人の人権として捉え、尊重することが大切です。


カテゴリー:所長コラム



  • access
  • cubic
  • blog

pagetop